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世界の為に死んでくれ  作者: ソラ子
第三章 スティグマ
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スティグマ

「やぁ、おはよう」


「…………何なのお前、エスパーなの?伊藤さんなの?」


宿から出ると、お約束の様に第四勇者(フィーア)が立っていた。


「おはようございます」


「………ふん」


シノとアイルの反応までお約束。


昨日と違う点を挙げるとするのなら、彼の後ろに馬車が止まっていること。……王都へと向かう俺達のために、第四勇者(フィーア)が用意してくれたものだろう。


それと……もう一つ。第四勇者(フィーア)の隣に見知らぬ女性が立っていることだ。


歳は俺と同じ……いや、もしかしたら少し上かもしれない。


エメラルドの瞳、それと同じ色の髪をポニーテールにまとめている。


「ねー、隊長♪」


女性が第四勇者(フィーア)の肩を掴むと、彼は少しめんどくさそうな顔をした。俺がいつも第四勇者(フィーア)に向けるような視線だ。


「隊長が昨日言ってた好きな人ってどっち!?」


女性は目を輝かせる。


ハキハキとした喋り方に明るい声音。いわゆる元気っ子だ。


「右のちっちゃくてかわいい娘!?それとも左の一途そうな娘かな!?」


「真ん中の幸薄そうな()


「………隊長って『そっち系』の人だったの?」


アイルやシノではなく、俺を指差した第四勇者(フィーア)に、女性は顔を引きつらせて距離を取った。


「……………知り合い?」


念の為、シノとアイルに確認を取るが、予想通り、二人とも首を振った。


第四勇者(フィーア)のことを隊長と呼んでいるからには、戒める者(グレイプニル)の、それも4番隊の隊員なのだろう。


「………」


改めて女性を見る。


なんというか……騎士らしくない。


言動もそうだが、もっと根本的な部分で。


彼女は……騎士の制服を着ていないのだ。


可愛らしい普通の私服を着ていて、手にはグローブをつけている。


……長袖長ズボンで手にはグローブ。日差しに弱かったりするのだろうか、顔と首以外の素肌が見えない。


騎士らしい部分といえば……背中にある弓矢と、腰に刺している短剣だ。


「……ん?」


短剣……と言うには少し長い気がする。


それにあの見た目。剣というよりは"刀"だ。


脇差し……と言うのだろうか。長さはたぶん4〜50センチくらい。


剣と魔法の異世界にしては、えらく和風な武器。よくよく見てみると、彼女が背負っている弓もまた、どこか日本風だった。


街の風景とは合わず、多少の違和感を覚えるが……なに、別におかしい事はない。


ここは異世界。どんな事があっても不思議ではない。


第一、彼女が所属しているであろう王国騎士団の隊長は全員が日本人だ。その中に、武器に詳しいやつがいたっておかしくはない。


「なぁ第四勇者(フィーア)。その人だれよ」


「あぁ、紹介もまだだったね。彼女は……」


第四勇者(フィーア)が俺の問に答えようとしたまさにその時。


『バッ』っと、女性が勢い良く第四勇者(フィーア)の前に飛び出した。


「よくぞ聞いてくれました!」


胸を張り、高らかに声を張り上げる。


「いい?言うよ、言っちゃうよ?世紀の瞬間、これで第一印象きまっちゃうよ!?………それでは聞いてください!」


女性は大きく息を吸う。


()の名前はルミナード・アルマ!みんなはルミナって呼んでるよ!!!」


『バサっ!』っと、近くにいた鳥が一斉に羽ばたいた。………ような気がした。


「彼女を君たちの旅に同行させようと思うんだ。騎士団や王都の事情に詳しい人物が必要だろうからね。…………人選に関しては、一番暇そうなやつを選んだ」


『ひどーい』と、女性………ルミナードが講義の声を上げた。


俺みたいなお尋ね者の為に隊員を回すなんて……いや、今更か。


しかし、第四勇者(フィーア)は一つ大きな間違いを犯した。


ルミナードがどんな人物であろうとも、これは明らかなる人選ミスだ。


第四勇者(フィーア)………」


彼の肩を掴み、わざと悲痛な声を出してみせる。


「……?どうしたんだい?」


「駄目だ、駄目なんだよ第四勇者(フィーア)……。彼女とは一緒に行けない」


第四勇者(フィーア)は、頭の上にいくつものはてなマークを浮かべる。


「だって………。"ボクっ娘"はもうシノがいるんだ…………」


そう。これが彼女と一緒に行けない理由のすべてだ。


四人パーティのうち、"ボクっ娘"が二人。これがラノベなら怒られているだろう。


「なぁアイル。"ボクっ娘"ってなんだ?」


「私は聞いたことがありませんね」


シノとアイルの会話が聞こえてくる。……あの二人が"ボクっ娘"を知らないのは仕方がない。ここは異世界なのだ。


ボクっ娘……つまりは、一人称が『ボク』の女の子のことだ。


あ、ちなみに俺が好きなボクっ娘は、ぷ◯ぷよのア◯ルです。……いや、ロー◯ンメ◯デンの蒼◯石ちゃんも捨てがたい。


……俺がそんなことを考えていると、困惑した表情の第四勇者(フィーア)が口を開く。


「………なんだい、その……"ボクっ娘"っていうのは」


………ズドーン!


俺の頭の上に落雷。………こいつ、ボクっ娘を知らない?


いや、そんなはずはない。少しでもアニメを見たり、ネットサーフィンを嗜んでいたらすぐに入ってくる知識だ。


「あのさ……」


以前困惑したままの第四勇者(フィーア)に問いかける。


「………ごち○さって知ってます?」


「………知らない」


ごち○さを知らないだと……?


いや、そんな事があり得るのか?日本国憲法によって、視聴が義務付けられるアニメだぞ?


こいつは……同じ世界の人間というだけで、俺とは違う生き物なのかもしれない。


「すみませんなんでもないです。さぁ行きましょうルミナさん」


圧倒的なアウェー感。第四勇者(フィーア)は間違いなくリア充だ。消えてしまえ。


「ねぇ君!」


ルミナが第四勇者(フィーア)を押しのけ、俺の目の前に立つ。


「名前、教えてよ!」

 

そうか、こちらはまだ名乗っていなかったっけ。


「俺は双葉桜(ふたばさくら)。よろしくな、ルミナ」


「うん!よろしくね、()()()()!」


そして、ルミナと握手を交わす。


って、………ん?『さっちん』?


「おい、さっちんって………」


俺が問いかけようとした瞬間、もう目の前にルミナはいなかった。


「ねーねー、君たちは?」


目を輝かせ、アイルたちの名前を聞いている。


「私はアイル。アイル・コールです」


「………………シノ」


アイルは丁寧に、シノは少しだけ面倒くさそうに答える。


「アイるんにシーちゃんね、よろしくぅ!!!」


ルミナは二人の手を強引に握り、ブンブンと振った。


「元気だな……」


「それが彼女の取り柄さ。素敵だろ?」


「ま、明るくはなりそうかな」


三人娘を見つめながら、第四勇者(フィーア)と他愛のない会話をする。


「そろそろ出発したほうがいいんじゃないかい?」


「それもそうだな。………アイル、シノ!そろそろ行くぞー」


ルミナに絡まれている二人に声をかける。


「はーい。それじゃあ行きましょうか、ルミナさん。……………ルミナさん?」


アイルが不審な顔でルミナを見る。


理由は単純。いつまで経っても、ルミナが二人の手を離さないからだ。


「うふ……うふふ。美少女の手、ぐふふ。すべすべなんですけど……」 


遠目からでもわかる。ルミナは今ゲスい笑いをしている。


酔ったオヤジかこいつは。


そんな様子を見かねたのか、第四勇者(フィーア)が呆れたような声を出す。


「ふぅ……。御者も待たせているし、何より二人が嫌がっているだろう。そろそろ手を離してあげなさい。…………()()()()()


「…………」


その瞬間、ルミナの動きが……いや、時間が止まった。


『みんなはルミナってよんでるよ!』……先程の彼女の自己紹介を思い出す。高らかに、そしてドヤ顔で行っていた自己紹介を。


指摘は……しないでおこう。うん、そういう日もあるさ。


そして………そんな考えは、純粋無垢なシノさんには無いわけで。


「『ルミナ』って呼んでないじゃないか」


おいバカ、そっとしておいてやれ。そう心の中でつぶやく。


「………?どうしたんだ?」


微妙な表情のアイルに気が付き、シノは小首をかしげる。


当のルミナ本人は……


急に、二人の手を離し、再び第四勇者(フィーア)の隣にまで移動した。


そして……


「ぼ、僕の名前はルミナード・アルマ!みんなはルミナって呼んでるよっ!!!」


頬に汗を垂らしながらもう一度そう叫んだ。


時を……飛ばしやがった。スタンド能力者かこいつは。


「じゃ、じゃあそろそろ行こうか!ほら、さっちんも早く!」


「お……おう?」


困惑する俺の手を引き、無理やり馬車に押し込む。


「アイるんとシーちゃんも!」


ルミナに急かされ、二人も第四勇者(フィーア)に短く挨拶をして乗り込む。


「出発してよろしいんですか?」


「はい!なるはやで!」


ルミナの了解を得ると、馬車はゆっくりと進み始めた。


「サクラ!」


声に振り向くと、小さくなっている第四勇者(フィーア)が手を振っていた。


「またすぐに会える。それまで、しっかりやりなよ」


「おう」


俺の声は第四勇者(フィーア)には届かなかったかも知れない。だから小さく、右手を上げた。


振り向いて確かめたわけじゃない。だけど。


『ふっ、サクラらしいね』


そう、第四勇者(フィーア)が薄く笑ったような気がした。


「………」


隣に座るルミナを見る。


彼女は今も、アイルとシノにちょっかいを出していた。


………なんというか、大丈夫そう。すぐに仲良くなれるだろう。


一瞬、助けを求めるようなアイルの顔が見えた気がするが……そんなものは気にも止めず、流れていく町並みを見る。


見覚えのある場所。あまり記憶にない場所。様々な景色が流れていく。


思い出を語るには、この街にいた時間はあまりにも少ない。


景色も、人もまだまだ新鮮に見える。


だけど……


感傷に浸るには十分すぎる出来事が起こった。


ベーゼに対する世界の理不尽を知った。


大切な人を守れない自分の無力を知った。


俺はもう……何も無くしたくない。今この手にあるもの全てを大切に守っていきたい。


俺には『力』が無い。


そんなことはわかっている。努力でどうこうできるとも思わない。    


だけど。………それでも。


「……………」


"栄光の街グランツ"………この街で刻まれた記憶を、穿たれた傷を、俺達は一生忘れないのだろう。いや、忘れれるわけがない。


だけど……進もう。


悲しい記憶に潰されるのではなく、引きずってでも進んでいこう。


忘れることで乗り越えるのではなく、抱えたまま進んでいこう。みんなで。


「なぁ、ルミナ」


「どったのさっちん」


名前を呼ぶと、ルミナが美少女二人へのちょっかいを一旦やめる


「いや、なんでもないよ」


「………………」


本当は何でもなく無い。


早くルミナも大切な仲間に、俺にとっての『かけがえの無い人』になってほしい。


そしてルミナにとっての俺も、そんな存在になりたいと……そう思っていた。


だけど、ルミナみたいな可愛い娘の前で、そんな事を言うのは恥ずかしいじゃあありませんか。


「…………ふふっ」


それまで俺の瞳をジッと見ていたルミナが小さく笑った。


「僕も、早くみんなの『かけがえの無い人』になりたいな」

   

急に真面目な顔で、少しだけ頬を赤くしながらルミナはつぶやいた。


「あれ、今声に出てた?」


「顔に書いてたよ」


「え、俺ってそんなにわかりやすい?」


アイルに訪ねてみる。


「そんな事は無いと思いますが……」


アイルは記憶を辿りながら答える。


「ルミナさんの感は良く当たるのです!」


得意げに胸を張るルミナが、幼い少女のように見えた。


「ガキっぽい……」


シノはため息まじりに呟く。『面倒くさい相手が増えた』……シノの顔にはそう書いてあった。……あ、俺もわかった。


「あー!シーちゃん今面倒くさいやつって思ったでしょー!?」


「お、思ってない」


「うそだー!わかるんだかんねー!!」


「うっ……」


そんな二人の様子を見て、俺とアイルは小さく笑いあった。



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