少女誘拐事件の犯人
「ガスパーさん………なんで……?」
少女誘拐事件の犯人と思われる人物は……俺達が泊まっている宿の管理人だった。
「貴方たちは…フィーア様のご友人の……」
そこでガスパーさんも俺達に気がついたようだ。
「貴方は何をしにここに来たんですか」
訪ねたのはアイル。先程のスタークと全く同じ質問をする。
アイルは……疑っている。ガスパーさんが犯人なのではないかと。
だが俺は……まだわからない。親しいとは言えないが、知っている顔がそんなことをするなんて……
「先程も行ったとおり……ここには花を……」
「あの宿はあなた一人で切り盛りをしていると言っていたはずです。そんな貴方が宿を離れてこんな場所に?──答えてください。何でここに来たんですか?」
アイルの視線は、アイルの紡いだ言葉は、なんとも言えない迫力があった。ウソは許さない。そんな力が込められている。
「…………」
ガスパーさんは言葉に詰まる。これ以上何を言っても意味などないと悟ったのだろう。
「……何でもクソもねェよ。こいつが犯人で決まりだ」
そう言ったスタークの視線の先には、ガスパーさんが持っているロープと麻袋。
……ロープで自由を奪ってから、あの麻袋に入れて……。
「答えろ。連れ去ったガキ共をどこへやった」
狩られる側のガスパーさんには……逃げることなど出来なかった。
少しの沈黙のあと、ガスパーさんは意を決したように口を開く。
「………確かに女の子をさらっていたのは私です」
その瞬間にすべてが決まった。彼は自分の口で、犯人だといったのだ。
信じたくは……無かった。知っている奴が、ニーナをさらった犯人だなんて。
「だが………聞いてくれ!私はあるお方に命令されて!!」
ガスパーさん……いや、ガスパーはそう言ってスタークに縋りつく。
……あるお方?命令?
それが真実なら、実行犯であるガスパー以外に、本当の黒幕がいるということか?
だとすると、ここでこいつを捕まえただけじゃニーナを救えない。
「……質問にだけ答えろよクソ野郎。ガキ共をどこへ連れ去ったッ!!」
スタークは縋りつく手を振りほどき、その胸を思いっきり突き飛ばす。
「ひっ……」
ガスパーはだらしなく尻餅をつき、恐怖に彩られた瞳でスタークを見上げる。まさに、上下関係は明白だ。
「私の娘が人質に取られて……助けてほしければ小さな女の子をさらって来いと脅されて……」
「はァ………。わッかんねェやつだなァ、呆れを通り越して可愛く見えちまうぜ」
スタークはめんどくさそうにため息を吐きながら、腰を下ろし、ガスパーと視線の高さを合わせた。
そして、ガスパーの右手をそっと握り、自らの顔の高さまで持ってくる。
「…………?」
ガスパーの顔にはてなが浮かぶ。見ている俺も、スタークが何をするつもりなのかわからない。
するとスタークは、ふいに。
ガスパーさんの人差し指を……その関節を………
思いっきり逆に折り曲げた
グキィ!と、嫌な音が響き渡る。
「ぐあぁぁぁぁぁぁ!!」
ガスパーさんの悲痛な叫び声が木々の間を駆け巡り、その様子を見たアイルとシノは思わず目をそらす。
もちろん俺も、正直見ていられなかった。そこまでする必要があるのか、そう思ってしまう。
……人間の指は、あんな方向には曲がらない。確実に……折れている。
「おい、スターク!手荒な真似はよせ。話を聞くだけでも……」
あのお方。命令されて。
ガスパーは気になることをいくつか言っていた。話を聞く価値は十二分にあるはずだ。
ガスパー以外に、黒幕のような人物がいるというのなら、ニーナはそいつのもとに送られたばかりだというのなら……まだ生きている可能性は……。
いや、可能性じゃない。ニーナは絶対に生きている。そして……救うんだ。俺達で
「おい、なりそこない。今までどれだけのガキが誘拐されたか知ってるかァ?」
「………詳しくは知らない」
「10や20はとっくに超えてんだよ。戻ってきたやつどころか、死体一つ見つかってねぇんだ」
スタークが提示した情報に、電撃が走る。
20を………こえてる?
小さな小学校なら、一クラス分に匹敵する人数じゃないのか?
これが本当だとしたら……俺が思っている以上にこの事件は凶悪だ。
「『手荒な真似はよせ』だとか『話を聞こう』なんて状況はとっくに終わってんだよ」
スタークの言葉に、俺は何も言えなくなってしまう。
彼の言ってることは間違いではない。
誘拐した少女をどこに連れて行っているのか。その答えで、ニーナの居場所と、黒幕の情報も知ることができる。
手荒とはいえ、スタークは一番早い手段を取っているに過ぎない。
「なァ、早く答えろよ。『連れ去ったガキ共をどこへやった?』………早く答えてくれねェとよォ…………。折る指が無くなっちまうだろォ?」
スタークはガスパーに向き直りってからニヤリと笑い、次の指に手をかける。
ガスパーは全身から汗を吹き出し、体も小刻みに震わせた。今彼の目に映るスタークの姿は……鬼か、はたまた悪魔か。
「私が連れ去った少女は……」
そして、今度こそスタークの質問に対して、的を得た回答をする。
だが、その回答は、彼がここに来た時よりも俺達を驚かせた。
「第三勇者様のお屋敷に連れていきました……。私に女の子を攫うように命令したのも……第三勇者様です」




