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世界の為に死んでくれ  作者: ソラ子
第三章 スティグマ
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きっと。絶対。

「静かに。誰かが結界の中に入ってきた」


シノから発せられた言葉は、その場にいた全員に緊張を与えた。


「本当か、シノ」


俺の問いかけに、シノは頷く。


「いま入ってきたばかりだから、まだ距離はある。またボクだけ残して近くに隠れてくれ」


シノの言葉に俺とアイルは頷き合い、身を隠そうとしたが……


「おい、お前も隠れろ」


戒める者(グレイプニル)の青年……スタークが一向にその場を離れようとしないことに気が付き、声をかける。


「あァ?この俺がガキを………チッ……。シノを置いて隠れるわけねェだろ。怖いってんならテメェだけ勝手に震えてろ」


「怖いとかじゃなく、こうしないと犯人が逃げるじゃないか」


鋭い視線で睨んでくるスタークの目を、正面から見据える。………正直怖い。


やつの目は″強者の目″。弱者である俺に恐怖を植え付けてくる。


……もしかしたら、俺の声は震えていたのかもしれない。


だが……ここは譲れない。犯人は絶対に捕まえなくちゃいけないんだから


「何かあったら直ぐに手が出せる距離でいいんだ。だからお前も早く……」


「……うぜェぞ、()()()()()()がァ」


「………っ!」


スタークの気迫に……その″魔力″に……思わず怯んでしまう。


″弱者″の命令を″強者″が聞く必要はない。スタークの目はそう言っていた。


怒りとともに吹き出したスタークの魔力量を見るに……きっとこいつはアイルやメルクリアと同等に強い。


「スターク、お願いだ。()()を助ける為に、ここで絶対に犯人を捕まえなくちゃいけない。ボクが囮になるのが一番確実な方法だと思うんだ」


スタークに怯んだ俺の代わりに、別の″強者″が声を出す。シノの瞳は……『ニーナを絶対に救う』という光が宿っている。


その光は、どんな力を持ってしても消すことはできないだろう。見るものにそう確信させる何かがある。


「それにボクなら大丈夫だ。危なくなったら……そこの『なりそこない』が助けてくれる」


シノはこちらをみて柔らかく微笑む。


「助けてくれる……?はッ!勇者になれなかったそいつに何が出来んだァ?国から逃げてるだけの腰抜けによォ」


スタークが俺を見て笑う。何も出来ない俺を。女の子に守られているだけの俺を。


……笑えよ。俺が無力だってことは、俺が一番分かってるんだ。


……どうせ俺は、どの世界にいたって、何も出来はしないんだから。


「スタークの言うとおり、()()()何も出来ない。………でも、()()なんとかしようとしてくれる」


シノは真っ直ぐな瞳で否定した。


「………結局何も出来ねーってんなら、意味ねーだろうが」


「意味ならある。何も出来なくたって、ボクはきっとその行動に喜びを覚え、救われるんだから」


シノの言葉を聞いたスタークが……


少しだけ、ほんの少しだけ表情を柔らかくした気がした。


「ちっ……。どうせ譲る気はねェんだろ?今は言うことを聞いてやる」


そう言うとスタークは、俺とアイルの元まで歩き始める。


「スターク」


その背中をシノが呼びかける。幾度目かの光景だ。


返事もせずに振り返ったスタークに、シノは言葉を投げた。


「ボクを心配してくれてありがとう」


素直な感謝の言葉に、スタークは一瞬驚いた様子を見せたが、すぐにいつもの調子を取り戻して、「ウゼェ」とつぶやきながら、俺達と同じように木の影に身を隠した。


「スターク、俺からも言っておく。あいつのこと心配してくれてありがとう」


そうだ、スタークがシノを囮にすることに反対したのは……シノの身を危険に晒したくないという″善意″から来たものだ。なら、感謝を述べるのは当然。


そして、俺のこの素直な言葉。素敵な出会い方をしたとは言えないが、これで俺とスタークも仲良しに……


「あァ?男に感謝されたってきめェだけだ。黙ってろ」


なれませんでしたー!


「スタークさん、私からも言っておきます。あの子のことを心配してくれてありがとうございます」


俺とスタークのやり取りを聞いたあと、すぐにアイルも感謝の言葉を述べた。


こいつ、挑戦的だ。『女ならいいんだろ?』と顔に書いてある。


「てめェらまじに覚えとけよ……」


おぉ、かわいそうかなスターク。半ば女性に優しいばかりに、おもちゃにされてしまったんだね


……しばらくの沈黙が続いたあとスタークが静かな声を上げた。


「構えろ、もうそこまで来てる」


アイルの顔がいっそう険しくなる。


……そこまで来てる?スタークはそう言ったが、俺には相手の位置が全くわからない。


スタークがやって来たときは、その魔力を感じることで正確な場所まで特定できたが……今回はそれが出来ない。


つまり……今こちらに向かってるやつは魔力量が低い=あまり強くない?


いやいや、それだけで決めるのは早計だ。あえて力を隠してるのかも知れない。


「来るぞ」


相手の位置がわからずに戸惑う俺とはうって変わり、スタークは敵の接近を確信している声を出す。


ガサ……ガサ……。


静かすぎる森に、一つの足音。


魔力や気配ではなく、その足音でもって、俺も相手の大まかな位置を確認し、そちらを向く。


ガサ……ガサ……。


足音が少しずつ、少しずつ大きくなり、その音がなる度に、俺の心臓は大きく跳ねた。


そして……


ピタリ。


シノがいる、シオンの花が咲く場所の近くで足音が止む。


シノの姿と、周りに人がいない事を確認しているのだろうか。


そして……


一歩。そいつはシノのもとへと踏み出した。


月明かりがそいつを照らし出した瞬間。


「ッ!!」


「………!」


アイルとスタークが同時に駆け出した。


まるで事前に打ち合わせでもしていたかのような動きで、犯人と思われる人物を挟み込む。


スタークは正面、アイルが背後。


「ひぇ………っ!」


犯人と思われる人物は、突然現れた二人に驚き、情けない声を出した。


「てめェ、こんな時間にここに何の用だァ?」


スタークは鋭い視線を向ける。圧倒的強者の視線。普通の人間なら、それだけで怯んでしまう。そしてそれは……今その視線を受けた人物も例外では無かった。


「あなたは一体……」


男性はスタークの素性を尋ねる。だが


「黙って答えろ」


スタークは自分の要求だけを通した。


「私はただ……えっと………。そう、花を取りに……!」


その声は……俺の耳にも、嘘をついているとわかった。


俺の位置からでは、犯人と思われる人物の姿がよく見えず、性別すら定かではなかったが、声を聞く限り男性のようだ。


………というか、まて。この声、聞き覚えがある。


そう感じたのはアイルも同じだったようだ。男性の正面へと回り込み、その顔を確認する。


そしてその瞬間。


「え……?うそ、何であなたが……?」


両手で口を抑えるアイル。


「あァ?知り合いか?」


スタークはアイルに問いかけるが、アイルは答えない。それほどまでに動揺する相手……?


気になった俺は、木の影から離れ、アイルの隣に並んで、男性の顔を確認する。


その男性は……眼鏡をかけていて、頭は白髪混じり。そして……細身だ。


もしも、彼がスタークのように騎士団の服を着ていたのなら、ニーナがここで誘拐された可能性を親から聞きつけ、犯人を探しに来たのではないかと言う推測がつけられた。


だが……彼が来ていたのは騎士団の制服ではなく、お世辞にも高価とは言えない、一般的な服。


………男性をよく観察してみるとその手には()()()が握られていた。


それは……ロープと折りたたまれた麻袋。


……様々な情報が、俺に訴えかけてくる。


″今目の前にいるこいつが、ニーナをさらった犯人なんじゃないか″…………と


そして、ゆっくりと、目の前の男性に声をかける。


「ガスパーさん………?なんで……」


そいつは………俺達が泊まっている宿の管理人だった。

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