救いたい人がいる。救える力はない。
栄光の街グランツで起こった連続少女誘拐事件。その犯人を捕まえるべく、シノを囮とし、犯人をおびき出す作戦をとったが……
そこにやって来たのは……フィーアと同じ、王国騎士団……″戒める者″の制服を着た青年だった。
「確かに俺は戒める者に所属してるが……それがどうしたァ?」
目の前の青年は、獰猛に笑う。
その迫力に怯みそうになるが……俺はなんとか堪える。
「お前が……誘拐事件の犯人なのか?」
数ある質問の中から、一番単純な物を選んだ。
遠回しに聞いたって意味はない。相手に答える気が無いのなら、どんな質問だってはぐらかされてしまう。
「あァ?違ェよ、ガキには興味ねェ」
青年は否定した。だが……信じていいのか?
……そもそもこいつはなんでこんな時間にここにいる?
「……こんな時間にここに何しに来たんだ」
追加の質問を投げかけると、青年はため息まじりに答える。
「なァ、オメェよ、それはこっちのセリフってやつだぜ?…………ちゃらちゃら女引き連れて、オメェこそ何やってんだァ?」
青年の目に鋭さが増す。ひと目でわかる。こいつの目は………″強者の目″だ。
口調はきついし、こちらを警戒しているのは明白だが……
なんと言えばいいのだろうか……。
そう、殺意のようなものは感じられない。アイルもそれに気がついたのだろう、すでに臨戦態勢を解いている。
「………誘拐事件の犯人を探してた」
隠す理由もないので、素直に答える。
こいつが犯人なら、どうせ1戦交える事になるし、もし違うのなら……先に手を出したことを謝罪して、話し合いで片付けるべきだ。幸い、双方に怪我はない。
「昨日犯人がここに現れた可能性があるんだ。だから俺達はそいつをおびき出して……」
「おい、お前ッ………!」
青年がいきなり、俺との距離を詰め、胸ぐらを掴んできた。急に首が締まり、だらしない息をもらしてしまう。
「おびき出すってよォ………ガキを囮にしやがったのかァ?」
青年の声は、これ程にないまでの怒気をはらんでいた。
「ちょっと、急に何を…!」
「てめェは黙ってろ」
青年は、止めに入ろうとしたアイルを、一瞬で怯ませる。
「そういやァ、不意の一撃も女にやらせてたな。危険なことをガキと女に任せて自分は高みの見物とは、素敵な趣味をお持ちだなァ」
青年は俺を掴む手に力を込める。
「なんとか言いやがれクソ野郎ッッッ!」
青年は叫んだ、非力な俺に。シノとアイルを頼りにするしかできない無力な俺に。
青年は怒った。小さなシノに、危険な真似をさせていた事に。女性であるアイルを戦わせ、俺一人隠れていたことに。
だからきっと……こいつは良いやつだ。事件の犯人ではないだろう。
だが一つ、訂正しなくてはならない。
「……救いたい人がいる。救う為には事件の犯人を捕まえるしかない」
青年の手首を思いっきり掴み、精一杯その瞳を睨みつける。
「囮役はシノにしか出来ない。戦闘はアイルにしかできない。やらせたんじゃなく、救う為に協力をしたんだ。もし俺にしか出来ないことがあるのなら、その時は命を懸けたっていい」
救いたい人がいる。救える力はない。だから……皆で救うんだ。ニーナを……友達を……。
「…………ッ!クソが!命をかけるなんて簡単に言ってんじャねェ!!」
青年は俺を突き飛ばし俺はだらしなく尻餅をついた。アイルとシノが心配そうに近寄ってくる。
荒くなった呼吸を整えていると……青年は何かを思い出したように顔を上げた。
「ちょっと待て……アイルだと?髪の色は違うが、召喚士の妹だとすると………お前は、逃亡中の第六勇者……?」
「…………っ!」
しまった、ついアイルの本名を口走ってしまった。
俺とアイルはほぼ同時に身構える。俺の素性がバレてしまったのなら次に青年が取る行動は……
騎士として世界の為に逃亡者を殺すだ。
「クソが………。出来損ないの勇者は性根まで腐ってんのかよ」
だが、青年はめんどくさそうに呟いただけだった。こちらを襲ってくるようなことはしない。
俺を出来損ないと呼んだということは、詳しい事情まで知っているはずだ。何故襲ってこない?
「………俺を捕まえないのか?」
「あァ?なんで俺がそんなクソめんどくさそうな事しなくちゃいけねェんだよ」
「何でって……それが″国″の意志だろ?」
この国は、存在すると言われている魔女と戦う戦力を集めるために、異世界から勇者を召喚している。
しかし、この世界に存在できる勇者の数には限りがあり……また、元の世界に返す手段もない為、才能が無かった勇者は処分され、次の勇者を呼んでいる。
それがこの国の意志、ルールだ。
……ここで、アイルの表情が暗くなっているのに気がつく。彼女にとっては耳の痛い話だ。
「いるかも分かんねェ魔女をヤる為に、無関係なヤツをぶっ殺してまで戦力を集める……イッちまってると想わねェか?」
青年は呆れたように言葉を発し、自らのこめかみに人差し指を当てる。
「俺はその″国″ってやつがどうも信用なんねェ。存在が確認されて無いやつの為にそこまですんのか?」
「偉いやつが考える事なんて、俺達には理解できないさ」
「はッ!その通りだァ。もしかすると国は、すでに魔女の存在を掴んでるのかもしれねェし、勇者には、魔女討伐以外の何かをさせるつもりなのでかも知れねェな」
「……何かってなんだよ」
「ンな事、俺が知るわけねェだろ」
『とにかく……』と青年は続ける。
「事件の犯人がここにいないってんなら用はねェ。俺は帰るぜ」
そう言って踵を返す青年。どうやら彼も、ここには誘拐事件の犯人を追ってやってきたようだ。
だが、そんな青年の後ろ姿をシノが呼び止める。
「まて」
「あァ?なんだ?」
青年が振り返り、シノと視線がぶつかる。
「ボクはガキじゃない、シノだ」
「はァ?うるせェぞガキ」
「シ・ノ・だ!」
シノは言葉を一つ一つ区切る。
青年とシノは手が届く距離……つまり、シノが男性に恐怖を覚える距離では無かったのだが……それでもシノにとって、男性とは恐怖の対象だ。
そんな男性を呼び止め、わざわざ自分の名前を教えたことに、少しだけ喜びを覚える。
俺がつけた名前を、気に入ってくれているのだろう。
「わーッたよ……。じゃあなシノ」
諦めたように名前を呼ぶと、青年は振り向き、今度こそ帰ろうとしたが……
「まて、まだお前の名前を聞いてない」
シノは再び青年を呼び止めた。
「もう会わねェんだ。名前なんてどうでもいいだろ?」
「良くない、名前は大事だ」
「クソうぜェ………。俺の名前はスタークだ」
青年は毒づきながらも、シノに自らの名前をあかした。威圧的な喋り方や、相手に鋭い視線を向ける割には、女性に優しいところがあるのかもしれない。
「うん、じゃあなスターク」
青年は後頭部をガシガシとかきながら、みたび振り返る………だがまたしても……
「ちょっとまて」
シノは青年を呼び止めた。
「あァ!?いい加減ウゼェぞ!今度はなんだァ!?」
そろそろ可哀想になってきた。血管とか切れそう。
青年……スタークが振り返ってから、シノはこれ程にないまでの真剣な表情で人差し指を唇にあてた。
そして、次に発せられるシノの言葉はスタークだけではなく、俺達全員に向けられたものだった。
「静かに。誰かが結界の中に入ってきた」




