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世界の為に死んでくれ  作者: ソラ子
第三章 スティグマ
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悪魔の子

「おや、随分とお早い帰りですね」


宿に戻った俺達を出迎えたのは、メガネをかけた、細身の男性だった。


この宿の管理人………確か名前は………


「はい、ガスパーさん。私達はもう部屋で休もうと思います」


そう、ガスパーさんだ。何でも、この宿を一人で切り盛りしているとか………


苦労しているのだろう、彼の頭は白髪混じりだった。


「作用でございますか。ささっ、部屋の片付けは済んでおります、どうかごゆるりと」


にこやかな営業スマイル。なんだか好印象。


俺のせいで迷惑が掛からなければいいな………そんなことを考えながら、俺は部屋へと戻った。


部屋に戻った瞬間……ドッと疲れが襲ってきて、だらしなくベッドに倒れ込んでしまう。


「サクラくん、だらしないですよ」


「お前が言うな」


昨日のアイルだって、相当にだらしなかったはずだ。


「私はいいんです、普段がしっかりしていますから。それよりも、本当に大丈夫ですか?急に体調をくずしたみたいですけど……」


アイルは、心配そうにこちらを見てくる。


ムンチャイの魔力に当てられたときのことを言っているのだろう。


「たしか、ムンチャイが出てきたあたりだったよな」


シノはベッドに腰掛けながら会話に参加してきた。


「ちょっと………な」


俺は曖昧にごまかす。


あの場で平然と立っていたシノとアイルに、うまく説明する術を持ち合わせていなかったからだ。


「ふーん、そっか。それにしても、ムンチャイってそんなにすごい感じしなかったな。優しいおじさんって感じがしたな、ボクは」


シノはそう言って、頭の後ろで手を組んだ。


そうか……シノにはそんな風に映っていたのか。


俺はあの威圧感に押され、呼吸すら困難に陥っていたというのに……


「シノ、言動で判断してはいけませんよ。彼は……この世界の人間で唯一、勇者と並ぶ力を持つと言われているんですから」


「うげっ、ホントか。あのおっさんそんなに強いのか」


シノにが顔を歪める。


勇者と並ぶ力………ねぇ。


フィーアとムンチャイの魔力量が同じくらいだと思った俺の感覚は、あながち間違いじゃなかったんだな。


「それに、彼には様々な伝説があるんです」


「伝説?」


「はい。すべての武器を使えるのに、素手で戦った方が強いとか。睨んだだけで魔物が逃げていくとか!あとは………空を飛べるなんて話も!」


アイルは、まるで自分の事のように、自慢げに語る。


「流石に最後のは嘘だろ」


アイルに対して、シノは冷かな目だ。


………ムンチャイが空を飛んでいるところを想像してみる。


あのいかつい顔で、腕を組んだまま鳥たちと空の旅。(おさげを揺らして)


………だめだ。まだ笑うな。


「たしかに、空を飛べるというのは嘘っぽいですが………。でも!彼がすごいのは本当なんです!」


「随分と尊敬してるみたいだな」


頭の中でムンチャイを飛ばして遊んでいた俺は、アイルに問いかける。


「それはもちろん!だって、かっこいいじゃないですか!」


アイルが目をキラキラさせながら詰め寄ってくる。


こんな美少女を虜にしてしまうような魅力が、あのおっさんにあったのだろうか。


どちらかと言えば、男に好かれる感じがしたけどなぁ


「荒くれ者が集うと言われるギルドが、一つの組織として纏まっているのも、ひとえに彼の凄さなんです!………いやぁ、かっこいいですよね。その拳だけで自分の道を切り開いてきた、彼はまさに『王』なんです!」


そう言ってアイルは空中にパンチを繰り出す。いわゆるシャドーボクシング。


「あはは。………まあ確かに、性格も良さそうだったけど」


俺がそう言うと、アイルとシノが少し、シュンとした。


「ベーゼの女の子にも、優しい対応でしたね」


そうだ。ムンチャイはあの場において、俺達以外で唯一、ベーゼの女の子に敵意を表さなかった。


ん?俺達以外で……?


「そういえば、シノとアイルはベーゼについてどう思っているんだ?この世界で、彼女たちは相当疎まれてるみたいだけど………」


ベーゼとは忌み子。この世界における迫害の対象。


違う世界から来た俺はともかく、この世界の住人であるアイルとシノにとって……


こういう言い方はしたくないが、ベーゼを迫害するのは普通のこととして育ってきたんじゃないのか?


「どうも思ってない。ボクがベーゼを見たのは初めてだったんだ。見たことも無いのに嫌うのはおかしいだろう?」


シノはきっぱりと言い放つ。


きっとこの少女は………とても強い。


周りに流されず、自分を貫く強さを持っている。


俺がもし、この世界の住人で、生まれたときから………『ベーゼは悪いやつらだ』と、そう教わって育っていたら、今のシノと同じことが言えただろうか


「すごいな、シノは」


「……ん?なんでだ?」


シノが首を傾げ、ツインテールが揺れる。


「何でもないよ。………アイルはどう思っているんだ?」


俺はすぐさまシノから視線を外す。シノはわけがわからないといった様子で、少し不貞腐れていた。


アイルは、シノの様子には気がついていないようだ。


「私も、彼女たちには負の感情を持っていません。…………望まぬ力を持って生まれたという点で、私も同じですから………」


「………同じ?」


「い、いえ!なんでもないんです!……聞かなかったことにしてください!!」


そう言ってアイルは、両手をブンブンと振った。


………誰が見てもわかる、作り笑顔で。


「そっか。」


何が同じなのか。俺もシノも聞き返さなかった。


望まぬ力………か。


メルクリアとアイルの会話を思い出す。


望まぬ力をとは……きっと彼女の『加護』のことだろう。


俺はアイルの加護がどんな力なのかを知らない。


アイルは、誰も救えない力だと言っていたが………


とりあえず、アイルが自分から加護の話をしない限りは黙っておこう。おそらく、シノも同じ考えだ。


「そういえば、ニーナちゃん………でしたっけ?とても綺麗な瞳をしてましたね!」


アイルが明るい声で、わかりやすく話題を振ってくる。


「あれが『緋色の瞳』なんだな。話には聞いていたが……確かに人間離れしてる」


あぁ、優しいシノ。アイルの会話に乗ってあげる。


「『緋色の瞳』って、なんだ?」


あぁ、可哀想な俺。二人の会話に混ざるには、知識がなさすぎる。


「『ベーゼのみが持つ特殊な瞳のこと』です。」


アイルが人差し指を立て、目をつぶりながら説明する。まるで、本で読んだ知識をそのまま話しているようだ。


「人とベーゼの一番の違いは、その瞳なんです」


「………あんな瞳してたら嫌でも目を引くよな」


ベーゼの少女の瞳を思い出す。


あの、燃えるような紅を。


「それは少し違う」


シノが首を振る。


「ベーゼだからって、いつもあんな瞳をしてるってわけじゃない。感情が高ぶったときだけ、緋色に輝くんだ。きっとあの子も、普段は違う色をしてる」


シノは続ける。


「それに、瞳の色を変える、薄いレンズみたいなものもあるんだ」


「へぇ、カラコンみたいなもんか」


この世界にも、とても便利なものがあるらしい。なるほど、それをつけていれば、感情が高ぶったときでも、周りにはバレないと。


「から………こん?って言うのは知らないが………それがなかなか高価なんだ」


「つまり、ベーゼの子供に、そんな貴重なものを渡す親は少ない………と?」


俺の問に、シノが頷いた。


続いて、アイルが口を開く。


「ベーゼとしての力を使うときも、その瞳は輝くと言われています。………ベーゼの中には、勇者と並ぶほどに強い人たちもいるらしいですよ」


「なるほどな…………って、ん?」


アイルの説明に少しだけ違和感。


「勇者と並べる人間は、この世界で()()ムンチャイだけじゃなかったのか?」


俺が問いかけた瞬間。アイルとシノは難しい顔する。


静寂が部屋を支配する。空気がとても重たい。


しばらくの沈黙のあと、恐る恐ると言った様子で、口を開いたのは…………アイルだった。


「ベーゼは…………()()()()とも呼ばれているんです」


「…………っ!」


アイルの言葉を聞いた瞬間。俺は思わず立ち上がった。


「ベーゼは………()()()()()()ってことかよ」


「…………」


アイルは答えない。優しい彼女に、答えることはできない。


代わりに、アイルを気遣ったシノが答えてくれた。


「多くの人は、そう思ってるんだ」


「くそっ!」


…………って、あれ?


ちょっと待て、ベーゼの中には勇者と同じ力を持ったやつがいる?


いったいこの世界に、ベーゼはどれくらいの人数いるんだ?


確かこの世界は、魔女と戦う戦力を集めるために、異世界から才能ある者………つまりは勇者を集めていたはずだ。


それなのに、一部のベーゼは勇者と並ぶ力を持ってるって、おかしくないか?


わざわざ勇者を呼ぶ必要なんてない。ベーゼにお願いして、魔女や魔物と戦ってもらえば…………


あぁ、そうか。この国のトップは、それができないんだ。


今まで迫害し、ひどい仕打ちをしてきたベーゼに、頭を下げる事ができないんだ。


………くそったれめ、どこまで腐ってるんだ。


俺は憤りを覚え、ベッドに腰掛けた。


「悪い…………。二人に当たるつもりは無いんだ」


落ち着け俺。心は熱く、頭は冷静に。


「大丈夫です。他人の為に怒れるサクラくんは、素敵な人です」


そう言ってアイルは俺に微笑みかける。


………勇者に頼らなくても、ベーゼに頼ればいいじゃないか。という考えは俺の胸に秘めておいた。


「ありがとう、アイル」


俺もアイルに微笑みかける。俺は今、うまく笑えているだろうか。


「ははっ、ぶっさいくな笑顔だな」


シノがこちらを指差して笑ってきます。


訂正。シノは優しくなんてありません。


「うるせぇ!チャーミングだったろうが!!」


「その顔でチャーミングなら、森に出る魔物だってチャーミングだぞ」


………きっとシノは空気が重くなりすぎないように、気を使ってくれたんだ。ありがとう、シノ。


「………ったく、世界が変わるとチャーミングの定義も変わるらしいな」


そう言って俺は、頭の後ろを掻いた。


………それにしても、綺麗な瞳だったなぁ………


✦✦✦✦✦✦


〜アイラside〜


青い瞳が、真っ直ぐに私を見つめてくる。


その瞳を持つ人物は、美しい金髪を、短く切りそろえていた。


その姿は………私、アイラ・コールと瓜ふたつ。


いや、ドッペルゲンガーだとか、双子の妹のアイルが帰ってきたとか、そういうことではなく……


──ただ鏡を見ていただけなんだけどね!


「よし。今日もアイルみたいに可愛い!」


誰に言うでもなく、そうつぶやき、自分を頬を『パンパン』と叩き、気合を入れる。


すると……


「アイラー、例の人来たよー」


部屋の外から、気の抜けた声が聞こえてきた。リープの声だ。


「んー!わかったー!」


そう言って部屋を出ると………部屋の前には、予想通り、リープがいた。


「リープはもう会った?」


「いや、まだ」


そう、私達は今から人と会う約束をしているのだ。


私の身の回りの世話をしてくれていたアイルの代わりに、新しいメイドさんが来てくれます。やったね。


「ここだよね?」


ある扉の前でリープに確認すると、彼女は無言で頷いた。


「よし!」


私はそう言って、ドアを勢い良くあけた。


「はじめまして、私はアイラ!」


そして、扉を開けると同時に、元気よく挨拶した。第一印象大事。ちょーだいじ。


「私のことは呼び捨てにしていいし、別にタメ口でも………」


私の言葉は、そこで止まった。


新しいメイドさんの姿が、あまりに衝撃的だったからだ。


いや、割と普通に可愛い感じで、特徴といえばメガネをかけているってくらいなんだけど………なんというか………胸が大きい。


「ボインだ」


「ボインね」


私の品のない呟きに、リープも続く。


「たわわだよ」


「たわわね」


「メロンだよ!!」


「メロンね」


そして私は、自分の胸を触ってみる。アイルと同様の、膨らみの乏しい胸を。


「………まな板だよ」


「………ぷっ」


それまでは私に同意していたリープがふいに吹き出した。


「あー、笑ったぁ!自分が人並みにあるからって調子に乗って!」


「笑ってませぇーん」


リープが憎たらしい顔をする。


「あ………あのぉ」


そこで、ボインちゃんが申し訳なさそうに声を出した。


「わわっ、ごめん。自己紹介の途中だったね。私はアイラでこっちがリープ。」


「よろしく〜」


リープはめんどくさそうに、片手をひらひらとふった。


「それで、たわわちゃんの名前は?」


「わた………しの名前は………。シャルドネ・シラー………です。今日……から、アイラ様のお世話係になりました………です。」


たわわちゃん………もといシャルドネちゃんは、メガネの下にある紫色の瞳を、あっちこっちに移動させる。


人と話すのが苦手なのかな?


「敬語は、いらないよ。仲良くしよう!」


「そんなわけにはいきません………です。」


シャルドネちゃんはか細い声を出した。


「私は先輩になるから呼び捨てにしないでねー」


それとは対象的なハキハキと喋るリープ。


「こら」


そんなリープの頭に手刀をおみまいする。


「いたっ!」


シャルドネちゃんの健気さを、この猫にも分けてあげたい。


「まあ、敬語の方が楽なら、無理は言わない。楽な方でいいよ」


「ありがとう………ござい………ます」


シャルドネちゃんは、うつむきながらお礼を言ってくる。


「ええっと、シャルちゃんでいいかな?」


そう言うと、目を合わせずに、シャルちゃんは頷いた。


「じゃあ、はい!」


シャルちゃんに向かって、手を差し出す。


友情の始まりは握手から。


だが……シャルちゃんは………


「………………」


私の手を取ることはなかった。


それを見たリープが、少し怪訝な顔をする。リープの悪い癖だ。他人の事をいちいち疑ってしまう。ただ、握手を拒んだだけなのに。


「あれ。もしかして、嫌いだった?」


シャルちゃんは、コクリと首肯した。


「そっかー、握手が嫌いなら仕方ないね」


………握手が嫌いって、なんだろう。初めて聞いた。


そしてそのすぐ後、シャルちゃんの口がモゴモゴと動いているのが見えた。


「握手じゃなくて……お前だよ」


「ん?何か言った?」


「何も言っていない………です。」


私の耳まで、その声は届かなかった。


リープの方を見てみると、彼女も首を横に振った。


獣人である彼女の聴力でも聞こえなかったのだ。完全に独り言なのだろう。私は気にしないことにする。


「それならいいや、とりあえずよろしくね!」


この子と、早く仲良くなれればいいなぁ

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