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世界の為に死んでくれ  作者: ソラ子
第三章 スティグマ
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見える者、見えない者。

栄光の王………モハメド・ムンチャイは、険しい顔で周りをゆっくりと見渡す。


そして……ベーゼである女の子を視界に捉えたところで、その動きを止めた。


「なるほど………ベーゼの少女か」


少女と、その兄を見ただけで、大体の事情は察したようだった。


「誰だね、こんな幼子を傷付けたのは」


栄光の王の声には、確かに熱が篭っていた。


少しだけ、安心する。


この街のトップは……ベーゼに対して理解がある様子だ。


しばらくたったが、モハメド・ムンチャイの問いかけに答えるものはいなかった。


それはそうだ。この場にいる殆どが……あの兄弟を傷付けたのだから。誰か……と言われると難しい。


そしてそれは、俺も同じ。


ただ見ていただけの俺だっておんなじだ。


何も言わない周りに対して、モハメド・ムンチャイは小さくため息をついた。


そして、ベーゼである少女に向かって、その足をすすめる。


その行動を見て少女の兄は立ち上がり、妹の前に立つ。


そして、モハメド・ムンチャイを睨みつけた。


「あなたも………この妹をいじめるんですか?望まない力を持ってしまっただけの女の子を……」


少年はモハメド・ムンチャイに問いかける。


その声を聞き、眼差しを受け、栄光の王は………


少年と目線を合わせるために……


()()()


その行動に、その場にいた殆どが息を呑んだ。


当たり前だ。ギルドのボスが、この街の象徴が、ベーゼである少女と、その兄の為に膝をおったのだから。


「え……?」


その行動に、少年は動揺している。


そして、モハメド・ムンチャイは、少年の頭にそっと手を伸ばして……その頭をごしごしと撫でた。


「君、名前は?」


「………カイト、です」


「カイトか………うん、君は強い子だね」


そう言ってモハメド・ムンチャイは『ニカッ』っと歯を見せて笑った。一組織のボスとは思えない、朗らかな優しい笑顔。


「あなたは………この妹を……ニーナをいじめないんですか?」


「君たちは、いじめられるような、悪いことをしたのかい?」


モハメド・ムンチャイの問いかけに、少年は首を振る。


「なら、そんなことしないよ」


「本当ですか?」


「本当だとも。むしろ、すまない。私が不甲斐ないばかりに、君達に辛い思いをさせてしまったね」


「みんながみんな、おじさんみたいに優しかったら良いのにな……」


少年は、俯いて呟く。その言葉は、モハメド・ムンチャイに向かって発してはいない。


もっと大きなもの……彼らを包む理不尽そのものに対してといった様子だ。


そんな少年の様子を見たモハメド・ムンチャイは、一瞬だけ険しい顔を見せたが………すぐに優しい顔に戻る。


「アリアード、彼の傷の手当と、何か……食事をお願いしたい」


モハメド・ムンチャイは立ち上がり、声を発する。


了解(ウィ)


声のした方を向くと……30くらいの男性が立っていた。


髪は赤く、耳にはピアスがついている。なんとなくチャラい印象。


アリアードと呼ばれた男は、ベーゼの兄弟の元まで移動し、目線の高さを合わせてから少し話したあと、その手を引いてどこかへと消えていった。


残されたのは静寂。そしてその静寂を破ったのは……


「さてと………」


栄光の王だった。


彼はゆっくりと立ち上がり、周りにいる人間を見渡した。


その場を緊張が支配する。


彼はベーゼに理解があったようだし、子供を傷付けたという事実を見過ごすような人物にも見えない。


その場にいる全員が、息を呑み、彼の次の言葉を待つ。


吐き出されるのは罵声か、怒号か。


だが、彼が口にした言葉は、意外なものだった。


「以後、このような事が無いことを願っているよ」


モハメド・ムンチャイはとても落ち着いていた。


まるで怒りなんて感じさせない、ごく自然な声。


皆が、その様子に……緊張をとき、安堵の息を漏らす。


だが………俺には……


俺にだけはわかってしまった。


栄光の王は……。モハメド・ムンチャイは、落ち着いてなんていない。


彼は、湧き上がる激情を、氷のような理性で冷ましているだけにすぎない。


……なんで、そんな事がわかるのかって?


理由は簡単、俺には魔力が見えるから。


目を凝らすまでもなく、彼の包む魔力を視認する事ができる。


彼の魔力は………その怒りを表すように、彼の体を覆っていた。


まるで………獣のように蠢いている。


これは、やばい。


なんというか……とても『圧』を感じる魔力だ。


息が詰まるような感覚に襲われ、全身の毛穴から嫌な汗が吹き出す。


周りを見てみるが、アイル、シノを含めて、彼の魔力に気がついている人物はいなさそうだった。


見えなくても、感じる事は出来るはずなのだが……それにも個人差があるのだろうか。


それとも、集中していないとわからないとか……


何はともかく、あの男はやばい。


あの男の魔力は……


魔女を倒すと言ったときのフィーアの魔力。その量と同じか……もしかすると……


「ちょっと、大丈夫ですか?」


「おい、大丈夫か?」


左右から声をかけられる。


アイルとシノだ。


二人に心配される程に、俺は狼狽していたのだろうか。


だが、返事をすることもできない。


そして……モハメド・ムンチャイの様子に安堵していた群衆の中。


ただ一人、恐怖を覚えていた俺は………とても良く目立ったのだろう。


まるで、真っ白い服に、一点の汚れがついたときのように。


「ん………?」


栄光の王がこちらを向く。


俺は、無意識に体を震わせ、思わず後ずさってしまった。


ただ目が合っただけだ。なのに、それだけで……まるで刃物を突きつけられたかのように、体が緊張する。


そして、モハメド・ムンチャイはゆっくりと俺に向かって歩き始める。


周りにいた人間が、栄光の王に道を開ける。


一歩、また一歩と歩いてくる彼の姿が、俺には……


まるで死神のように見えた。

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