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世界の為に死んでくれ  作者: ソラ子
第三章 スティグマ
34/229

栄光の王

シノと同じベッドで寝ていた件について、アイルに長々とお説教されたあと……俺達は街を歩いていた。


その目的は情報収集。主に、第三勇者(ドライ)の住処を把握するのが目的だ。


しかし……


「何もわかりませんね……」


アイルがため息まじりに呟く。


そう、アイルが今言った通り、何の成果も出ていない。


「広い街だ、仕方ない」


シノがアイルに続く。


確かに……広い。


そして、人も多い。つい先日までいた貧困街とは比べ物にならないほどに。


………こんな事なら、フィーアに付いてきて貰えばよかったかもしれない。一瞬そう思ったが……


流石に勇者と一緒にいたら目立ってしまうだろう。


国から、騎士から、逃亡中の俺達は目立ってはいけない。よって却下。


「分からないものは仕方ありません、素直に諦めましょう。実は、それ以外にも目的が……」


………そう、アイルが言いかけたときだった。


「何度もいってるだろうが!」


近くから、男性の怒鳴り声が聞こえてきたのは。


その声に、シノが……「ビクッ」っと体を震わせる。


……昨晩シノは、俺に限定ではあるが、男性に触れることができるようになった。


だが、まだ男性への恐怖が消えたわけではないだろう。


誰だ、シノを怖がらせたやつは。


少し不機嫌になった俺は、声のした方を向く。


アイルや、俺の周りにいた通行人たちも、足を止めて声のした方を向く。


するとそこには………


屋台を構え、果物のようなものを売っている、中年の男性と……


その屋台の前に、シノよりも背が低い子供二人。後ろ姿しか見えないが………おそらく男の子と女の子。


兄弟だろうか。


「お願いします、この妹はもう、3日も何も食べていないんです」


男の子の方が声を上げる。とても必死な様子だ。


少し気になった俺は………


アイル、シノと一度だけ目をあわせて、もっと見やすい場所に移動する。


そこで初めて、少年の……兄弟の顔をみる。


その顔は……一言で言うとやつれていた。


先ほど少年は、この妹は3日も何も食べていない。と、そう言っていたが……顔を見る限り、それは自分も同じなのであろう。


「お願いします……もちろんお代はお渡しします……だから……」


少年が悲痛な声を上げる。


「売れないっていってんだろうがぁ!」


少年に対し、店を出している男性が声を荒らげる。


どうやらこの騒ぎは、食べ物を買いたい兄弟と、売りたくない店主が原因のようだ。


………おかしいだろ?


先ほど男の子は、代金は払うと言ったはずだ。ならば、店主が断る理由は無いはずなのに………


その時、俺と同じ考えをした誰かが言った。


「おいおっさん、子供相手に怒鳴って恥ずかしくねーのかよ!お代は払うって言うんだから、売ってやればいいだろ!」


声のした方を向くと、正義感の強そうな青年が立っていた。


すると、青年の声につられ………


「そうだそうだ!」


「なんで意地悪するの!」


「かわいそうだろ!」


そんな声が、所かしこから聞こえてくる。


………見知らぬ誰かの為に、声を上げる。日本ではあまり見ない光景だ。


なんだ、素敵な世界じゃないか。


俺が、そう思ったときだった。


世界が………


()()()()()()


「何言ってんだお前ら!この女は………」


店主が大きな声を出し、兄弟の………妹の方を指差した。


「このガキは………()()()だぞ!!」


………ベーゼ?知らない単語だ。


女の子をまじまじと見てみるが……別段おかしなところはない。


「なぁアイル、ベーゼって……」


ベーゼとはなにか。それを知っているであろうアイルに訪ねようとして、俺は気がつく。


それまで、幼い兄弟の味方をしていたはずの周りの人間が………


この場にいる……俺、アイル、シノを除いたすべての人間が………


今は……あの幼い兄弟を……


()()()()()()()


「は……?なんで急に……」


狼狽する俺に、アイルが話しかけてくる。


「彼女が………ベーゼだからです。」


「………ベーゼってなんだよ」


思わず、険しい顔でアイルを見てしまう。


「ベーゼというのは……忌み子です」


「忌み………子」


忌み子というのは………望まれずに生まれてきた子供という意味だったはずだ。


………思わず、誰にも必要とされてこなかった、今までの人生を思い出してしまう。


「ベーゼは……遺伝とは関係なく、突然生まれてくる、私達にはない特異な力を持った子どもたちの総称なんです」


アイルが苦い顔をして続ける。


「魔族にしか使えないはずの……氷と雷の魔法を扱えるベーゼは………私達から恐れられ、ひどい迫害を受けているんです」


「遺伝と関係ないってことは、誰の子供であってもベーゼになる可能性があるってことか?」


俺の質問にアイルはコクリと首肯する。


「そんなの……ただの『個性』として受け入れてやれば……」


アイルは……首を振った


「人は……どうしたって自分と違うものを恐れ……嫌うものなんです。だから、自分達にない力を持ったベーゼを、人々は嫌うんです。」


それは……そうだ。俺の世界にだって差別や迫害はあった。


違いがある限り、違いを恐れる心がある限り、それはきっと無くならない。


でも………だけど………


遺伝と関係なく突然生まれてくるって……


生まれつきの病気だとか、体が不自由とか……そんなのと同じじゃないのか?


誰でもベーゼとして生まれてくる可能性があるのに、自分がそうなってしまったら、こんな仕打ちを受けなくちゃいけないって………


そんなのは……おかしい。


「あの兄弟は……何か悪いことをしたのか?腹空かせてんのに、代金も用意してんのに、食べ物を売ってもらえないほどのなにかをさ」


俺の質問にアイルは……


「おそらく……なにも」


悲しそうな顔で、首を横に降った。


「そんなのって………」


俺が……何も悪くないアイルに、八つ当たりのように、声を荒げようとしたその時。


俺の視界を……何かが横切った。


その()()は……真っ直ぐに、男の子に飛んでいき……


「痛………っ!」


彼の瞳を()()()()


誰かが………石を投げたのだ。


無抵抗な、何も悪いことをしていない子供に。


「な……っ!」


「ちっ……」


それを見たアイルは驚きの声をあげ。シノは舌打ちをした。


……誰だ、誰が投げやがった?


俺は周りを見渡したが………人が多すぎる。誰が投げたのかわからない。


そして……次の瞬間。


「ベーゼはこの街からでていけ!」


誰かが言った。女性の声だ。


その声に続くように………


「ベーゼの兄貴も同罪だ!この疫病神め!」


「二度と現れるな!!」


「お前たちベーゼなんか……死んじゃえばいんだ!」


次々に声が上がる。


あの時とは……違う。


最初に、あの兄弟を守ろうと、理不尽に立ち向かった勇ましい声は……どこにもなかった。


そしてまた……


()()()()()()()


兄弟を傷つける為に投げられた石。何も悪くない彼らを傷つける為に。


だが……


「……………!!!」


見つけた。


俺の視界は………石を投げたやつを捉えた。


そいつは……最初に兄弟を守る為に声を上げた、正義感の強そうな青年だった。


それが今は……石を投げた。


それも……


()()()


俺の中で………音を立てて、何かが切れた。


「………あの野郎ッ!」


俺は、そいつに向かって一歩を踏み出した。


一発、ぶん殴ってやらなければ気がすまない。


だが……


「サクラくん、抑えて!」


アイルに後ろから手を掴まれる。


「止めるな!お前は平気なのかよ!?」


「平気なわけないじゃないですか!」


アイルは強い口調で否定する。


俺を握る手にも、力がこもっている。


「サクラ、気持ちはわかる。けど、抑えてくれ。サクラは目立っちゃいけない。騎士に見つかれば殺されちゃうんだから」


シノが、俺をなだめてくれる。


彼女だって……こんな理不尽は許せない。優しい心を持っているはずなのに。


「くそ……っ!」


俺は……何もできない。


あの男の子は……こんな事態になる事が予想できたのだろう。


それでも……妹のために、家族の為にここまで来た。


ベーゼであるという彼女をここにつれて来なければよかったのでは……と思うが


逆に、そんな彼女を一人にできなかったのではないだろうか。


そんな優しい男の子なのに……


こんな悪意に晒されている。


何も悪くないのに、理不尽をぶつけられている。


そして……俺は……


そんな兄弟のために……声を上げることも、拳を振り上げることもできない。


自分の無力が悔しい。爪が食い込むほどに拳を握る。


力がなければ、正義を振りかざす事だってできないんだ。


そしてまた……誰かが石を投げる。


今度は一つじゃない。いくつかの理不尽が、男の子を襲う。


男の子は、妹を庇うように前に出る。


体の所々から血も出ている。


その理不尽は………まだ終わらない。


そしてついに……男の子は膝をついてしまった。


それでも……理不尽は止まらない。


アイルとシノは、拳を握り、歯を食いしばってそれを見ていた。


そんな二人の様子を見て、俺は自分に言い聞かせる。


我慢しろ……二人だって我慢しているんだ。


俺が、湧き上がる衝動を必死に抑えていると……


それまで一言も喋らなかった妹が……


「やめて!おにーちゃんをいじめないでっ!」


兄を庇うように、両手を広げた。


その小さな体を、精一杯に伸ばして。


………俺は、自分に力がないから、あの兄弟のために何もできなかった。


仕方ないことだろう?どうせ何もできないんだから。


だけど………あの少女は、兄の為に理不尽に立ち向かった。


それは、あの少女に力があるからなのか?


否、絶対に違う。


自分のせいで理不尽に晒されている兄をみて、頭で考えるまでもなく、体が動いたんだろう。


きっとあの子は、力があるとかないとか、自分に何が出来るとか、何が正義なのかとか、そんなことは少しも考えちゃいない。


………やっぱり、俺は弱い。あの少女よりも……


その少女の行動で……ひとまず、石の雨が止む。


そして……誰もが。俺を含めてこの場にいた全員が……その視線を、彼女に釘付けにされていた。


彼女の………瞳に。


彼女の瞳は………燃えるような『赤』


淡い輝きすら放って見える………宝石のような、とても美しい瞳だった。


見ているだけで、心を持っていかれてしまいそうだ。


……そんな蠱惑的な瞳。


「はじめて見ました。あれが……『緋色ひいろ』………?」


少女の瞳に視線を釘付けにされたまま、アイルが呟く。


そのアイルの言葉に、周りがざわついた。


「あれが……」


「俺も始めてみた……」


「やっぱり人間じゃない!」


周りからそんな声が上がる。


悪意の込められた、そんな言葉が。


アイルにも、シノにも止められた。目立っちゃいけないと。


だけど………我慢の限界だった。


それほどまでに、あの少女の行動は、俺の心に響いた。


──声を上げよう。


あの兄弟を襲う理不尽に。


──拳を握ろう。


正しさの是非を決める為に。


そして……守ろう。あの美しい兄弟を。


スーっ………と俺が大きく息を吸ったときだった。


「一体、なんの騒ぎだね?」


よく通る声が聞こえてきた。


その声を発したのは………一言で言えばおじさんだった。


歳は……40くらいだろうか。だが……体が衰えているようには見えない。


肩より少しだけ伸びている黒髪を、一つに纏めている。


その風貌は……どこか、中国の武人を思わせた。


そして……その男性の登場で、周りが急に静かになった。


僅かな緊張すら感じるし、どこからか、息を呑む音も聞こえてきた。


それほど、すごい人物なのだろうか。


「なぁアイル。あの人………誰だ?」


「あの人なんて言い方をしたら駄目です!」


アイルは慌てて俺の口を抑えてきた。


というか、鼻まで抑えてます。少し苦しい。


アイルの手を、放してほしいという意を込めて、パンパンと叩く。


「あっ………、すみません。」


アイルは申し訳なさそうに手を放した。


そして、呼吸を整えてから………


「この街、グランツはギルドの街です。そしてあの方は………そのギルドのボスです。つまり、実質的なこの街のトップということになります。」


アイルは俺の質問に答えた。


「その名は……モハメド・ムンチャイ。そして彼は……こうも呼ばれています。『栄光の王』………と」



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