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世界の為に死んでくれ  作者: ソラ子
第三章 スティグマ
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繋いだ手と手

「疲れました……」


フィーアが用意してくれた部屋に着くなり、アイルは頭からベッドに倒れ込んだ。


柔らかいベッドがアイルの体を受け止め、ボフッ、っという音がする。


「おいおい、城の使用人ともあろうものが、そんなだらしなくて良いのか?」


「いいんれす。いまは、さくらくんとなかよくとうぼうちゅうれすから」


アイルは顔をベッドに埋めたまま、モゴモゴと喋った。


「実はボクの方がしっかりしてるんじゃないのか?」


そんな様子を見ていたシノが俺に話しかけてくる。


「いつもはこんなじゃ無いんだがなぁ、本当に疲れてるんだろ」


そう、アイルは相当に疲れているはずだ。


直接聞いたわけではないが、森で再開するまで、ずっと俺を探してくれていたであろうし……


更には、メルクリアとの戦闘。あんな強敵と拳を合わせたのだ。体だけでなく、心もすりへっているはず。


「とりあえず、何をするにも明日からです。今日はもう寝てしまいましょう。シノは私と同じベッドでいいですよね?」


アイルの問いかけにシノは頷く。


フィーアが用意してくれた部屋にはベッドが2つだけだった。


まあ、それは仕方ない。フィーアは俺とアイルの二人だけだと思っていたのだから。


幸いなことに、シノは体が小さいし、少々狭くは感じるかもしれないが……問題は無いだろう。


「なぁ……アイル」


「なんですか?」


「明日はどうするんだ?」


「とりあえず……この街を見て回りましょう。私達には情報がなさすぎます」


「そうだな……」


たしかに、俺達は何も知らない。


街を見て回るのは……少々リスクがあるかもしれないが、必要なことだろう。


特に……第三勇者(ドライ)の存在だ。


フィーアも気をつけろと言っていたし、ドライがこの街のどのあたりに住んでいるのか、その程度は知っておく必要があるはずだ。


「大丈夫ですよ、サクラくんは私が守りますから」


そう言ってアイルは、両手を握ってみせる。


ドライのことを考えている間に、険しい顔になってしまっていたのだろうか、気を使わせてしまったのなら申し訳ない。


「ありがとうアイル。頼りにしてる」


俺がアイルに向かってそう言うと………


「ボクもいる」


シノが口を開いた。


なんと……頼もしい二人だろうか。


「もちろん、シノも頼りにしてるよ」


今夜はきっと………素敵な夢が見れそうだ。


「じゃあ、明日に備えて寝るとしますか」


「ですね」


「そうだな」


二人の返事を聞いてから


俺は電気を消し、眠りについた。



✦✦✦✦✦✦


「………、………」


微睡みの中、誰かの声が聞こえる。


「……ラ、おき……」


聞き覚えのある声。この声は………


「起きろ!」


そして、声が聞こえた次の瞬間。


「痛……っ!」


顔に何かが当たる衝撃を受け、俺は完全に目をさました。


顔の近くに、枕が落ちてある。顔に当たったなにかとは……枕だったのだろう。


「やっと起きたか」


上半身だけを起こし、声のした方を向く。


部屋が暗かったこともあり、最初はよく見えなかったが……


しばらくすると、目が慣れてきて、はっきりと見ることが出来た。


俺を起した人物は……


「シノ……?」


俺が名前を呼ぶと、シノが。


「しー、アイルが起きちゃうだろ」


人差し指を口に当て、小さな声を出した。


「………まだ夜だろ?どうしたんだ?」


シノの言葉に従い、こちらも小声で話す。


「ちょっと、確かめたい事があるんだ」


そういったシノをまじまじと見て、気がつく。


シノの美しい髪は今……いつものように2つに結ばれてはいないことに。


ベッドに入っていたのだ。当たり前ではあるのだが……


いつもと違う姿に、少しだけ、ドキリとしてしまう。



「……何見てるんだ?」


「べ、別に見てない」


俺はそう言ってシノから視線をそらす。


「それならいいけど………それよりもちょっと空けてくれないか?」


シノが指をさしたのは、俺が横たわっているベッドだった。


とりあえずシノの言葉に従い、伸ばしていた足を折って………あぐらをかいて、ベッドの端に移動する。


「ありがとう」


そう言って、シノは……


俺と同じベッドに座った。可愛らしく女座りで。


その行動に、俺は息を呑む。


この距離は……近い。手を伸ばせば届く距離にいる。


男性恐怖症であるシノにとってこの距離は………


()()はずだ。


「シノ………お前……」


「う、うるさい!何も言うな!」


静かにしろと言ったのはシノの方なのだが……シノはそれなりに大きな声を出した。


チラっと、横目でアイルの方を見るが……


どうやら起きてはいないようだ、相当に疲れていたのだろう。


「シノの方こそ、静かにしないとアイルが起きるぞ」


俺が軽く注意すると、シノは恥ずかしそうにうつむいた。


「サクラ、ちょっと手を出して」


「……?これでいいのか?」


シノの意図はわからないが、とりあえず従ってみる。


手のひらを広げて、シノの方に向ける。


シノが怖がらないように、近付け過ぎず、低い位置を意識して。


するとシノは………


恐る恐ると言った様子で……


俺の手を触ってきた。


人差し指の先だけで、俺の手のひらをつついてくる。


そして……その動作をしばらく繰り返したあと……


「………っ!」


目と口をキュッと閉じて、意を決したように、俺の手に、自分の手を重ねてきた。


「シノ、何やって………」


シノは男性恐怖症。男性に触ることには恐怖を伴うはずだ。


実際、俺の手に重ねられたシノの手は、かすかに震えている。


だから俺は、急いで手を引こうとした。


だが………


「まって……」


それを拒むように、シノが手を握ってくる。


「サクラの言ってたとおり、ボクは……男の人が怖いんだ」


シノの手は……とても柔らかい。女の子の手だ。



「でも……サクラなら大丈夫な気がするんだ。だからもう少し、このまま……じゃ、ダメか?」


シノが、上目遣いで問うてくる。


そんなの……答えは決まっている。


「こうしていることで、シノの男性への恐怖が少しでも和らぐのなら……お安い御用さ」


「ん……ありがと」


聞きたいことは、山ほどある。


本当にこうしていて大丈夫なのか?


なぜ男性が怖い?


森で出会った、ビール腹の男との関係は?


だが……そのどれも、今聞くべきでは無い。


しかし……話すことがないなぁ、どうしよう。


そんなことを考えていると……シノが口を開いた。


「あのとき……出てきてくれて、助けてくれて、ありがとう」


あのとき……というのは、ビール腹の男に啖呵を切ったときだろうか。


「ちょっとだけ………かっこよかった」


シノは恥ずかしそうに目をそらしながら、小声で呟く。頬が少し赤い。


そんなシノの言葉を聞き、様子を見て……俺は……


何も言えないまま、シノを見つめてしまう。多分、俺の頬も赤い。


そんな時間がしばらく続き。


「な、なにか喋れ……」


シノが力ない声をだす。


「うわ…っと、ごめんごめん。……でも、結局その後はシノに守られて、アイルに救ってもらったんだよな……ちっともかっこよくないよ」


男として情けない……情けなさすぎる。女の子二人に守ってもらった。この世界に来て何度目だろう。


「んーん、かっこよかった」


シノはそう言って、首を振った。


「ボクを救ってくれたのはサクラだ。感謝してる」


「シノ………ありがとう」


それからは……色々なことを話した。


元いた世界のこととか、この世界のこととか。


どうでもよくて、とても楽しい話を。


楽しくて、つい夢中になって、いつまでも話してしまった。


だから……あんなミスをおかしてしまった。


✦✦✦✦✦✦


「な………ななな………っ!」


俺が………


「なんでサクラくんとシノが一緒に寝てるんですかっ!?」


いや………俺と、シノが目をさましたのは……


「それも…手を繋いで!」


アイルの大きな声が原因だ。


俺とシノの手は、未だしっかりと握られていた。


手を握ったまま、いつの間にか眠ってしまっていたのだ。


……シノはもう、震えてはいなかった。


アイルの顔を見る。あー、ものすごく怒ってますねこれ。


「お、おはようございます、アイルさん」


「ん。アイル、おはよう」


俺とシノが、続けて挨拶をする。


うん、挨拶大事。


「おはよう……じゃありません!シノは私と寝ていたはずでしょ?男女で寝るなんていけません!」


アイルが責めるような口調で言ってくる。


「……前に俺とアイルで寝たよな?」


「ぎくっ……」


シノがアイルを指差す。


「あっ、今『ぎくっ』って言った」


「言ってません」


明らかに言ったのに、アイルはしれっとした顔で否定する。


「とにかく、サクラくんにはちょっとだけお話があります」


そう言って、アイルは俺を睨みつける。


「え?俺だけ?」


一緒に寝てしまったのは俺の注意不足もあるが……そもそも俺のベッドに来たのはシノの意志なのに……


「当たり前です」


……どこの世界でも、悪いのは男なんですね……


「シノぉ……」


助けを求めて、シノのほうをみる。


「がんばれ、応援してるから」


そう言って、シノは……


握っていた手を離し、ひらひらと俺に向かって振ってくる。


満面の………笑顔で。

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