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世界の為に死んでくれ  作者: ソラ子
第二章 正義の人
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サクラ・フィリア

「自分が何をしたかった分かっているのか……

ッ!」


私─アイラ・コールは、お城の中でいかにも偉そうなおじさんに怒鳴られていた。


……偉そうというか実際偉い。


このおじさんは………何を隠そう、このヴァレリア王国の国王なのだから。


王様は私より高い位置にある玉座に座りながら、威圧的な目を私に向けていた。


怒鳴られているのはもちろん、サクラの事だ。


「何をしたって……何も悪いことはしてません。」


「お前がしたとこはこの国への裏切りだ!その行動がこの国を崩壊へと招くのだぞ!」


「私は……っ!悪いこともしてないのに命を狙われてた人を逃しただけです!」


私は国王が嫌いだ。


先程、王様は、()()()()崩壊へと招くといった。


世界ではなく、国。


自分の所有物、手が触れられるもの、目が届くものにしか興味が無いのだ。


「小娘がッ!個を優先し、全を殺していいと思っているのか!?」


「その全だって、個の集まりのはずです!」


「やつは異世界にほんから来たものだ。この世界という全には含まれていないッ!」


「だから……それがおかしいんですよ!この世界の問題は………魔女も、魔物も、私達だけで解決するべきだった!」


「どの口が………ッ!」


王様は怒りのあまり玉座から立ち上がった。


どの口が。


そのとおりだ。こんな綺麗事を言う私は……とっくに汚れてしまっている。


無関係な人にこの世界の運命を押し付けたのも。


才の無いものを排除したのも全部私だ。


でも……今だけは私は正しい。


だから、もう少し。


もう少しだけ私に……


綺麗事を貫かせてください……


「一国の王が、声を荒らげるものではありませんよ」


その時、部屋に誰かが入ってきた。


「おぉ、第四勇者(フィーア)か」


入ってきたのは黒髪黒目の青年。フィーアだ。


「安心してください。逃亡したゼクスは、我々王国騎士団………戒める者(グレイプニル)が捉えます。」


フィーアは真面目な顔をしている。


一方の私は………ギリッ、っと奥歯を噛む。


サクラを捉えるということは……彼の死を意味する。


それはフィーアもわかっているはずだ。


「随分と冷たいんだね。同じ世界の人間なのに」


皮肉めいた口調で、フィーアを見る。


「僕は勇者で、救うのは世界です。一人の犠牲は仕方がない。」


フィーアは淡々と告げる。


その瞳に、迷いは見つからない。


「本気で……言ってるの?」


私の目に、言葉に、更に力がこもる。


「間違えてはいけない、救うのはこの世界だ。多少の犠牲を厭わず、平和な世界を築くべきだ。」


「無関係な人を見殺しにして……そのおかげで平和になった世界で貴方は笑っていられるの?」


「皆がそれを望むのなら。皆の願望を叶えてこその勇者だ。」


「個を救えないような人に全は救えない。簡単に何かを切り捨てられる人を……勇者とは呼ばないよ」


「やっと……素直になれたみたいだね」


「え……?」


ほんの一瞬だけ、フィーアが優しい表情をしたが……

すぐにまた真面目な表情に戻ってしまった。


「とにかく、脱走したゼクスは我々が捉えます。国王もそれでよろしいですね?」


「うむ」


国王はとても機嫌が良さそうに首肯した。


私と話していたときはあんなにも威圧的だったのに。


なんかムカつく。心の中で舌だしてやろ。


あっかんべー。


「それでは」といって、フィーアは部屋を出ていった。


「私も失礼いたします」


その後に続くように、私も国王に頭を下げた。


部屋を出たあと、機嫌の悪さを隠さないズカズカとした足取りで、ある部屋を目指す。


目的の部屋についた私は、勢い良くその扉を開けた。


「ちょっとリープ!聞いてよ!」


「にゃ?」


部屋の中にいた人物………リープ・リッヒは間抜けな声を上げた。


彼女は椅子に腰掛けて、本を読んでいたようだ。真面目に働け。


「王様に呼び出されて怒られた!」


机を挟んで反対側の椅子にドカリと座る。


「ゼクスのことで?」


「そう!」


立場の違いはあるのだが、リープはタメ口だった。


普段から、二人のときは敬語を使わなくて良いと言っているのが理由だ。


「いや、怒られるのは当たり前じゃん」


リープは頬杖をついて、呆れるような表情で言った。


「で、でもさぁ」


確かに、この国のルールに逆らったのだ。


そのトップに怒られるのは当たり前のこと。


「てかさ、アイラが言ったんじゃん。ゼクスを逃がしたのは私です〜ってさ。あんな事言わなければ、その責任は私とアイルにいったのに。」


「た、確かに言ったけどさ……」


「アイラが悪い。」


リープは間髪入れずに私の非を指摘する。


でも……仕方ないじゃ無いか。


私が逃がしたと白状しなければ、今もサクラと一緒に居るアイルや、サクラを捉えきれなかったリープに、今よりも責任が掛かってしまう。


「ま、まあ……私の事を気遣って言ってくれたんだろうし……?悪い気はしなかったけどね?」


リープはそれまで合わせていた目をそらし、少しだけ頬を赤らめた。


……あれ?ちょっと可愛い。同性なのに。


「ええっと………『ツンデレ』って言うんだっけそれ」


「つん……でれ?」


リープは小首をかしげた。


「うん、第一勇者(アインス)が言ってたの、リープはツンデレだーって。詳しい意味はよくわかんなかったんだけど………異世界にほんの言葉で、『可愛い』って意味らしいよ。」


アインスはよく、私やリープに異世界にほんの事を教えてくれた。………正しいかは、私には分からないのだが……


「はっ!?意味分かんないし!」


リープはテーブルを両手で叩きながら、立ち上がった。その顔は先程より赤い。


可愛いと言われて照れているのだ。


ういやつういやつ、近うよれ。


「あらあらリープさんったらぁ〜、照れていらっしゃるんですかぁ〜?」


自分の中で、精一杯の憎たらしい顔をする。


リープは怒りと恥ずかしさでプルプル震えていた。


「う、うるさい!照れてなんかない!」


そして……その時。


部屋の外からドアを叩く音が聞こえてきた。


「アイラはいるかな?」


ノックの音に続いて聞こえてきた声には、聞き覚えがあった。


というか……つい先程まで聞いていた。


フィーアの声だ。


「いるよ」


リープのおかげで機嫌は殆ど治っていたのだが……なんとなく冷たい返事をする。


私の返事を聞いて、フィーアが部屋に入ってくる。


「リープもいたんだね」


「フィーア様ぁ?なんの用事かニャ?」


リープはすでに猫かぶりモードに入っていた。驚くべきスピード。


リープが猫を被るのは……誰にでもと言うわけではない。


勇者か………お金を持っていそうな男性に限定されている。


要するに……玉の輿を狙っているのだ。


そんなリープをよく思っていない同性も少なくは無いだろう。


でも……私はリープが好きだ。


私とリープが、()()()()だと言うことも一つの理由であるだろうが……


もう一つ、リープを好きな理由がある


もう一つの理由は……彼女がなぜお金を欲しがっているかを知っているからだ。


そもそも……城で生活をしている彼女が、生活に困っているわけがない。


リープがお金に執着する理由は知っている人間は……城内では私だけだろう。固く口止めもされていて、アイルにさえ話していない。


「アイラに話があったんだ。彼の………ゼクスの居場所を教えてくれないかな?」


そんな私の思考は、フィーアの言葉を聞くことで途絶えた。


フィーアはサクラを捕まえるつもり……いや、もっと直接的な言葉を使おう。


()()()()()()


「知らないし、知ってても言わないよ」


行き先は知っている。何も問題が起きてなければ、すでにグランツにいるはずだ。


この国すべての街でみても、あそこが一番、騎士団の干渉が少ない。だから馬車の行き先にもグランツを指定した。


「アイラ、君は一つ勘違いをしている。」


「勘違いって、なに。」


「僕には彼を………サクラを捕まえるつもりは無い。」


「そんなの信じられるわけが………って、名前、なんで……?」


フィーアは今、なんと言った?


()()()と言った。


ゼクスの本名を知っている人は少ないはずだ。


リープも私も、徹底してゼクスと呼んでいたのだから。


チラリとリープの方を見る。


すると、リープもまた、こちらを心配そうな目で見ていた。


リープが心配しているのはサクラではなく……アイルだ。


彼女は別にサクラの味方というわけではない。


私には、サクラと会った時は、再び命を狙うと明言している。


わざわざ追いかけたりはしないというだけだ。


もしも……また二人が会うときが来たら、私はまたリープと対峙しなければいけない。


「サクラがここを出て行った時、僕は偶然、彼と会ったんだ。名前はその時に聞いた。」


なぜフィーアがサクラの名前を知っているのか、その疑問が解けた。


これは完全に私のミスなのだが、サクラを逃がす日と、フィーアが魔物の討伐から帰ってくる日が被っていたのだ。


それに……本人から聞いたというのなら、理解できる。


私もリープも言っていない。アイルの性格を考えて、あの妹も言わないだろう。


残る、ゼクスの本名を知っている人物は……


サクラ本人だけだ。


……一つの疑問が消え、新しい疑問が出てくる。


「なんで、その時に捕まえなかったの?」


その疑問は、なぜフィーアがサクラを逃がしたのかというものだ。


あの時、城の兵士は寝ていて、もしかしたら、私が壁を壊したときの音も聞こえていたかもしれない。


明らかに異常な状況。その中一人でいるサクラを、普通なら拘束し、事情を聞くだろう。


私の質問に対し、フィーアは言葉ではなく、行動で答えた。


フィーアは右手の人差し指をまっすぐ私の胸の位置まで上げる。


「……私?」


「そう、君だよ。」


フィーアは続ける。


「サクラは君のペンダントをつけていたからね、すぐに君が逃がしたんだとわかったよ。……世界の為に自分を殺した君が、君の意思で逃がしたんだ。そんな彼を、僕は捉えることができない。」


あのペンダントを、私はいつも着けていた。


フィーアだってそれは知っているだろうし、一目見れば私のものだとわかったはずだ。


……フィーアを信じる?いや、まだ足りない。


「さっき国王には、捕まえるって言ってた。」


「あれは……嘘だよ。王の前で、彼を捕まえる気はありません。なんて言えないだろ?」


確かにそうだ。そんな事言えるわけがない。


それに……とフィーアは続ける。


「実はゼクスが()()()()()()で、君が操られてたり、脅されてる可能性もあったからね。反応を見てたんだ。」


「なんで……そうじゃないって思ったの?」


「君の目が、()()()()()()()


フィーアは迷い無く告げる。


私はフィーアはを……信じることにした。


リスクはあるかも知れないが、勇者を味方に出来るのだ、リターンは計り知れない。


「サクラはグランツにいるはずだよ」


「信じてくれて、ありがとう。」 


フィーアは深々と頭を下げた。


「それじゃあ、僕もグランツに向かうよ。」


フィーアはそう言ってドアに手をかけたが……


「待って!」


私がそれを静止した。


「最後に一つ聞かせて。」


「何かな?」


「なんで、私がサクラを逃したら、あなたも逃がすことになるの?」


素朴な疑問だった。


私が逃がしたサクラを捉えることができない。フィーアはそう言ったが……


正直理由になってない気がする。


するとフィーアは……あまりにもバカげた理由を、大真面目な顔で言った。


「君のことが好きだからだよ。」


サクラを逃した理由を聞いたら告白された。


自分でも何言ってるかわからない。


「はぁ〜……?」


私の口から出たのは、告白されたばかりの少女とは思えない、可愛げのかけらもない声だった。


「ふふっ、先は長そうだね。」


フィーアは笑って、今度こそ部屋を出ていった。


そこで気がつく。リープがニヤニヤしている。


理由は……なんとなくわかる。


「告白………されたねぇ〜」


やっぱりそれが理由か。


「なんでそんなに何ともない顔してるのぉ〜?」


「だって、急に好きとか言われても……本当かもわかんないし。」


いくらなんでも…告白されたという実感がなさすぎる。


すると……リープが聞き捨てならないことを言った。


「私がゼクスの事を好きかどうか聞いたときは、あーんなに顔真っ赤にしてたのになぁ〜。可愛かったなぁ〜。」


「にゃっ……!なんでサクラが出るの!?」


また……取り乱してしまった。これではあのときと同じじゃないか。


取り乱しすぎて、にゃっ!っとか言ってしまった。リープじゃあるまいし。


「やっぱゼクスのこと好きなんじゃん。あんなののどこかいいのかねぇ」


「べ……別に好きじゃないし!」


確かに、サクラは素敵な人だ。


才能がないと言われても、嫌な顔一つせずに私と修行をしてくれたし、


私の罪を知っても、優しいままでいてくれたし


それに……最後に大好きって……


「わかったわかった、うんうん。」


先程、可愛いと言われて照れるリープをからかった仕返しのつもりなのだろうか、いやらしい笑みを浮かべている。


でも……私は今この瞬間を楽しいと思っている。


リープと……友達とからかいあえる今を大切にしたい。


こんなにも汚れた私が、罪にまみれた私が、こんなに穏やかな時間を過ごしていいのかという気持ちもある。


でもきっと、この時間は……サクラがくれたものだ。


サクラと会うまでの私は、心から笑えずにいたから。


だから……私はサクラがくれたこの時間を大切にしたい。


彼の事を考えると……すこしだけ……胸が苦しくなる。


この苦しさが、リープの言っているとおり、()()()ってことなのかもしれないし、そうじゃないのかもしれない。


でも、これだけははっきりとわかる。


私にとってサクラは……


とても大切で


特別な人で


そして………


()()()()()()()()()()()()


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