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世界の為に死んでくれ  作者: ソラ子
第二章 正義の人
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桜色の君

目を覚まして、最初に目に入ってきたものは……


知らない天井。………ではなく、知らない女の子だった。


「………!」


顔をのぞき込んでいたであろう少女は、俺が目を覚ましたことに気がついて、俺から離れた。


………って、ちょっと離れすぎじゃないですか?


手が届かないどころの距離じゃ無い。女の子は部屋の隅まで移動した。


……状況を整理しよう。


俺は確か……グランツを目指して森を抜けようとしていたはずだ。


そして………


そうだ。リープにつけられた傷が開いて、そのまま気絶したんだ。


あの森には魔物もいると、アイルが言っていた。


俺が今無事だということは……彼女が助けてくれたのだろう。


自分の傷口を確認する。包帯が巻いてあった。


次に、助けてくれたであろう女の子を見る。


……女の子の服にはベッタリと血がついていた。


……服が汚れるのにも構わずに、俺をここまで運んでくれたのか。


その事実だけで胸が熱くなる。


もう一度、少女の方を見る。はじめてその顔をまじまじと見て……


「…………っ!」


俺は息を呑んだ。


彼女の体が、無駄のない肉付きで美しかったから?


……違う。


彼女の手足が、触れれば折れてしまいようなほどに華奢だったから?


……違う。


彼女の双眸が、吸い込まれそうなほどに輝いていたから?


……違う。


俺が息を呑んだ理由は……


均等に、2つに結ばれた彼女の髪だ。


別に、好きな髪型だったからとかじゃない。


正確にいうなら………その髪の毛の色に息を呑んだ。


少女は……俺が好きな色をしていた。


いや、違う。俺だけじゃない。


日本人なら、誰もが好きな色だ。


彼女の美しい髪は………


薄いピンク色。つまり………


()()()をしていた


「綺麗だ……」


心の中で思っていたことを、思わず口に出してしまう。


それを聞いた女の子の反応は……


「お前、ねぼけてるのか?」


半目で睨まれた。ですよねー


自分より年が下であろう女の子に。


開口一番に、「綺麗だ」なんて言ったのだ。


ここが現代日本なら事案発生だ。


俺は…「コホン」と咳払いをしてこの空気を有耶無耶にする。


……有耶無耶になってたらいいな……

 

「ここは……どこだ?」


少女に問いかける……が。


「………」


少女は答えない。沈黙を選んだ。


「君が助けてくれたの?」


「………」


またしても沈黙。


俺との距離感といい、相当に警戒しているようだ。


……他の質問にも答えてくれないのであろう、俺は少女の顔をまじまじと見た。


年は14くらいかな?可愛らしい顔をしている。


俺を警戒しているためだろう、ギュッと結んだ指と口が可愛い。


そして………ふと、少女は口を開く。


「あんな所で、何をしていた」


鋭い視線と声。俺の質問には答えないが、会話そのものを拒否しているわけではないようだ。


「魔物も出るあの森で、武器も持たずに、魔物に襲われた様子もなく倒れていた。明らかにおかしい。」


確かに………少女の言うとおりだ。


不審者オブザイヤーがあったら優勝できそう。


「……グランツの街に向かっていたんだ。倒れていたのは……ちょっと事情があって……」


「話せないことなのか?」


俺はコクリと首肯する。


「そうか……」


少女は……それ以上聞かなかった。


何故倒れていたのか、なぜグランツに向かっているのかを何一つ説明していないのに、納得してくれた。


警戒はといていないのだろうが………やはりこの少女は優しい。


───この少女になら、本当の事を話して、グランツの街まで道案内をしてもらってもいいんじゃないか?


………いや駄目だ。ナナリーの事を思い出せ。


簡単に人を信じちゃ駄目だ。駄目なんだ………


アイラも、アイルも、リープも。


みんなが優しく、善意を持っていた。


リープの優しさや善意は俺に向けられる物ではなかったが……世界の為という点でみれば、彼女はいい人だ。


俺は今までそんな人たちに囲まれていたんだ。


でも……今は違う。


ナナリーから向けられた殺意が俺を変えた。


だから……誰も信じるな。


俺はいま一人だ。一つのミスで命を失ってしまう。


助けてくれた優しい少女をも信じるな、利用しろ。


その優しさにつけ込み、事情を話さないままにグランツまで案内させるんだ。


そのためには……こうすればいい。


俺はわざと……()()()()()()()()()()()()()


「ぐ……っ」


俺は、痛みに苦悶の声を漏らす。


当たり前だ、怪我をした部分を動かしたのだから。


「大丈夫か!?」


俺の様子を見た、桜色の少女は予想通り、心配そうな顔をして近寄って来た。


「大丈夫……ちょっと傷が痛んで……」


一人で倒れていた俺を放っておけなかったこの少女なら………こうすれば黙ってはいないはずだ。


「でもまいったな………グランツまでの道のりはわからないし……一人でたどり着けるか……」


そしてこう言えば、この少女はおそらく……


「仕方ない、道案内くらいなら、ボクがしてあげる」


……予想通りの反応だ。


そして、俺はなんて………最悪の人間なのだろう。


助けてくれた少女の優しさを利用するなんて……


でも、今だけ。今だけは罪悪感を押しつぶせ。


何も、この少女を危険に晒すつもりはないのだから……


「本当か!?それは助かる!」


わざとらしく、明るい声を上げてみせる。


「俺の名前は双葉桜(ふたばさくら)。君は?」


自己紹介をして、少女の名前を尋ねた。


……のだが、少女は何も答えず俯いてしまった。


「……?」


名前を聞いただけだ。なぜ俯いてしまったのだろうか。


「ボクには……」


しばらくすると、少女は言いにくそうに口を開いた。


「ボクには……名前がないんだ」


「名前が……ない?」


しっかりと聞き取れていた筈なのに、思わず聞き返してしまう。


「だから……お前の好きに呼んでもらって構わない。」


「……分かった」


これは……大変な事になった。


俺には全くネーミングセンスがない。


友達も少なかった為に、あだ名も考えたことはない。


女の子に変な呼び名は付けられないし……


うーん。


少女を見る。なにか名付けのヒントになる特徴は………


やはり、彼女の中で一番目を引くのは、美しい桜色の髪だろう。


無難に()()()とても名付けられればいいのだが……


おーまいぐっねす、俺と被ってしまう。


そして……しばらく考えたあとに、一つの案が思い浮かぶ。


「シノ……なんてどうかな?」


思い付いた名前は……シノだった。


この少女の一番の特徴は、綺麗な桜色の髪。


そして桜といえば……やはり、染井吉野(そめいよしの)が有名だろう。


染井吉野。


ソメイヨシノ。


シノ。


うーん、我ながら安直だ。


「シノ………か。うん、悪くない響だ。」


気に入った……のかはわからないが、とりあえず嫌悪感は無い様子で少女………シノは呟いた。


「それじゃあよろしくな、シノ。」


俺は立ち上がって、名付けたばかりの名前を呼んだ。


そして、友好の証として、握手をしようとした……その瞬間だった。


俺が右手を上げた瞬間。


「ひっ…………」


()()()()()()()()()()()()()()()()()


そしてシノは、頭を守るように両手を上げて………


「ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい……」


と、何かに対して謝り始めた。


その声は震えていて。


その表情は、恐怖に彩られていた。


……なんでシノは急に怯え出した?


いや、考えるまでもない。馬鹿な俺でもわかる。


シノは……俺が右手を上げた瞬間怯えはじめた。


俺が起きたとき、不自然なまでに俺から離れた事を思い出す。


「シノ……お前。俺が………いや、()()()()()()?」

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