表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/47

第二十九章 怒涛のエリオ

 カジノ・ハーシュラーム 


 パニックを起こした客たちは、ナンバー9が破壊したスロット台の残骸をまたいで、ホールからいっせいに脱出した。

 ラベラーダ国王は、うつろな目をして突っ立っている。逃げまどう客とぶつかり、王は力なく床に倒れた。


「ラベラーダ王、カラーラ姫。人だかりに呑まれないようにして、お逃げください!」

 ソラナ・シエナステラは、王族に頼み願った。

「兄さん。カジノから出ましょう」

 カラーラ姫が横たわる兄の手をとり抱き起こす。

「だめだ。僕はもうここから……、出られないんだよ」

 か細い声で二十歳のラベラーダ王はつぶやいた。


 ソラナがゆっくりと歩み寄った。

「ラベラーダ王は、自分の意思を持てなくなっているようですね。ここにいる客たちもそうです。おそらく、セルジュ・ジリカの剣によるものでしょう」

「ソラナさん。どうしてわかるのですか」

 彼女に付き添うアルト・プレヴィンが質問する。

 ソラナは藤色の瞳を輝かせた。

「勘です」


 ・・・・・


「ほうほう、俺の剣が、人を狂わせる原因をつくるというのか。そのとおりだ。女勇者」

 ソラナの発言は、セルジュの耳に届いていた。

 セルジュの左手にある、ルビーの装飾が施された剣。刃身はひょうたん型で、戦闘向きでなく、儀式用の剣だ。

「夢幻眩惑の剣だ。この剣は、人を欲望に駆り立てる瘴気を発している。そして、この剣で斬られれば、正常な思考判断ができなくなる」

「あなたが兄さんを惑わせているのね!」

 カラーラ姫は、悲痛な声をあげた。

「そのとおり。俺はこの剣で、勇者も斬る」

 セルジュは夢幻眩惑の剣をユウに向けた。


「本気でやりあう気だな」

 ユウ・ナギノは天啓の剣を構えた。

「勝負は始めからついているだろうよ。勇者一行といえども、戦える奴はお前ひとりしかいないじゃないか」


「いいえ、わたくしが居ましてよ」

 ホールの中央に、エリオ・ソフィー・フォン・ソードスワードが歩み出た。

 肩まである、くせ毛のライトブラウンの髪をなびかせ、砂漠の街の女らしい、ふわりとした生地の着物の帯に、レイピアを挿している。

「その娘は、ソードスワード家のお嬢ちゃんだ。勇者ユウにくっついて旅をしているだけだ」

 ナンバー9が覆面の下から、小馬鹿にした笑い声を漏らす。

「そこの図体ずうたいのでかい覆面男。ドラゴンスレイヤーとドラゴンランスを返しなさいよ」

 エリオ・ソフィーは鉄球の大男に睨みを効かせた。自分の宝物を盗まれたので相当怒っている。

 

「おいおい。待て待て、引っ込んでいろ、エリオ。ここは俺だけでやってみるから」

 ユウは、エリオを押し止めようとした。

「いや。わたしは戦う。負けは許されないのよ。勇者一行は」

「だからって、お前を危険に晒すわけにはいかないだろ」


「お前を負かせば勝負はつくんだ!」

 セルジュ・ジリカが、ユウめがけてドラゴンランスを繰り出した。

 ユウは槍を素早くかわす。

「まるで火竜の尻尾だな」

「二メートル半の長さがあるから、リーチが長くて懐に入りづらい」

 エリオ・ソフィーが解説する。

「俺様のところへ近づけまい。ナンバー9の鉄球と一緒に追い詰めて突き刺してやろう」

 セルジュ・ジリカは笑った。

「腹立つわあ。わたくしのドラゴンランスを使って」

 エリオ・ソフィーは紅潮した頬を膨らませる。

「ねえユウ」

「なんだよさっきから、戦いに集中させてくれよ」

 エリオは指を差した。

「あの硝子ケースの中の剣、あれ、ソードスワード家のものだから」

「わかった」


 ドラゴンランスと鉄球による二重攻撃が始まった。

 ユウは避けることしかしない。しかし、彼は相手をすこしずつ誘導して移動した。


「粉々になれ!」

 勢い良く振るったナンバー9の鉄球が、ホールの硝子ケースをかち割った。

「エリオ、取れ!」

「ユウ! いい回り込みね」

 エリオ・ソフィーが駆け出して、硝子ケースの中にある刺突剣を手にした。

「むむ!」

 ナンバー9は、鉄球の回転をひとまず止めた。


「ふたりの戦いの呼吸はぴったりですね」

 アルトが拍手する。

「そうね、なんかいけそうな気がする。【天啓】よ。あなたが選んだ勇者ユウと、勇気ある者エリオ・ソフィーに加護をお与えください」

 ソラナは祈った。


 エリオ・ソフィーは、先がキリのように鋭い刺突剣、エストック・アザレアを掲げた。

「我が家の剣、エストック・アザレア! 取り返した!」

「俺の所有物だ。触るんじゃない」

 セルジュが警告する。

 エリオ・ソフィーは不敵な笑みを浮かべた。

「イカサマ師の分際で、なに抜かしてんの?」

「ああ? 俺のものなっていたんだ」

「はあ? もともと全部、わたしのものだってば」

 この場で最も怒りを表明しているのは、エリオ・ソフィーだった。


「おらおら、ソードスワードのお嬢さんよ、痛い鉄球を喰らいたいのかい?」

 ナンバー9が再び鉄球を回し始めた。

「エリオー、下がれ、下がってくれー!」

 ユウは、セルジュを牽制するのに手がいっぱいだ。


「大丈夫、余裕」

「舐めていると、どうなっても知らんぞおー」

 ナンバー9は、エリオ・ソフィーめがけて鉄球を振り回した。


 エリオはひょいと頭を下げ、間一髪でよけた。

 次の球が回ってくる前にすこし時間がある。

 エリオ・ソフィーは身を構え、1メートル半のリーチがある鋭い剣先を、相手が持つ鉄球をつなぐ鎖の輪に通した。

 鎖は切れ、制御を失った鉄球が飛んでいった。

「動きが遅い遅い」

 エリオは覆面男に向かって言い放つ。

「こしゃくなー」

 ナンバー9は、エリオを追い払うために球を振り回したので、だいぶ手加減した。

 名門ソードスワード家の娘を傷つけるほどの鬼にはなれない。そう思いとどまらせる高貴なオーラが、エリオ・ソフィーにそなわっていた。


「エリオ。見ているこっちが失神しそうになる」

 ユウはエリオのもとに駆けつけた。

「おい、例のあれをよこせい!」

 ナンバー9が声をかけると、セルジュの部下がドラゴンスレイヤーを持って来た。


「勇者ユウの一行はなかなかだ。だが、どういう了見で、俺様に楯突こうとする。一体、俺は勇者に何をしたというのだ」

 セルジュは右手のドラゴンランスの矛先をユウに向ける。

「いや、俺はラベラーダ王をここから連れ出すのを姫に頼まれただけだ」

「王だと? この国の王はこの俺だ」

 セルジュ・ジリカは笑いながら大胆に口走った。


「あなたが王になりたいのなら、本気で王を討ってみさない!」

 ホールの隅で、ふぬけた兄を抱きかかえるカラーラ姫が叫んだ。

「わたしは、ドラゴンシリーズを返さないとお前たちを許さない」

 エリオ・ソフィーが重ねて言った。

「おいおい、挑発するなよ……」

 ユウはため息をついた。


「無駄な争いをするべきではありません。すべてに先立つものが天啓です。これには火竜の力も及びません。勇者が天啓の剣を抜いた時点で、勝負は決しているのです」

 ソラナ・シエナステラの声がホールに響いた。


「戦いはこっちに分があるだろ。女勇者も、ハッタリをかましてくれるじゃねーか。夢幻眩惑の剣を受けて、俺の魅力の虜となるがいい」

 セルジュはソラナを狙って駆け出した。

「やらせない!」

 エリオ・ソフィーがエストック・アザレアでドラゴンランスを叩き落とした。

「さっきからじゃまだな。この女」

 セルジュとエリオ・ソフィーの視線が合った。

「あら、わたくしを狙って、あなたの虜にしてくださらないの?」

「しない。俺はいい女をたくさん知っている。女勇者がすごくいい」

 セルジュはエリオとソラナを見比べながら槍を拾う。

「腹が立った。人生最大の侮辱だわ」

 エリオはわなわなと身を震わせる。

 エリオはエストック・アザレアの刃身を舐めた。

 舌使いが艶かしい。

「エリオ、怒りで頭がどうかしたか!」

 ユウが声をかける。

 エリオはブレードで舌をすこし切り、にじみ出た血を刃身に吸わせた。

「!?」


 エストック・アザレアは、春に咲き誇る花畑のような七色の光沢に包まれていった。

「エストック・アザレア。いま、ソードスワード家の血を受けて蘇ったわ!」

 その刺突剣は、本来のあるじの手に納まり、アザレアの花の甘美でかつ毒気のある芳香を漂わす。

「霊剣か!」

 セルジュは驚き、エリオの手から剣をはじき飛ばそうとして、ドラゴンランスを繰り出すと、エリオは細い刃身で、火竜のあばら骨を真っ二つに切り落した。


「今よ。ユウ」

「天啓の剣を受けろ! 無礼極まる王の僭称せんしょう者、セルジュ・ジリカ!」

 ユウがセルジュに斬りかかった。

「俺の剣がああああああああ」

 天啓の剣の一撃を受けた夢幻眩惑の剣は、蒼色の閃光を放ちながら崩れ落ちた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ