第二十八章 眩惑のパレス
ユウたちはカジノ・ハーシュラームに到着した。
カジノのホールには、目移りするほど種類が豊富なゲームマシーンが並んでいる。
ほかにカフェ、浴場、プール、遊び疲れた体を癒すためのホテルもあり、快適に長期間の滞在ができるようになっている。
「ここはすごい」
ユウは小走りでホールをめぐった。
遊びたい。
心置きなく、頭をからっぽにして過ごしたいと思った。
「わたしもここは初めてです」
カラーラ姫は、身をこわばらせ、胸に手を置きながら、ゲームに興じる客に兄がいないか目を配る。
「あああー」
エリオ・ソフィーがすっとんきょうな声をあげた。
ホールの真ん中に展示する硝子ケースの中に、エストック・アザレアがあった。
「あれは、我がソードスワード家が教皇に献上した剣。どうしてこんな所に。どうやったら取り返せる? メダルを集めればいいの? 何万枚が必要?」
エリオ・ソフィーはライトブラウンの頭をかきむしり、コインを投入してさっそくスロットを回し始めた。
「こんなところにあの剣があるのは、我が家の恥だわ」
「エリオさん、まず取り戻すべきは国王でしょう」
アルト・プレヴィンが、エリオ・ソフィーの剣への思い入れに苦笑する。
ユウの胸も熱くなっていた。
「どうしたんだろう。ふだんより真っ当な気持ちでいられない。何かの力が場を支配しているようだ」
ユウは、ゲームにのめり込む客たちを眺めた。
彼は腰にある天啓の剣に触れて、落ち着きを取り戻そうとした。
「男の人がこちらにやってきます」
ソラナが着崩れを直して姿勢を正す。
青みがかった髪の毛の無精ひげの男が、両手を広げ、笑顔で迎える。
「勇者一行のみなさん。我が宮殿、カジノ・ハーシュラームへようこそ。俺はオーナーのセルジュ・ジリカだ」
「シエナ王国から参りました、ソラナ・シエナステラです」
ソラナは軽く一礼する。
ユウは相手の視線の先を観察した。セルジュ・ジリカは笑顔のまま、ソラナの身体を見つめていた。
(まあ、そうだろう。ふつうはそこに目が行くさ)
「俺の名前は、ユウ・ナギノ。ソードスワードからやってきた」
あいさつを返す彼の表情は緩まない。
(次のセリフは、ラベラーダ王はどこにいる? だからな)
「よろしく。勇者。おや、カラーラの姫君もいらっしゃる。楽しんでいってください。ラベラーダ王も当カジノをたいそうお気に召されたご様子で」
相手のほうから王の話題を入れてきた。
「では、王に会わせてほしい」
「俺がこのカジノの王だ」
セルジュは話を逸らし、ユウを威圧的に見下ろす。
(こいつはなかなかの悪党だ。残念ながら、天啓の剣を持つ俺が、怯むわけがない)
「この国の王に会いたい」
ユウは単刀直入に言った。
青髪の男の表情が一瞬、険しくなった。
「ラベラーダ王ならそこらにへんにいると思うがな」
・・・・・
「兄さん!」
カラーラ姫は、スロット台の前に座るラベラーダ国王を発見した。
「ああ、カラーラ。元気だったかな」
王は、ぼんやりした黒目を妹に向けた。
「ああ、じゃないわ。会うのは半年ぶりです」
「もう、そんなになるのかい」
ラベラーダは、ふたたびスロット台のほうに顔を向けて、絵を回した。
「兄さん。もう帰ってきて。兄さんは、ずいぶん負けこんでいるの」
「そんなはずはないよ。僕は勝っているよ。メダルをきらしたことがないからね」
「それは、借りてやっているからよ。そのまま王宮の借金になっているわ」
国王のところにユウとセルジュがやってきた。
「セルジュ・オーナー。あなたは国王にこんな仕打ちをしているのですね」
「いやいや、そう思われても困る。王は、王の意思でこのカジノにいるのだ。俺が口を挟む余地はない」
セルジュは善人ぶって否定する。
ユウはラベラーダの肩に手を置いた。
「どうやら、王さまは負けているようだ」
「誰だい、君は」
ラベラーダ国王は、ユウのほうに顔を向けなかった。王とは知らず、あるいは知って絡んでくるやつは、すぐにセルジュが追い払ってくれるので危機感を持たなくてすむ。
「通りすがりの勇者だ」
「へえ、勇者かあ。勇者って、世界を救うとか、そういう役目のある人だよね。僕は幻覚でも見ているのかなあ」
「恐れ多いですが、たぶん見ているのではないかと思う」
その時、ラベラーダ国王の目の前のスロット台が木っ端微塵に吹き飛んだ。
「!?」
「!?」
「勇者。待っていたぞ。天啓の剣をよこせ」
鉄球を振り回す覆面の大男が現れた。
ナンバー9だった。彼はスロット台の列の裏に隠れていた。
「ああ、夢かな」
国王は、ぼんやりとした眼をしたままだ。
「くー、ゲームの邪魔をされたあ。許せない」
すでに遊んでいたエリオ・ソフィーが怒って立ち上がった。
「姫。避難して下さい」
アルトとソラナは、カラーラ姫をかばった。
「ナンバー9。お前が俺たちの馬車を襲った奴だとしたら、俺は安心できる」
ユウは天啓の剣を鞘から抜いた。
「襲ったのは俺よ。一度勝ったからといって見くびるな。勇者一行はこのカジノで滅亡するのだ」
ナンバー9は鉄球を振り回し、スロット台を次々と破壊していく。
「天啓の勇者よ。お前は俺と、絶対に戦わなければならない相手だ」
ユウは、声がしたほうに目をやると、左手に夢幻眩惑の剣、右手にドラゴンランスを擁するセルジュ・ジリカが立っていた。




