1.未来の終焉
遠い未来、人類は滅びようとしていた。
そこは、魔法と科学が両立する世界。
魔法の術式は、演算に基づいた学問として体系化されていた。
科学では補えない部分を補い、人類は更なる発展を遂げようとしていた。
そんなときに、パンデミックが起きた。
科学や魔法、あらゆる手を使っても治療できない病。
病の名を灰化病という。
感染すると、数日のうちに体が灰色の結晶に変わり、やがて崩れて灰となる。
治療法は、見つからなかった。
感染力も強く、瞬く間に病は広がっていった。
最後に残された都市では、一つの計画が実行されようとしていた。
禁忌ともいえる魔法で、時をさかのぼる。
術者の命と多くの犠牲者から提供された魔力と引き換えに、人を過去へ送る魔法だった。
現在のこの都市の人口では、一人しか送ることができない。
選ばれたのは、アイリス・ヴァレン。
灰化病を生み出した病理学者、エリオット・ヴァレンの娘だった。
かつてエリオットの友人であり、アイリスの魔術の師でもあった魔導師は言った。
「これが最初で、最後のチャンスだ。
灰化病の発生を止められなければ、人類は滅びる。
辛いこととは思うが、君の行動でこの世界を救ってほしい。」
「これは、私からの紹介状だ。これでエリオットの家政婦として入り込み、
研究資料や論文など関係するものをすべて処分してほしい。」
処分するものの中には、エリオット自身も含まれるのだろう。
「わかりました。最善を尽くします。」
そう答えるしかなかった。
アイリスが失敗すれば人類の未来はない。
過去へのタイムワープは、無事に行われた。
恩人である魔術師の命と引き換えに。
倒れていく魔術師の姿がアイリスの見た最後の光景だった。




