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女たち、付け届けをする

 趙思浚(ちょうすしゅん)が夜間の出来事の報告と巫医としての仕事を果たす間に、簫雨(しょうう)と光は別の客室で仮眠をとった。妖怪助けの仕事が一段落し両者が目を覚ましたのは例によって正午。三人と一匹は医局の卓で昼餉を共にこれからの事を語る事にした。


「結局、下手人について死者に語らせる目論見は失敗に終わりました。ほぼ一月後の新たな凶行を待つしかないのでしょうか?」

「いや、決めつけたものではないぞ、思浚」


 簫雨は趙思浚の茶碗に牛肉と青菜の炒め物を載せ、自分は羊肉の炒飯を口に入れる。本日の料理は昨日に比べてかなり豪華だ。これは簫家の旦那が泊まっていると聞きつけた城の女官や姫たちが競う様に贈り物をしたからである。もしそのうえ負傷している事まで知られていれば、こんなものでは済まなかったであろう。


「そうでやんすよ! 直に話さなくても、あの死体は多くの事実を明かしちまってる」


 卵のスープを飲み込んだ光が続ける。異世界の踊り子は豪勢な食事を男達よりも楽しんでいた。この世界と街の食物に既に完全に対応した様子である。


「明かしたというと?」

「まず犯人は趙さんみたいに……」

「お待ち下さい。光殿は共に死線を越え更に凶案解決の為の知恵を下さる方。僕のことは雨兄(うけい)のように『思浚』とお呼び下さい」


 巫医閣下は光の語りを止めて立ち上がると、拱手してそう嘆願した。


「え? それはさすがに恐れ多いというか……」

「どうか」

「う……これが華流韓流ドラマの時代劇観てる時の面倒くさいところでやんす」


 光はぶつくさと何か呟いたが、趙思浚の姿勢は変わらなかった。その様子を簫雨と孫悟空は食事を続けなから眺める。


「思浚さんとかスーさんとかシュンさんとか……あ! 『スンスン』でどうでやんす?」

「ふわぁ?」


 異世界の少女が口にした奇妙な響きに、冷静な神医も首を傾げた。


「いや、『すしゅん』と『すんすん』って音が似てて良いでやんすよ。全身も青いし。……まあ話し方は遠いかな」


 そう呟き一人、納得した光は改めて説明を始める。


「スンスンって言うのはあっしの世界にいた可愛いもさもさ毛の生物でやんす。それでいきやしょう!」

「可愛い生物ですか?」


 趙思浚は顔を赤らめて頬を膨らませた。


「恩人直々の命名だ。断る道理はないな?」


 そんな少年を青年がからかって笑う。


「う……分かりました。光殿はそうお呼び下さい」

「キキキ!」


 主が頷くと猿は嬉しそうに手を叩いた。


「お前は呼ぶな! ところで光殿、貴女の世界にも仙猿のような生物がいるのですか?」

「あーそれは難しいでやんすね。いると言えばいるしいないと言えばいないし……まあいるということで!」


 光は赤毛を掻いてそう応えた。それを見て孫悟空も同じ様に己の髪をいじりだす。


「こほん、話の続きへ戻ったらどうだ?」


 奇妙な間に咳を一つ、簫雨は光を促した。


「そうだった! あの死体にあった事で分かるのは……犯人もスンスンみたいな術を使える人、って事でやんす」

「ああ!」


 趙思浚はそれを聞いて箸を卓へ置く。


「確かに。遺体に女怪(じょかい)を潜ませる技は、市井(しせい)の術師の力の及ぶ範囲ではありません!」

「加えて言えばそやつは、思浚の力量と思惑を推測できる存在でもあるな」


 その事は既に脳裏にあったのであろう。簫雨は更に深い考察を述べる。


「あっしはこの世界の事も術の事もわかりはしやせんが、スンスンならそれでかなり対象を絞り込めるのでは?」

「ええ。少なくとも普通の武芸者や妖怪は対象から除外できます」


 巫医閣下の言葉を聞いた光は簫雨と目を合わせて微笑む。幻晶侠(げんしょうきょう)は遺体や現場の痕跡からそれらを知る事を目論見た。趙思浚と孫悟空の乱入で願いは叶わなかったが、皮肉な事に同じ存在によって幾つかの情報を得たのだ。


「もちろん、妖怪をあのように使役するのは邪法です。正体や術力を隠して行ったであろうことは想像に難くありません。ですが探ればかならず尻尾を掴めるはずです!」

「新しい死体ができるのを一ヶ月、無為に待つよりは遙かに良いでやんすよ!」 


 光の声援を受け、趙思浚は頬を赤く染めた。と、その目が簫雨の顔が急変したの捉える。


「雨兄? どうされました?」

「新しい死体……ならば古い死体はどうだ?」


 簫雨は箸で肉を四つ取り分け、右端を摘んだ。


「敵は思浚が動いた事を知り、四体目の死体に白骨夫人(はっこつふじん)を仕込んだ。だがその前はどうだ?」

「僕が調査に乗り出したのは三体目からです! そうか、悟空!」


 神医はそう叫ぶと大猿を連れて記録を納めた棚の方へ走る。


「どういう事でやんす?」

「前の三体には、反魂の術への妨害が施されていない可能性があるのだ」 

 簫雨は別の肉の山を端で摘み、口へ含む。

「え? でも流石にもう火葬してるでやんすよ」

「かそう?」

 異世界の踊り子と貴公子は互いに首を捻った。

「雨兄! 光殿のおられた世界はこちらとやや違う文化を持ってらっしゃるようです。もしかしたら遺体は全て、荼毘(だび)に付すしきたりなのかもしれません」

「キキキ!」


 戻った趙思浚は両者へ助け船を出す。その手元へ、孫悟空が幾つかの竹片を手渡した。この度の事件についての情報が記載された物体である。


「そうなのか?」

「ダビ? ダブステップの親戚でやんすか?」

「光殿の仰る通りです。残念ながら一人目は荼毘にされ寺院に収められています。ですが……」


 趙思浚が差し出した竹片に目を走らせ、簫雨は唇の端を上げた。


「二人目と三人目は葬式を挙げた後、埋葬されている。しかも二人目は意外な場所だ」


 それから貴公子は料理を何点か口にし、渋い顔をした。


「長安料理も良いが、やはり故郷の味が一番だな」

「何の話!? いやこの料理も美味しいでやんすが……」


 光は困惑顔だが、趙思浚は彼の意図を解り首肯した。


「二人目の死体は故郷に戻り、そこで埋葬されている。我が街、成慶(せいけい)にな」


 そして簫雨は『晶富(しょうふ)龍君(りゅうくん)』としての笑みを浮かべた。


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