叔父さんと僕、解説役をする
「読んだで! まさか幻晶侠と趙思浚が知り合いやったとはな!」
叔父さんはそう言って電話口で笑った。今回も、光ちゃんが部屋に取り残されたタイミングで電話してきたな。そういう決まりでもあるのか?
「いや予想された展開やろ。ヒーローの時は仮面やけど、素顔は顔の広そうな塩商人兼貿易商。そら設定的にそうなるて」
「表や裏の話やないけど、趙君も人間のお医者さんと妖怪のお医者さん兼任なんやな。その話の中で出てきた西王母様って誰なん?」
「仙人の女王様や。前の電話で話した崑崙山、仙界を統治してはる偉い女神様でな。たぶん趙思浚は方術を学んだ時に会ってるんやろ」
「へー。ところで前に気づいたんやけど、俺らのこのやりとりも投稿するんやな?」
「うん。叔父さんが疑問に思うことは即ち、武侠小説や中国モノに詳しくない読者が疑問に思うことやから。ちょうどええな、と思って」
「用語集とか解説ページは作らへんのか。そういや自分、サッカー小説でも面倒くさがって書いてへんもんな」
「いやあっちは面倒なだけやなくて、言葉の定義やサッカー観で戦争になる危険があるからやねん」
「まじか、サッカーファン怖っ! そや、何が言いたいかと言うとな。俺らの存在とか会話が人形三国志の紳助・竜介みたいやな、と」
「誰? 福田心之助?」
「誰がサンガの右SBやねん! 島田紳助と松本竜介の事や。NHKでやってた人形劇の冒頭や合間にな、その二人が現代的に解説したりインタビューしたりするシーンがあってん」
「あ、ちょっと聞き覚えあるわ……。その人の名前、出してええん?」
「……辞めとこか。ほなサンガの話やけど、紫の服が役に立ったな。あの時の七品とかは何なん? 定食のオカズの話か?」
「えらい豪華やな! 品ってのは官職のランクの話や。そんでランク毎に着れる色も決まってて、紫はめっちゃ偉い」
「そっか。光ちゃんの着てるユニフォームが紫であるのに意味がある、って言ってたんやな。……ネタバレ喰らってたやん」
「塩商人もネタバレやったやろ」
「それを言うたら宦官もな! 声だけ出てきたやろ?」
「あー、趙思浚を呼びにきた奴な。連れてったのも後宮やし宦官には違いないけど、下っ端や。幻晶侠の仇ではないやろ」
「なあ、宦官ってハーレムのお姫様を世話する為に、大事なもん切られてるやろ? 趙思浚君もか?」
「たぶん切られてないな。あの子は元御殿医で今は巫医やん。特別に許可されているし、方術の使い手として不犯の誓いをしてるかもしれん」
「不憫? 確かにそうやけど」
「ふびんちゃうふぼんや! 広い意味では戒律を守ることやけど、狭い意味で言えば一生童貞って事や。逆に言えばだからこそ女官とか光ちゃんの足にも平気で触ってる」
「どういうこと?」
「あの時代で言えば、成人女性の生足に触れるのはかなりエッチな事やねん。逆に男が恥ずかしがるくらい。それを平気でやってるのは、彼がそういう概念の外にいるからかもな」
「へー。その代わりと言ってはなんやけど、孫悟空はスケベで面白そうな奴やな。言葉分からんけど」
「アレもちょっと謎でなあ。一般的に言えば孫悟空はそんなキャラじゃないねん」
「そうか? あんな風でいてチチとやるもんやって悟飯悟天作ってるやん」
「それはドラゴンボールの話や、叔父さんも光ちゃんみたいなボケすんなや! 西遊記の孫悟空は暴れん坊やけど、女怪には惑わされへん。女色に溺れるのは猪八戒の方」
「あー言われてみればそうやな」
「そもそも西遊記が物語として広まるのはもっと後や。この話、唐とは言ってるけど現実とは色々ズレがある。興味深いわ」
「そうそれ! 『実に興味深い』とか『初歩的な事だよ』とか、ガリレオとホームズの決め台詞やんな?」
「ガリレオというか湯川教授な? まあそういうのがポンポンと出るところからして、光ちゃんは割とミステリー好きなんかもしれん」
「ギャップあるな。ダンス好きで探偵小説好きって」
「ちなみにネットでちょっと調べたけど、大手のダンス学校のHPには光ちゃんらしき子はいなかった」
「え、猫太朗調べたん? 探偵というかストーカーっぽい!」
「うるさいわ! でも気になるやん。お祖父さんが持ち帰った本に、現代日本の女の子が出てるなんて」
「確かに! 爺さんが中国大陸行ってたのは昭和やもんな。本はその時既に書かれてた訳やし。いわば未来やん?」
「なあ。あの本、ほんまに大陸から持ち帰ったやつ?」
「その筈やで。見た目にも古いし」
「いやそれは誤魔化せるやろ? 翻訳終わったら、どこかの研究施設へ持ち込むか……」
「そこまでする!? でもまあ気になるなら、また祖父さんの蔵でも調べてみるわ」
「頼むわ。俺も翻訳早く終わらせてみる。本題の事件はあっさり解決する可能性もあるし」
「そうなん!? 手がかりないやん?」
「『反魂香』って名前が出てきたやろ? つまり夜中にやる儀式って……」
「ちょ! ネタバレ辞めや!」
「普通、文字でわからへん?」
「わーわーわからへん! ほなまた電話するわ!」
叔父は子供のように喚いて電話を切った。まあいいさ、僕も翻訳に戻ろう。
ただしちょっとムカついたのでネタバレをしておく。この後、趙思浚は儀式で死体を蘇らせて、犯人の情報を喋らせることになるだろう。




