確保⑩
「ほ、宝石だにゃ!」
「な、なんだって!?」
勇者様が驚きトリストの元へ向かう。
「お、おう。でかしたぞトリスト」
「これで大金持ちだにゃ」
トリストが悪い顔をしている。
レスティも解除されたトラップに気を付けながら二人の元へ向かう。
「ちょっと二人とも……」
レスティは一応確認のため聞いておこうと思い、二人に聞く。
「これはちゃんと持ち主に返すのよね?」
「え? あ、ああ、もちろん。もちろんそうに決まっているだろう」
まったくもって決まっていなかったような言い草な勇者様。
「な、トリスト!」
「にゃ! そ、そうに決まってるにゃ!」
トリストも決まっていないような言い方だ。
「二人ともシーフとシーフ見習いじゃない! そんなことしたらあの盗賊と思われる者たちと一緒に番兵に身柄を引き渡すわよ」
「な、何を言っているんだ、レスティ。この宝石はしっかりと持ち主に返すつもりだよ」
「ゆ、勇者様の言う通りだにゃ」
「ま、それならいいけど。それじゃあこれは私が持っているわね」
信じられないのでレスティ自身が持っていることにする。
「にゃー!」
トリストが恨めしそうにしている。
「これが勇者として生きる道だ」
勇者様が何かを悟ったようなことを言い出す。
「トリスト、お前も勇者パーティとして生きるのであればこれを受け入れろ」
「わ、わかったにゃ。ぐすん」
「え、何で涙ぐましいシーンみたいになってるの? 正義じゃん。私が正義じゃん」
「というわけで、トリスト、街に行ってきてくれ」
「了解だにゃ。今度こそ行ってきますだにゃ」
「切り替えが早くて怖いわ。情緒がわからない」
「ちっちゃいことは気にするな。それワカチコワカチコ」
勇者様が奇妙極まりない動きをしている。
「それも怖いから。意味わからないから」
何なんだ。勇者様は一応勇者なんだから、売れない芸人みたいなことしないでほしい。
「さあ、レスティ。村の残りを見て回るぞ」
「わかったわ」
なんだかテンションについていけないけど、仕事は仕事。残党探しを再開する。
こんな張り詰めた空気の中、二人で街を歩くのではなく、もっとリラックスしてお互い素のままでこの景色を見たかった。
夢は夢のまま、村を一周した。
残党はなし。予想通りではあった。
リアのいる噴水のところに向かう。
不安そうに身を知事目ながら一人腰を掛けているリアがいた。こちらに気が付くと明るい表情に変わった。
「やっと戻られましたね。こちらは無事完了しています。勇者様たちはどうでしたか?」
「ちょっとしたハプニングはあったが、問題はなかった。もう結界は解いていいぞ」
「わかりました」
リアが呪文を唱える。
「はい、これで結界は解けました」
「もしかしたら残党が結界の向こうから援軍としてやってくることもあるかもしれないから、またいつでも結界を張れるように準備はしておいてくれ」
「わかりました。ところで勇者様、ハプニングとは何があったのですか?」
「レスティ、説明してやってくれ。余計なことは言わなくていいぞ」
「はいはい」
勇者様に言われた通り、リアに説明をする。
残党探し中に【気配察知】に引っかかったと思ったらトリストがいたことと、そのやりとりの中で盗まれた宝石を見つけたことを掻い摘んで説明する。
勇者様の言う余計なこととは、恐らく、シーフとその見習いが宝石をネコババしようとしたことだと思われるので、少し癪だが言わないでおいた。
レスティがポケットから保管しておいた宝石を出すと、リアも驚いた様子だった。
「こんなにたくさん……。しかも立派なものですね……。持ち主にちゃんと返るといいですね」
リアはいい子だ。勇者様をめぐるライバルではあるし、なかなか毒のあることも言うが、いい子だと今日は認めよう。なんせクズの所業を見たばかりなのだから。
三人で噴水のことろで座って話をしていると、馬車が一台村に入ってきた。クラトゥ村の手前で降りた馬車だ。




