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異世界初心者  作者: 寿々喜 節句
第二章
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確保⑪

「あれから一時間しか経っていないのね」


「そんなもんだろ。時間を食うことなんてなかったからな」

 勇者様が立ち上がり、馬車に手を振る。

「長かったのは、俺の説明と、トリストとの一件くらいだろうけど、それだってそれぞれ十分くらいだったんじゃないか」



 馬車の御者が勇者様に気が付き、こちらに向かってくる。そして勇者様の手前で止まった。


 勇者様が御者に事情を説明すると、驚いた表情をしたが、さすが勇者様だとあがめ始めた。だがあの地獄絵図を見たらきっと違うリアクションになるだろう。


 あれは本当にひどい仕打ちだった。しかしなぜだろう。盗賊と思われる者たちのあんなに引くほどの様子を見たのに、勇者様のことを嫌いに離れない。パーティを抜けてやろうという気持ちになれない。トリストとリアも同様なのではないだろうか。


 むしろもっと一緒にいたいと思う。もっと勇者様のことを知りたいと思ってしまう。そう思わせるのが彼の魅力なのだろう。


 普通ではないとは思う。でもしっかりと結果は残している。勇者としての実績は確実に積んでいる。


 たまに転生者の中には、全くもって役に立たない者もいると聞く。それは勇者という立場を利用して好き勝手やっている者だったり、勇者という役割が重すぎて逃げ出す者だったりいろいろだ。そもそも才能がないという者もいるらしい。


 しかし今目の前にいる勇者はどうだろう。好き勝手やっていると思う。役割から逃げているとも思う。だがその反面、結果を残しているのだ。


 方法、過程には問題はあるかもしれないが、非難されるほどのことではないだろう。


 強くもないし男らしくもないが、立ち回りはうまい。そういうことなんだろう。うん、そういうことにしよう。それも才能だ。



「おいレスティ。何ぼーっとしてるんだよ」


「え、あ、な、何でもないわよ。早く番兵が来ないかしらって考えていたのよ」


「まだ来ないだろう」


「そうですね。トリストちゃんもまだ街についていないと思いますよ」


「さあ、じゃあ俺らは馬車で帰るぞ。長い道のりだからな」


「どうせ勇者様は眠るんでしょ?」


「当たり前だ。今から出発すれば、遅くはなるが今日中には戻れるだろう。王様が会ってくれるかはわからないけど、さっさと報告して打ち上げでもしよう」


「打ち上げしてくれるの?」


「あれ? やりたくない?」


「そういう意味ではないですよね、レスティさん」

 リアがレスティ代わりに応える。

「前回、勇者様が馬車酔いで打ち上げにほとんど参加されなかったので、今回はないかと思っていましたし、こちらから打ち上げについて言い出しにくかったのです」


「そうよ」

 リアが全て代弁してくれたのでうなずくだけだ。


「ああ、あの時はそうだったな。辛かったし、楽しんでるお前らが憎かったよ」

 しみじみと思い出すように勇者様が空を見上げながら言う。

「でももう大丈夫だ。寝れば酔わないからな」


「それならよかったです」


「じゃあ出発するか。さあ馬車に乗れ」



 馬車に乗ると勇者様は横になった。御者が馬に鞭を入れ馬車が走り出す。すぐに勇者様は眠りについた。


 それを見ていたレスティも眠気に誘われる。リアを見るとすでにうとうとしていた。


 あまりエネルギーを使わない捕獲作戦だったが、なんだかんだ言って疲れがたまっているようだ。


 キュオブルクまで数時間かかるし、勇者様同様、寝ることにしよう。

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