確保⑪
「あれから一時間しか経っていないのね」
「そんなもんだろ。時間を食うことなんてなかったからな」
勇者様が立ち上がり、馬車に手を振る。
「長かったのは、俺の説明と、トリストとの一件くらいだろうけど、それだってそれぞれ十分くらいだったんじゃないか」
馬車の御者が勇者様に気が付き、こちらに向かってくる。そして勇者様の手前で止まった。
勇者様が御者に事情を説明すると、驚いた表情をしたが、さすが勇者様だとあがめ始めた。だがあの地獄絵図を見たらきっと違うリアクションになるだろう。
あれは本当にひどい仕打ちだった。しかしなぜだろう。盗賊と思われる者たちのあんなに引くほどの様子を見たのに、勇者様のことを嫌いに離れない。パーティを抜けてやろうという気持ちになれない。トリストとリアも同様なのではないだろうか。
むしろもっと一緒にいたいと思う。もっと勇者様のことを知りたいと思ってしまう。そう思わせるのが彼の魅力なのだろう。
普通ではないとは思う。でもしっかりと結果は残している。勇者としての実績は確実に積んでいる。
たまに転生者の中には、全くもって役に立たない者もいると聞く。それは勇者という立場を利用して好き勝手やっている者だったり、勇者という役割が重すぎて逃げ出す者だったりいろいろだ。そもそも才能がないという者もいるらしい。
しかし今目の前にいる勇者はどうだろう。好き勝手やっていると思う。役割から逃げているとも思う。だがその反面、結果を残しているのだ。
方法、過程には問題はあるかもしれないが、非難されるほどのことではないだろう。
強くもないし男らしくもないが、立ち回りはうまい。そういうことなんだろう。うん、そういうことにしよう。それも才能だ。
「おいレスティ。何ぼーっとしてるんだよ」
「え、あ、な、何でもないわよ。早く番兵が来ないかしらって考えていたのよ」
「まだ来ないだろう」
「そうですね。トリストちゃんもまだ街についていないと思いますよ」
「さあ、じゃあ俺らは馬車で帰るぞ。長い道のりだからな」
「どうせ勇者様は眠るんでしょ?」
「当たり前だ。今から出発すれば、遅くはなるが今日中には戻れるだろう。王様が会ってくれるかはわからないけど、さっさと報告して打ち上げでもしよう」
「打ち上げしてくれるの?」
「あれ? やりたくない?」
「そういう意味ではないですよね、レスティさん」
リアがレスティ代わりに応える。
「前回、勇者様が馬車酔いで打ち上げにほとんど参加されなかったので、今回はないかと思っていましたし、こちらから打ち上げについて言い出しにくかったのです」
「そうよ」
リアが全て代弁してくれたのでうなずくだけだ。
「ああ、あの時はそうだったな。辛かったし、楽しんでるお前らが憎かったよ」
しみじみと思い出すように勇者様が空を見上げながら言う。
「でももう大丈夫だ。寝れば酔わないからな」
「それならよかったです」
「じゃあ出発するか。さあ馬車に乗れ」
馬車に乗ると勇者様は横になった。御者が馬に鞭を入れ馬車が走り出す。すぐに勇者様は眠りについた。
それを見ていたレスティも眠気に誘われる。リアを見るとすでにうとうとしていた。
あまりエネルギーを使わない捕獲作戦だったが、なんだかんだ言って疲れがたまっているようだ。
キュオブルクまで数時間かかるし、勇者様同様、寝ることにしよう。




