事務手続き③
□◇■◆(レスティ)
二人は黙々と食べ始めた。今日はレスティがしゅんとしてしまったので会話が進まない。いつもレスティが会話を始めているからだ。勇者様から会話が始まることはほとんどない。
ろくな会話もないまま食事が終わる。食後のお茶をメイドが運んできてくれる。
「そうだレスティ、きいたことがあるんだけど」
珍しく勇者様から話が始まった。
「盗賊事件はどうなった?」
「え、盗賊事件のこと?」
レスティとしては、自分のことを聞かれると思ったので、聞き返してしまった。
「聞きたいことってそれ?」
「うーん。まあ、聞きたいかどうかは微妙かな……。話題提供ってやつ?」
勇者様のやさしさだと思った。この沈黙を打開するための質問だったようだ。
「俺が本当に聞きたいのは君の声だから」
「え、ちょっと急に何よ」
レスティの頬が熱くなる。きっと赤くもなっているはずだ。
「と、盗賊事件のことでしょ? 相変わらずらしいわよ。早く捕まると思ったんだけど、なかなか捕まらないみたいね」
「そうなのか……。どこの世界にもいるんだな」
勇者様がお茶をすすっている。
「あ、そうだ! 聞いてよ勇者様!」
勇者様の方にさりげなく手を置きスキンシップを取る。
「私のアパートが今日、盗賊に荒らされたそうなのよ。住人は無事だったんだけど、大事な宝石が盗まれてしまったって言っていたわ」
「レスティの管理しているアパートに侵入されたのか」
勇者様は驚いた様子だった。
「それは気の毒だな。今度俺から励ましに行ってやるか」
「勇者様が? わざわざ?」
意外な提案に驚くレスティ。
「いいわよそんなの。私が行くから」
「いや、俺はこの世界では勇者としてそれなりの地位にいるんだろ? 俺から直接声をかければ元気になるんじゃないか? それにレスティのアパートに住んでいてよかったって思てもらえるはずだ」
「まあ、それもそうだけど」
なかなかいいアイデアだと思った。
「それならお願いできるかしら?」
「ああ、明日行ってくるよ。後で住所を教えてくれ」
肩に乗せていたレスティの手を勇者様の手が拾う。
「いつものレスティに戻ったね」
「だ、だから急に何よ」
いくら戦闘に慣れていても、勇者様のこの不意打ちには慣れることはない。
「さっきはごめんなさい。でももう大丈夫よ。明日以降の私の働きぶりを見ていてね」
「ああ、わかった。期待している」
「それじゃあ私はお風呂にしようかな。 今日は考え事をしたいから、一人で入るわね」
「了解。それじゃあ次に入れさせてもらう」
勇者様はメイドからお茶のおかわりをもらっている。レスティは逃げるように浴室に行く。




