招集命令①
□◇■◆(幸助)
幸助はレスティと朝の街を歩いていた。昨日はレスティの家に泊まったので、少し早いがぶらぶら街を散策しながらクルミカフェに向かっていた。
転移からしばらく経って、それぞれの家にローテーションで泊まる生活にも慣れてきていた。当初は抵抗感があったが、実際やってみると悪くなかった。非現実で面白いと感じている。
それぞれがそれぞれのおもてなしをしてくれる。
レスティはさすが上流階級というだけあって、家にメイドがいる。そのメイドさんの料理がおいしい。それにお風呂も大きいし、部屋もいい匂いがする。息子二人はいまだに会ったことはない。パーティを組んでいて、しょっちゅう冒険に出ているらしい。
リアの家には弟が一人いる。弟は病弱と聞いていたが、実際会ってみると、本当に具合が悪そうだった。そして魔法本がたくさんあり、リアの努力が垣間見ることができた。また、日本についても勉強しているらしく、日本の家庭料理の本などもよく読んでいるようで、いつも手料理をふるまってくれる。
トリストは貧民街に住んでいた。お世辞にもいい家とは言えない。小さいころから一人で生きているらしく、シーフになったのは必然だったのかもしれない。しかし笑顔が絶えない。トリストのおもてなしは、食事ではなく笑顔だ。あの屈託のない笑顔には元気をもらえる。
誰が良いとか悪いとかではない。泊めてもらっている身で比較なんて失礼だ。それくらいの分別は身についている。
泊まるときのみんなとの約束はあったが、結局男と女だった。
約束なんてあってないようなものだ。女性陣はみんな約束を守っている体を貫いているが、実は幸助は女性陣の体を貫いている。それならそれでいい。幸助にも都合が良い。
「ねえ、みんなと合流する前にどこかで軽く食べていかない?」
レスティが幸助の袖を引っ張る。
「いいのか? お昼はみんなと食べるんだろ?」
「そんな約束、あってないようなものじゃない」
痛いところを突かれ、幸助は返す言葉がなかった。
そんな変な空気を打ち破るかのごとく、背後から勢いよく声が聞こえた。
「おっはよー勇者様! にゃー」
姿は見えないが、にゃーで誰だかすぐにわかった。語尾ににゃーがつかないならそれで良いじゃないか。無理ににゃーって言う必要があるのだろうか?
しかしまあ、丁度良いところに現れてくれた。
「お、おはようトリスト。早いじゃない。もっとゆっくり来ても良かったんじゃない?」
レスティはトリストが急に現れ、残念そうにしている。
「ゆっくりしていたらレス姉と勇者様が勝手ににゃにかしてしまうかもしれにゃいにゃ」
「な、なによそれ。そんなことするわけないじゃない」
レスティは動揺しているようだ。
「ま、とにかクルミカフェに向かうにゃ」
あの話し合いの日に利用して以来、クルミカフェには店主のご厚意で幸助のパーティ専用の席が設けられた。実際には大々的に幸助一行の専用となっているわけではないが、暗黙の了解で、幸助たち以外は通さないでくれている。
入って左奥の角の六人掛けのボックス席。
幸助としてもクルミカフェは気に入っているので、ご厚意に甘えさせてもらっている。
以前転移されされた先輩勇者がこの世界のコーヒーのレベルを飛躍的に上げたらしい。コーヒー党の幸助としてはこの上ない喜ばしい設定だ。
そして料理も美味しくリーズナブル。まだ全ての料理を食べたわけではないが、今まではずれを引いたことがなかったので、これから食べるものにも期待をしている。近くにお越しの際はぜひお立ち寄りください。
クルミカフェに着き、店員に挨拶すると、特等席に案内された。そこには先客がいた。




