処刑②
「おい、レスティ。どうした? 下がるぞ」 幸助がレスティだけに聞こえるように言い、腕を引く。
レスティは幸助の手を払う。
「裁判長! どうか寛大な判決を! 私の大切な仲間なのです!」
涙ながらにレスティは裁判長に訴えた。
しかし観衆は黙っていなかった。
「ふざけるな! 魔物を街に放っておいて生かせてておけるか!」
その発言を皮切りに、怒号が飛び交った。
レスティもその間、訴え続けているが、観衆の声の厚みには敵わず、誰一人聞くことはできなかった。
「静粛に、静粛に」
裁判長が鎮める。
「レスティよ。仲間を失う君の気持ちもわからなくはないが、リア・デルニエールの行いはそれ相応の処罰が下されて当然だ」
「ですが! ですがそこを寛大な判決を!」
レスティは最後まで訴えるが、裁判長は視線をリアに向ける。
「リア・デルニエール、判決を下す。リア・デルニエールの行いは街全体を脅かし、四人の命まで奪った。よって死刑を言い渡す。執行は今すぐ」
裁判長はそう言うと、衛兵に指示をした。
「斬首刑の準備を始めよ」
「裁判長!」
レスティの訴えもむなしく、死刑が決まった。
いや、決まっていたことだ。形式に裁判を行っただけだ。
だから俺も何も言わなかった。わかっていたから。
しかしレスティは違った。最後まであがいた。
リアに対して敵対心はなくなっていたのだろう。
「レスティさん……」
リアがレスティに話しかけている。
「レスティさん、最後まで訴えを……」
「リア、無力でごめん」
泣き崩れるレスティ。
「私が守ってやれなかった」
「レスティさん……。あなたまだそんなこと言っているのですか?」
リアは目を見開き、レスティに言う。
「私達は敵同士です。仲良しごっこではないのです。あーあ、その程度の覚悟のあなたに勇者様を取られてしまうなんて、残念で仕方ないです。そこは私の場所だったはず。私の場所だったはずです!」
「リ、リア!?」
戸惑うレスティ。
しかしリアは止まらない。
「勇者様。そんな女のどこがいいのですか? 私の方が覚悟があります。あなたのためなら何だってします。私は忠実です。そして実行力もあります。レスティさんなんかよりよっぽど役に立ちます!」
「狂ってる……。どうしたのよ! リア!」
レスティが叫ぶ。
「私達は敵だった。それでです!」
「静粛に。それでは衛兵よ、リア・デルニエールを斬首台へ移動させなさい」
衛兵に引かれ、斬首台のリアが階段を上る。
レスティはうなだれ、泣いている。リアのことは見ていない。
リアが膝を立てる。
衛兵に髪を掴まれ、首枷を付けられる。
リアは抵抗しない。静かにしている。表情もない。
観衆は盛り上がている。
斬首台の刃が落ちるまで間もなくだ。ボルテージは最高潮。
今か今かと男も女も子供もお年寄りも目を輝かせている。
「それでは刑を実行する」
裁判長の掛け声とともに、斬首台の刃を引っ張っていたロープが衛兵によって切断される。
きれいな刃だった。しっかりと磨かれ、しっかりと研がれている刃。
支えをなくしたそのきれいな刃は勢いを増して落下する。
ザクッ
ボトッ
ゴロン
ドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドク
「これにて閉廷」
裁判長が刑の執行終了を知らせるが、観衆はより一層歓喜をあげる。
帰宅する様子はない。
衛兵たちがリアの亡骸や斬首台を片付け始めている。
幸助は裁判長のところへ行く。
「裁判長。リアは罪を犯し、その罰を受けました。当然の報いです。しかしレスティが言ったように仲間であったことも事実です」
「そうじゃな。辛いことだっただろう」
「はい……。そこで一つ頼みがあります。リアのネックレスを形見としていただけないでしょうか」
「そういうことか。まあこの件は君たちが片づけてくれたということもある。好きにするがいい」
裁判長は幸助の肩にとんとんと手を乗せた。
「ありがとうございます」
裁判長にお礼を伝えると、リアの亡骸のところへ移動する。
リアの頭のない首から血が滴っている。
その下に落ちていた真っ赤に染まったネックレスを拾う。
ねっとりと血が糸を引く。
このネックレスは幸助がリアにプレゼントしたものだ。
幸助はハンカチでネックレスを包むと、リアの亡骸に手を合わせた。
裁判長と衛兵にもう一度お礼を言い、レスティの元へ戻る。
レスティはその間、うわの空だった。
幸助が戻ってきたのを確認すると、眉をぴくっと反応させたが、特に動きはなかった。無気力だ。
レスティの腕を持ち、立たせる。
一人で歩けそうになかったので、高助はレスティを抱きかかえるようにして、処刑場を後にした。