処刑①
□◇■◆(幸助)
リアが処刑される。
この国ではギロチンによる斬首刑での見せしめだ。
リアの行いはそれに見合うだけのことではある。
しかし、苦楽を共にした仲間である。見ていて気持ちのいいものではないだろう。
ならば見に行かなければいいと思うが、しかしそれは難しい。
レスティと共にリアを捕まえた張本人として、重要な証人となっている。
捕まえた際に狼の魔物を使っていたことが証拠になっているが、証人として出廷しなければならない。
「せっかくレスティが落ち着く兆しを見せたのに」
幸助の独り言は誰にも聞こえない。
それもそのはず。今いる処刑場は大盛況を見せていた。
中世ヨーロッパよろしく、斬首刑は毎日を退屈に過ごす市民にとっては、待ちに待った刺激的なイベントとなる。
街中の人が押し寄せている。
「早く罪人を出せ!」
「街に恐怖をばらまいた奴を殺せ!」
殺人事件に対してのうっぷんが吐かれている。それに関しては致し方ないところだ。こちらもリアをかばいようがない。
しかしともに成長してきた仲間。転移一日目に出会い、一番最初に言葉を交わして人でもあった。
そのリアが、処刑される。
仕方ないのだ。
しょうがないのだ。
かばって隠し通すこともできたかもしれないが、それは自分の意に反する。
勇者になったつもりはない。勇者云々の前に、譲れないものがある。
隣に立つレスティは無言だ。俯いている。
一人で立つのもやっとのため、幸助の腕を掴んでいる。
精神的な支えにもなっているのだろう。そっとしておく。
処刑場の門が開き、衛兵が出てくる。
手に縄を持っており、リアの両手につながっていた。
リアの顔はいつも通りのように見える。落ち着いているようだ。
死を目の前にしての焦りや悲しみといった感情はなさそうだ。
かといって、罪悪感を持っている様子もない。
それを観衆も感じとったのだろう。
「さっさと首を切れ!」
「態度が気にくわねぇ!」
「謝罪の一言でも言えねぇのか!」
紙くずや卵などが投げられる。
裁判長が静粛にと声をあげると、少し観衆もおとなしくなった。
リアの態度に変化はない。ただまっすぐ前を向いている。何を考えているかはわからなかった。
「それでは、リア・デルニエールの裁判を行う」
裁判長が宣言する。
リアのフルネームを初めて聞いた。デルニエールと言われてもピンとこなかった。
「まずは、証人。前に出なさい」
裁判長に指示され、二人で前に出る。
「この者が魔物を操っていたことに間違いはないか?」
「「間違いありません」」
二人同時に発言したが、レスティはほとんど声になっていなかった。
「うむ、下がってよい」
これだけのために呼ばれたのだ。
しかしやらなくてはいけない儀式のようだ。
裁判長に促され、幸助は下がる。
しかしレスティはそばに立ち尽くしたままだった。




