リアのモーニングルーティン①
午前七時、リアの一日が始まる。
毎朝決まった時間に目が覚める。いつからかは覚えていないが、習慣として身についている。
小さい頃は母に起こしてもらわなければ、いつまでも寝ていたのに。
大人になったということか。それとも立派な社会の歯車となったということか。
嬉しいような、悲しいような。
ベッドから抜けるとまずはカーテンを開け、朝日を入れる。今日は晴れ。
窓も開けて換気をしよう。爽やかな朝の風が、こもっていた部屋の空気と共に、心の中も浚っていく。
ベッドメイキング済ませたら、部屋を出る。
朝のご飯の支度だ。
弟はこの時間はまだ寝ている。弟は夜型なので朝早くから起こすと、機嫌が悪くなって、手がつけられない。
一人での朝食は寂しいが、今は弟は放っておく。
今日の朝ご飯はトーストと目玉焼きとサラダ。簡単なものなのですぐに完成だ。
パンは懇意にしているパン屋さんから毎週一斤買っている。そのパン屋さんは生食パンが美味しい。どこかの勇者様の持ち込んだ技術だ。焼かずに食べるパンがあったとは、考えた人はすごいと思う。
でも今日のパンはトースト用。一枚切り分け、オーブンへ。残りは包装して棚に戻す。
焼いている間に卵を一つフライパンに落とす。水を少し入れて蓋をする。卵は半熟が好き。
次に葉野菜をちぎって盛り付ける。それにヤングコーンとプチトマトを加えて色味を良くしよう。
後はトーストと目玉焼きの焼き上がりを待つのみ。お湯を沸かしておいたので、紅茶を飲んで一息つく。
朝ごはんにもっと手の込んだものを作ることもあるが、今日は質素に済ませる。
勇者様が泊まりに来るからだ。朝から夕飯の下ごしらえをしたいのだ。
食事に関して、トリストちゃんには問題視していないが、レスティさんには警戒している。
レスティさんの家にはメイドさんがいておいしい料理を作っていると聞いたからだ。
レスティさんのメイドさんは、フレンチやイタリアンといった手の込んだ日本の料理を作るのかもしれないので、私は家庭料理で勝負をしようと思う。
昨日の段階で今晩のメニューは決めていた。
肉じゃがだ。
どうやらおふくろの味というらしい。
日本では定番の家庭料理で、肉じゃがを上手に作れる女性はモテるらしい。どの世界でも、男性はマザコンということなのだろう。
男をつかむならまず胃袋をつかめとよく言うが、日本でも同様だという。私も勇者様の胃袋をつかみたい。
肉じゃがは食べる直前に作るよりも、少し前に作ったほうが具に味が染み込み、美味しさが増すと聞いた。だから朝から作っておく。
早速取り掛かる。
まずはじゃがいもと人参を食べやすい大きさにカットする。
豚肉はこま肉にした。柔らかくなるように、少しお酢で揉み込む。
鍋のお湯が沸いたので、じゃがいもと人参と豚肉を入れて茹でる。
少し休憩。さっきの紅茶は冷めてしまったので、また淹れなおし。
レシピ本をパラパラめくる。「おいしい日本食」というタイトルの、その昔日本から来た勇者様が書いたベストセラーのレシピ本。こんなに売れたレシピ本はほかにない。
しかしどうしてこの本にはフレンチやイタリアンといった日本料理のレシピが載っていないのだろうか。
フレンチはお城で初めて食べたが、やはり手間がかかるからか。
あんなに手の込んだものでは、本が売れない。家庭料理でないから載っていないのだろう。
イタリアンはクルミカフェでパスタ料理を食べたことがあるが、この本には載っていない。
カルボナーラやナポリタンといったパスタ料理はそこまで難しい料理ではないのに……。パスタ料理は種類が多いから、パスタ料理専門のレシピ本を見たほうがいいということだろうか。