仇討ち④
□◇■◆(幸助)
幸助はレスティが衛兵を連れて戻ってくるとリアの身柄を受け渡した。
肩の痛みになれたのか、もう悲鳴は上げていない。
しかし、「許さない」と繰り返し、呪詛のように唱えている。
「リアの家を調べてみてください」
幸助は衛兵に伝えた。
とりあえず今日はリアを監獄に入れて、明日から動きがあるとのことだった。
おそらく公開処刑になると衛兵が話していた。
レスティは機序に振舞っていたが、限界がきたようだ。
衛兵に連れられて遠ざかっていくリアの姿を見ながら、頬に涙を流していた。
「大丈夫だ。俺がいる」
幸助はレスティを抱き寄せる。
「二人のことは一旦忘れろ」
「うう……」
レスティは幸助の胸に抱かれうなだれるだけだった。
レスティが落ち着いてきたの感じると、幸助がレスティの肩を掴み、目と目を合わせる。
「落ち着いたか?」
できる限り優しい口調で、安心できるように、ゆっくりと話す。
「う、うん……」
ほとんど声になっていなかったが、首を縦に振ったので、落ち着いたと判断した。
「それじゃあ帰ろう」
幸助はレスティの肩を抱き、レスティは幸助に体を預けるように歩く。
そんな二人からは虚無感が漂っていただろう。
足取りが重たかった。今日一日に起きたことが嘘のように思えた。
いつもだったら十分でたどり着くところを、三十分かけて歩いた。
体感としてはもっとかかっているように感じた。
レスティの家だ。
レスティの息子たちはしばらく冒険に出ているとのことだったので、家には誰もいなく、暗かった。
一人で家に帰さなくてよかったと思った。
暗さにレスティがおびえているからだ。無理もない。レスティの精神はボロボロなのだろう。
今日は一日、いやしばらく一緒にいてやろう。ケアが必要だ。それに俺も一人でいるのは気が引ける。
一度シャワーを浴びたほうがいいと思い、バスルームへ行く。
レスティもついてきた。同じ家にいるとはいえ、姿が見えなくなるのが怖いのだろう。
何も言ってこなかったが、そうだと思った。俺がレスティならそう思うからだ。
シャワーを一緒に浴びた。普段ならキャッキャするところだが、終始無言。機械的に身体を流す。
レスティは何度も何度も体を洗っていた。悪いものを落とすように。
体を拭き、寝間着になる。
寝室で二人布団に入る。
レスティがくっついてくる。
いつもだったら甘い空気になるが、今日は違う。
単純に怖いからくっついてくるのだろう。
レスティが鼻をすすっている。泣いている。
寝る前に一日を振り返ることがあるが、今日だけは振り返りたくない。
「レスティ、お休み」
返事はない。
「俺がいるから安心しろ。出会った時のように朝から出て行くことなんてしないからな」
少し間があってレスティは答えた。
「絶対だからね。私を守ってよ」
「レスティが望むなら」
「望むわよ」
「そうか。それならそうする」
「ありがとう、おやすみ」
「ああ、おやすみ。明日は良い日になるといいな」
俺は目を閉じた。
振り返りたくないと思ったが、一日を振り返ってしまう。
トリストの死と、リアの行い。
ただ何かがひっかかる。
何か忘れているような。
嫌な予感。
トリスト……死……犯人……リア……黒魔術……逮捕……!
目がカッと開く。
明日は良い日にならない。
もしかしたら最悪の日になるかもしれない。