仇討ち③
「うそでしょ? リア」
黒魔術は禁止されている魔術だ。
もしかしたら使えること自体には問題はないかもしれないけれど、犯罪者予備軍とみなされることはあるだろう。
「勇者様! 裏切りましたね!」
リアの声が変わった。低い声で怒鳴るように言った。
裏切る?
何のことを言っているのだ?
「私は勇者様と一緒にいたいから、ここまで来て、レスティさんを私に殺させようとしたのではないのですか!? 違うのですか!?」
「何を言っている。俺はお前の闇を暴くためにここに来たんだ」
「ちょっと何を言っているのよ。訳が分からないわ」
混乱している。リアが犯人? 私を殺す?
「勘違いでしたか。あーあ。とんだ笑いものです」
「リア! どうしたのよ! うそだと言ってよ!」
はぁ、とため息をついてリアは話し出した。
「レスティさん。私達は仲間ですが、敵ですよ? 勇者様を奪い合う。それでトリストちゃんを殺したのです。そしてあなたを殺して勇者様と結ばれようと思ったのです」
リアは抵抗するのをやめたようだ。
だからといって勇者様は力を緩めたりはしない。
「私は治癒師ですが、黒魔術使いでもあります。聖槍の対黒魔術魔法を私の家の本で学んだと勇者様が王国魔法使いの前で言ったときはヒヤッとしましたが、あれはわざとだったのでしょう? 意地汚いですね。そうです。その本は私の黒魔術の教科書です。私のオリジナルの黒魔術もあるんですよ? この狼ちゃんもそうです」
「なかなか強力な魔物も作れるんだな。少し見誤っていた。今は動かないけどな」
勇者様がリアに言う。
「そうですね。この状況では指示を出せませんから」
「レスティ、そこのリアの杖を持っていろ。お前が持っている分には狼の魔物も動かないだろう」
勇者様があごで杖の位置を示す。
言われた通りリアの杖を拾い上げる。
なかなか重い。いや、黒魔術の話を聞いて、先入観でそう感じているだけかもしれない。
「それにしても悔しいです。勇者様ともう共にいられないなんて」
リアが本当に悲しそうな声をする。すすり泣いている。
が、だんだんと声を荒げる。
「悲しい、寂しい、悔しい、辛い……。あああああああああむかつく! レスティ! これから先、お前が勇者様と二人っきりになるなんて!」
「ちょ、ちょっとリア……どうしちゃったのよ。楽しくクルミカフェで過ごしていたじゃない」
「楽しくですって? さっきも言いましたけど、私たちは仲間でしたが、結局は敵です。勇者様のパーティだから一緒にいただけです。本来は敵。勇者様にふさわしいのは誰なのか、そういうことで集まった三人だったのをお忘れになられたのですか? そんな能天気な奴に私が負けたなんて、頭にきます!」
「リア、もういいだろう。お前はやり過ぎたんだ」
リアにそう言うと、勇者様はリアの腕を持つ手に力を入れた。
ばきっと大きな音が聞こえたと同時にリアが悲鳴を上げる。
「ぎゃあああああああああああああああ」
左肩を折られたリアがのたうち回る。
戦闘をしないリアがダメージに強いわけがない。
それに杖も今は私が持っている。
得意のヒールも使えない。
「レスティ、リアは俺が何とかする。また衛兵を呼んできてくれ」
勇者様が紐を取り出し、リアを縛り上げる。
「わかったわ」
返事をすると、急いでキュオブルクに向かった。