仇討ち①
□◇■◆(レスティ)
事情を衛兵に話した後、トリストの死体発見現場から離れ、クルミカフェに来ていた。
テーブルの向かいには神妙な面持ちの勇者様とリア。それもそうだろう。死んだトリストを見つけた直後なのだから。恐らく私も同じような顔をしている。
「仇討ちに行こう」
勇者様が決意したように言う。
「行こうって言ったって、当てはあるの?」
闇雲に動いても被害が増えるだけかもしれない。
あのトリストが殺されたのだから。
それに何の準備もなく、突発的な行動に出るのは、勇者様らしくない。私が冷静になって制さなくては。
「ああ。ある」
思っていた答えと違った。当てがあると、勇者様が断言した。
さっきまで、魔物の存在はおろか、事件そのものも知らなかったのになぜわかるのか。
「ゆ、勇者様、それは危ないのではないでしょうか」
リアも同様に困惑している。
「そうよ。ここは冷静になって」
「冷静な判断の元、言っている」
語尾が強く、確信しているのがわかる。
これはもうついて行くしかない。
「わかったわ。それでどうしたらいいの?」
今までなんだかんだ解決してきた勇者様だ。トリストの死も解決できるだろう。
「ついてきてくれ」
「わかったわ」
「わ、わかりました」
リアは相当不安のようで、声が震えている。
勇者様について行く二人。行先は教えられていない。
勇者様の後ろ姿はいつものそれとは違った。怒りだろうか、悲しみだろうか。負のオーラを感じさせる。
はっきり言って怖い。話しかけることも憚れる。ただ黙ってついて行くだけだ。
トリストが襲われたように、路地裏に行き、魔物をおびき寄せる、そんな作戦だろうかとなんとなく考えていた。
あるいは勇者様の、トリスト直伝の察知スキルで、探し当てるのかと思っていた。
しかし予想違った。勇者様は街を出たのだ。
街を出ていい時間帯ではなかったけれど、衛兵に許可をもらい、街を出た。
そして森の主要道路を進むのではなく、道のないしげに見向かって歩いていく。
どうしてなのかはわからない。
街で悪さをしている魔物がいるのかもしれないが、それとは違う魔物も存在するだろう。
「勇者様、この向こうにいるの? だとしたら、明日にして、明るいうちに行く方がいいんじゃないかしら?」
心配になり勇者様に聞く。
冷静さを失って暴走しているという可能性もあると思ったからだ。
「いや、今行くしかない。大丈夫だ。冷静に判断した結果そうしている」
私の心配は杞憂に終わったようだ。やはり素直に黙って従うしかない。
「す、少し怖いです」
先頭や魔物になれていないリアはきょろきょろと周りを気にしながらついてきている。
街の近くの魔物くらいだったら、私が何とか倒せるだろう。
しかし暗い。これはかなりのハンディキャップになる。気を付けて進まなければならない。
しばらく進むと少し開けた場所に出た。高い木もなく、草原のような場所だ。
そこで勇者様が止まった。察知魔法に何か反応があったのだろうか。
「魔物がここに来るはずだ。レスティ、先に進んで少し見てきてくれ」
勇者様が剣を抜いて構えている。
「わ、わかったわ」
言われた通りに進む。
開けた場所なので、隠れるスペースはほとんどない。空は雲もなく、月明かりがさす。丸見え状態だ。
警戒しながら進む。
突然大きな音が鳴る。
「レスティ! 左だ!」
勇者様の叫ぶ声が聞こえた。