夜の魔物③
「リア、呪文を」
幸助は冷静にリアに指示をする。
「わ、わかりました」
リアも言われたことを理解したようで、すぐに呪文を唱えた。
「リジェネレーション!」
リアの蘇生魔法は確実に作動し、トリストに届いているはずだ。しかしトリストはピクリとも動かない。
「なぜだリア。なぜ蘇生しない」
幸助は自分の声が少し荒くなっているのがわかった。
「おそらく、絶命してから時間が経っているのでしょう……」
リアも座り込み、トリストに泣き崩れる。
「レスティ! リア! しっかりしろ! 俺の察知には反応はない。だからこの辺りに魔物はいない。しかし俺の察知スキルを上回る敵かもしれない。油断するな」
幸助は打ちひしがれている二人を再起させる。
「いいか、今からすぐに誰かに知らせないといけない。レスティ、お願いできるか。衛兵に伝えてくれ。俺とリアはここに残る。その後で仇を討とう」
「わ、わかったわ」
涙を拭き、立ち上がるレスティ。
「そうね、トリストのためにできることをするわ」
レスティの目に光が戻った。
剣をいつでも抜けるように構えながら、レスティは大通りへ向かう。
そんなに離れていないから、すぐに衛兵が駆けつけてくるだろう。
「リア、バリアを張れ」
リアに言うと、幸助も同じバリアを張る。
「二重にしておけばとりあえず安心できるだろう」
「そうですね。レスティさんが戻ってきたら、魔物について調べましょう」
リアもさっきの仇討ちという言葉に反応したようだ。
レスティと衛兵が駆けつけてくるまで、トリストの手を握っていた。
いつもだったらリアはずるいですと言うだろう。
しかし今は言わない。それはトリストの最期だからだろう。
隣でリアが震えている。
「リア、大丈夫か。俺がいてやるからな」
「勇者様……。よかったです」
約五分。レスティが衛兵を呼びに行って戻ってくるまで、距離的に約五分で済むはずだ。
しかしそれが何十時間にも感じた。
今まで一緒に過ごしていた日々を思い出していた。最初の出会い、現地調査の報告、シーフの稽古、チラシ配り、クルミカフェでのこと、二人きりで過ごした思い出、クラトゥ村でのこと、全てが楽しかったと言える。
その思い出を過ごしたトリストが死んだ。それが現実だった。
戻ってきたレスティは冷静に衛兵に事情を説明していた。
今朝俺がトリストにお願いしたこと、それから行方不明になって捜索をしたこと、見つけた時のこと。
その後の事情聴取にしてもレスティは冷静だった。
だから衛兵から解放されたとき、いとがきれたように泣き崩れた。それを見たリアもさらに泣いた。
俺は二人を見て泣けなくなった。
どうするか心に決めたからだ。
今後のプランは決まった。それを実行するだけ。
そのあと、トリストのために泣けばいい。
ドライかもしれないけれど、そう決めた。
すまない、トリスト。お前の死は無駄にしない。