夜の魔物②
「これから探さない?」
沈黙を破ったのはレスティだった。
正義感の強いレスティは放っておくことができないのだろう。
それにトリストを娘のように扱っている節もあった。
年齢差は親子以上のものだが、子を持つ親として、トリストを心配しているところがあるのだろう。
「そうだな、暗くなったとはいえ、三人いれば、仮に魔物に遭遇したとしても太刀打ちできるだろう」
会計を済ませ、店を出る。
街の中なので剣を抜いて歩くことは憚れた。
しかしすぐにでも抜けるように構えている。
「ここが最初の被害者が見つかったところです」
リアの案内で最初の死体発見現場に到着する。
薄暗い路地だった。
トリストはこの街のことに詳しいから、こういった場所を知っていただろうが、普段の生活の中で知ることはないだろうというところだった。
隣接する建物も窓がなく、完全に死角。
むしろよく死体が見つかったなと思うほどだ。
ちなみに第一発見者は姿をくらませたらしい。
リアが詳しく話してくれた。
フードをかぶっていて顔はわからないが、声からして女性とのこと。
レスティもリアが話している間、うんうんとうなずいていたので、みんなの知っている情報なのだろう。
それか二人がよほどゴシップが好きかのどちらかだ。
「ここにはいないようだな」
特に手掛かりもないので、移動する。
次の場所までは大通りを歩いたらすぐとのことだったが、わざと裏道を使うことにした。
今までの被害者は裏道で見つかっていたとのことだからだ。
いや、被害者として見つかってほしいというわけではない。
魔物を討伐した英雄として見つかってほしい。そう願っている。
裏道は大通りより暗いし細い。
しかし誰も通らないというわけではない。
近道として利用する人もいるので、交通量が全くないとは言えない。
そこで、さらに一本裏道を歩くことにした。
街灯もなく、暗い道。女性は一人で歩きたくないだろう。
だからトリストが一人でここに来るわけがない、と思いながらも不安が頭をよぎる。
「ちょっと何かあるわよ」
先頭を歩くレスティが何かを見つけたようだ。
「急ぐなレスティ。三人でゆっくり警戒して進むぞ」
幸助は感知スキルを作動させる。
反応はない。近くに生物はいない。
それと同時にレスティの見つけた何かが生物なら、死んでいることを意味する。
暗い道だ。横たわる何かの三メートル前に来てもまだ何かわからない。
二メートル前。人だとわかった。
一メートル前。亜種だとわかった。
何かの前に立つ三人。
「う、うそでしょ……」
レスティがつぶやき、力なく座り込む。
横たわる何かはトリストだった。
起こってほしくないと思っていた最悪の事態が現実になってしまった。
トリストの胸には魔物によるものと思われる傷があり、ぱっくりと裂かれていた。
話で聞いていたものとみて間違いなさそうだった。