夜の魔物①
□◇■◆(幸助)
幸助がクルミカフェに着くと、レスティとリアが心配そうな顔をして座っていた。
「ちょっと今まで何してたのよ。遅いじゃない」
「心配しました。時間になっても勇者様もトリストちゃんも現れないのですから」
二人は身を乗り出すように言った。
「あれ? トリスト来てないの?」
「来てないわよ」
幸助は二人に朝のトリストとのことを話した。
「リアも今日はトリストと会ってないんでしょ? 私の家にも来ていないし」
レスティは考えるように眉間にしわを寄せる。
「それじゃあトリストちゃんは私たちに会う前にどこかに行ってしまったということでしょうか」
「そうなるな。でもトリストが途中で魔物や野盗に襲われるということもないだろう。少なくとも馬車に乗っていて気が付いたことはない。まあずっと寝ていたけど」
「あてにならないわね。でもなにあったら馬車の御者が言うでしょ?」
「それもそうだな。特に何も言っていなかった。だからまあ途中で何かあったわけではないと思う」
「勇者様、ここ最近キュオブルクで魔物の仕業ではないかという物騒なことが起きているのです」
「魔物? 結界があるんじゃないのか?」
「そうなんだけど、魔物の仕業としか思えないような感じなのよ」
それは物騒だ。困ったもんだ。また依頼があるかもしれない。
「勇者様に刑を言い渡した翌日に、キュオブルクの路地で胸を割かれて亡くなっている人が発見されたのです」
リアがドリンクを一口すする。
「恐らく魔物の仕業だろうと、衛兵が言っていたそうです」
「これは本当の話よ。そしてそれだけじゃないの。勇者様が防具作りでこもっている間にその人を入れて、三人も殺されちゃったのよ。傷口から見て恐らく同じ魔物の仕業って話よ」
レスティとリアが確認し合うように頷く。
まあ魔物の仕業かどうかは疑わしいが、殺されたことは間違いないのだろう。
「まさかトリストちゃんがやられるようなことはないと思いますが、心配ですね」
「そうだな。そんな物騒になっていたのか。クラトゥ村にはその情報は入っていなかったもしれない。そうなるとトリストも知らなかったかもな。油断していた可能性はある」
沈黙が訪れる。
二人は頭の中で最悪の事態を想像しているのだろう。