ダンジョン帰り②
ライネンの発言に兵隊も含めたその場にいた全員が驚いた。
あの禁止魔法の黒魔術だというのか。
おそらくライネンは対黒魔術魔法を身に付けているのだろう。王国魔法使いだからそれくらいはしているはずだ。
待てよ。それなら勇者様はどうして槍を持てていたのに影響がなかったのだろうか。
「よかった」
勇者様が安堵の声を上げる。
「俺、このブレスレットに対黒魔術の付術をしておいたんだ」
ブレスレットをみえるように手をあげている。
レスティの疑問はすぐに解消されたが、新たな疑問が浮かび上がる。
どうしてそんな付術をしていたのだろうか。
「勇者様は対黒魔術を使えるのですか!?」
ライネンが驚いている。
「ああ、勉強した。この国では黒魔術の使用は禁止と聞いていた。だとしたらこの国を脅かすのは黒魔術と言えるだろう。禁止されているから安心というわけではないだろう? 禁止されているからこそ、警戒するべきだ。勇者として準備をしておいた」
平然と答える勇者様。
またもレスティの疑問は解消された。しかしまた新たに疑問が浮かび上がる。
いつどこで対黒魔術魔法を習得したのか。
「どういうことでしょうか? 私は教えていませんが」
リアが勇者様に聞く。
勇者様に魔法の稽古をつけていたのはリアだ、そのリアが教えていないとなると、どこで覚えたのだろうか。
「確かにリアからは教えてもらっていない。でもリアの家の魔術書の中に黒魔術の記述のしてあるものがあった。それをもとに対抗魔法を習得しておいた。対抗魔法自体は黒魔術ではないから、使用しても問題ないだろう?」
レスティが考える暇もなく、回答が提示される。もう疑問に思うこともやめてしまおう。
「問題ありません。しかし運がよかったとしか言いようがありません。対黒魔術をしていなければ、さっき話された男のように仲間を殺してしまっていたかもしれません」
ライネンが年配者として先輩として、忠告してくれた。
「それは言えていますね。精神を支配されていたかもしれません」
勇者様がライネンと同じ程度で黒魔術について話をしてた。
内容は理解できなかったけれど、かなり勉強したのだろうということはわかった。
レスティ自身、黒魔術に関してはあまり知識を持っていない。
それは黒魔術が禁止されたまほうだからだ。
剣や魔法の練習に置いて、禁止された魔術を相手にするという考えはない。
そもそも練習相手がいないから。
これはレスティだけに限ってのことではない。もうそういうものとして考えられている。
リアは治癒師であるため、資料として黒魔術の記述のある書物を持っているから私よりは知識があるだろうけれど、実際に黒魔術を見たことはないだろう。
トリストは、まあ私と同じ程度だろう。
勇者様は禁止されているからこそ警戒していたと言っていた。
下準備をしっかりする勇者様らしい行動だ。
おそらく、対一般魔法は女性陣でどうにかなると踏んでいたのだろう。
だからイレギュラーに対応するために対黒魔術魔法を習得したということか。
もしかしたらもっと考えの及ばない何かを身に付けているかもしれない。
「勇者様、この槍ですが、返すことができなくなってしまいました」
ライネンが申し訳なさそうな表情をして言う。
「禁止魔術の付術されたものは王国で没収となっているのです」
「そう、ですか」
勇者様は残念そうな表情をしながら、あごに手を当てている。
「従う他ないですよね」
「はい。それにこれの出どころなどを調べる必要もありますので」
ライネンが槍を大きな布で包み、紐で縛って王国の馬車に積んだ。
「これはもともとここにあったのではないのですか?」
勇者様が問いかける。
「それも含めて調査をします」
仕事が増えたとため息をつくライネン。
「それでは私たちは早急に調査に入りますので。勇者様方も変えられるのであれば、乗っていかれますか?」
ライネンの厚意に甘え、王国の馬車に乗る。
勇者様は横になる。
兵隊たちが、勇者様の行動に眉をひそめていたので、リアが馬車酔いの話を伝えると、みんな納得していた。
勇者様の寝ている横で、女性陣三人は膝を抱えて俯くだけだった。