ダンジョン攻略④
倒れた男の首元に勇者様が剣を垂直に下ろしとどめを刺す。
血が飛び散る。
相手だけでなく三人とも気が付かない間に、勇者様は【隠密】のスキルを使い、男に近づいていた。
そしてこちらに向かってきた男の足をかけ転倒させ、剣を刺した。
相手は仲間を殺し、さらにこちらに対して戦意を持っていた。
だから殺されて当然だけれど、私たちの知っている勇者様のイメージと違った行動だったため、少し怖いと感じてしまった。
しかしパーティを守ってくれたことは確かだ。
「レスティ、その聖槍は俺が持っていく。一度くらいは勇者らしいことをしないとな」
勇者様が転がっている槍を手に取る。
「これを機に槍も使えるようになろうかな」
「「「……」」」
「え、アンデット化した?」
「してないわよ!」
レスティさんが反応する。
「よかった。生きてたか!」
「僕ちゃんも気がつかにゃかったにゃ!」
トリストちゃんが悔しがっている。
「不意打ち。一番効果的な戦法だろう?」
「せこいわよ。私の覚悟を返してくれる?」
レスティさんが剣をしまい、ため息をつく。
「私もバリアが張り損になってしまいました」
リアはバリアを解除する。
「全然気が付きませんでした」
目の前にいたはずなのに、いなくなっていたことに気が付かなかった。
すごいと思う前に、恥ずかしいと思ってしまう。
「かなり鍛えたからな。みんなのおかげだ。しっかり稽古してもらったからな」
勇者様が血を拭いて剣をしまう。
「それじゃあ戻ろうか」
なぜか持っていた紐で、自分の身体に槍を巻き付けると、勇者様は言った。
緊張は再び解けたけれど、安心感が得られたわけではなく、心にあるのは寂寥感だ。
相手を殺したことに関しては誰も触れない。
相手の自業自得なのだから、殺されて当然だ。
それにダンジョン攻略は魔物相手だけでなく、このように人間や亜種を相手にすることは間々ある。
私達が勇者様にそれを望んだのではないか。勇者らしく強くあってほしいと願ったのではないか。
勇者様は何も間違ったことはしていない。
「私達って、何なんだろうね」
レスティさんが誰となくつぶやいた。
その発言に関しては同じように思っている。
たぶんトリストちゃんもそう思っているに違いない。
三人をよそ眼に出口に向かう勇者様。
誰も何も言わない。
遅れまいとついて行く。