ダンジョン攻略③
「その手に持っているのは聖槍かしら?」
レスティさんの声掛けには反応せずに、明後日の方向を見ている。
心ここにあらずと言ったところだ。
「大丈夫よ、安心して。それを奪ったりはしないわ。せめて労わさせて。おめでとう。それにしても一人でここまで……!」
レスティさんが話しかけているそのとき、男は槍を振った。
こちらも見ずにボーっとしたまま力任せに槍を振ったのだ。
油断していたとはいえ、さすがはレスティさん。間一髪のところで槍の攻撃を逃れた。
そしてすぐに剣を抜き対峙する。
それに合わせて、三人も陣形を組みなおす。四人そろって男と距離を取り、戦闘の態勢に入る。
トリストちゃんがすぐにでも飛び出せるように構えている。
私は念のためにバリアを張る。
勇者様は真剣な表情をして、相手の様子を伺っている。考えて行動するのが勇者様だ。状況の把握をしているのだろう。
「おい、見ろ。あの岩陰に人の死体があるぞ」
勇者様が男の奥の岩陰に死体が転がっているのを見つける。
「うーるーさーいーなー!」
男が大声で叫ぶ。
「俺は勇者だぞ! 転移して十年が経った勇者だ! 今ロンギヌスの槍を手に入れたんだ! 俺は真の勇者だ!」
テカテカとした顔。ぼってりとしたお腹。見た目柄は勇者とは思えないが、勇者としての自覚はあるようだ。
私達の勇者は見た目は勇者っぽいけれど、自覚がないタイプだ。
どちらがいいかはわからない。
「ロンギヌスの槍だぞ。アニメやゲームに出てくるあの伝説の槍だぞ! ぐへへ。これを持つ俺に逆らうやつは死ねぇえええ!」
力を手に入れて人が変わってしまったようだ。
「お前もしかして、あの死体は……」
レスティさんも感づいたようだ。
「俺が殺した。聖槍を持つ俺に逆らってきやがったからな」
「一緒にここまで来たパーティじゃないの? お前勇者だろうがぁ!」
レスティさんが感情的に言う。
「そうだ。俺は勇者だ。この世界を平和にしてやる。だから俺に逆らうやつは殺す」
「言っていることがめちゃくちゃだにゃ……」
トリストちゃんが引いている。
「お前らも俺に逆らうのか? それなら殺すだけだ」
男はこちらに走って向かってきた。
歩数にして七歩くらいだろうか。ぼってりとした体型から、動きは遅い。
後六歩。この速度であればレスティさんなら対応できるだろう。
後五歩。男が槍を構え突き刺す動作に入る。
後四歩。大きな音がする。
後三歩、のところで男が倒れる。
槍が転がりレスティさんの足元で止まる。
「「「え?」」」