聖槍伝説①
□◇■◆(トリスト)
「勇者様! ダンジョンの奥にレアアイテムがあるにゃ! うわさで持ち切りにゃ!」
トリストはクルミカフェに到着した勇者様を確認するなり、まくし立てる。
「どうしたんだよ、トリスト。とりあえず落ち着け」
そういいながら勇者様は席に着く。
隣にはリア姉。
「ああ、その話ですか」
リア姉もこの話は知っている。
「リア、勇者様に昨日話さなかったの?」
レス姉ももちろん知った話だ。
「え、なに? みんな知ってる話なの?」
全くもって初耳の様子の勇者様。
「みんにゃっていうか、キュオブルクにいる冒険者は全員知っているにゃ」
「そうなんだ。それじゃあそのレアアイテム、無事に取ってこられるといいね」
まるで他人事のように話す勇者様。
「にゃに言ってるにゃ! 僕ちゃんたちが取りに行くにゃ! 他のパーティに取られる前に行くにゃ!」
なぜレアアイテムに食いつかないのだろう? 王様の案件だって乗る気にもならないし、何にだったら、いつになったら本気になるのだろうか。
「そうですよね。レアアイテムの入手は、勇者様の、いえ全パーティの目標となるものですよね」
「リアの言う通りよ。勇者様、ここはダンジョン攻略、してみない?」
レス姉が勇者様にポーズを決めて誘っている。
「何決めてんの? 決まってないから。いや、いいよ。危ないじゃん」
「危険を冒してでも取りに行く価値があるにゃ!」
シーフとしては譲れないロマンだ。
「そういうもんなのかね……」
勇者様が首をかしげる。
「ところで、そのレアアイテムは何なんだ?」
「聖槍らしいわよ」
レス姉がメニュー表を見ながら勇者様に答える。
「聖槍ってロンギヌスのことか?」
「そうらしいですよ。よくご存じですね」
「ああ、それくらいは知っているよ。俺のいた世界にキリスト教って言う宗教があって、その聖槍だな。持つものに繁栄を、手放す者には破滅をもたらすと言われている」
「そうなんですね」
リア姉は感心している。
「もしかして勇者様もほしくにゃったかにゃ?」
「いや、全然。いらない」
即答する勇者様。
「この間レスティとも話したんだけど、剣や斧は俺らのパーティには必要がないことがわかっている。誰も使えないからな」
「使える使えにゃいの話じゃにゃいにゃ! そこは関係にゃいにゃ! レアだからほしいにゃ!」
シーフの血が騒ぐってやつだ。