出会い
GWも終わり、休み気分が抜けきらない五月中旬。ちょうど新しい環境にも各々慣れる時期。朝の教室には、雨いやだな、すぐ夏じゃん、などと目前に迫った中間試験は無いかのように少し先のことを喋る者もいる。それでも多くの話の種は中間試験だ。そんな中でも勇治は自らの学習に勤しむ。立ち止まるのがただただ怖かった。
「ここテストに出るぞ~。言ったからな~。これ間違えたヤツは必然的にこの授業聴いてないことになるからな~」
間の抜けたような古文の教師の声が教室に響く。真面目に授業を聴く者は半数程。残りの生徒はどこか上の空だったり、内職していたりと教師の言葉を全く聞いていない。
勇治は、教師の言葉を半ば聞きながら、自らの勉学に勤しんだ。無論、中間試験対策は完璧である。
学校の授業は基本上のレベルには合わせない。故に勇治は既知の授業を無視して己の勉学に勤しむ。逃げるためだけに。考えないためだけに。
「逃げるのはカッコ悪いことじゃないと思うよ。逃げるのにも勇気はいるし」
かつて彼女が自分にかけてくれた言葉。この言葉が無かったら逃げていただろうか、己の心に問いかける。くしくも彼女の言葉で勇気を貰い、彼女から逃げてしまった。
フラれた時のことはおぼろげに覚えている。少しの食い違いを大きく発展させてしまった。もともと何で言い争っていたか、覚えていない。ただ、あの時幻滅されたことだけは理解できる。
解りきっている授業を終え、ぎりぎりまで学校で自習し、帰路についた勇治。家でももちろん勉強をする。ただ、家は学校に比べ誘惑が多い。彼女がいた時からオタクとして、色々な漫画やラノベ、その他娯楽を揃えていた上に、別れたあとは以前にも増して買い漁った結果、誘惑は増えた。そんな中で、今まで勉強してこなかった人間が勉強に集中できるわけもなく、つい本に手を伸ばしてしまう。そんな自分が分かっているから、学校で自習をする。中途半端な所で真面目なのだ。
夜、何をするでもなくベッドに寝転がり、無心で天井を見つめていた。何かが描かれているわけでもない。日が経って少し黄ばんだ白い天井。
突如、空間が歪んだ。何もないはずの、ただ空気のみがあるはずの空間が、歪んだ。渦を描くようにさらに歪んでいった。渦の中心は次第に光を失い、ついには闇に染まった。勇治は不思議と恐怖を感じなかった。ただ、自分の見聞きしたあらゆるものから逸脱している、それだけが心に浮かんだ。そうしている間にも歪みは広がり、大人一人が十分通れるだけの穴となった。
身体は動かさなかった。あるいは動けなかったのかもしれない。体感時間数分後、現実時間数秒後。
「―――――――――――――――――――――」
その手は聞いたこともない声と共に現れた。おおよそ人のものとは思われない、黒く薄汚れた手。そして、鋭く伸びた黒い爪。
「――――――、―――――――――――――――」
穴の奥からまた声が聞こえる。その間にも穴から手の先が出てくる。
気付けば勇治の前には、万人がおそらく悪魔と断定できる存在があった。彼(と呼んでいいのかは甚だ疑問だが)が出てきた穴は、彼が出てくると徐々に小さくなり、ついには穴など無かったかのように元に戻ってしまった。
「――――――、―――――――――――。―――――――――――――――――」




