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全日福岡支部予選決勝②

大変ご無沙汰しております。

あらためて月1程度ですが更新していきたいと思いますので、何卒よろしくお願い致します。

 純のゴールで先制した鷹取がリードを守り切って前半は終了した。

 純が美野島のエース赤城俊也との空中戦にほぼほぼ競り勝ち、大きく崩されることなく想定通りのゲームプランを遂行している鷹取ベンチの雰囲気は明るい。


 対する美野島ベンチは重苦しい空気が漂っていた。エースである俊也はタオルを顔にかけ、必死に勝利への道筋を考えていた。

(やはり鷹取はレベルが高い。安西だけでも手に負えないのに川上も目が離せん)

(何より俺自身が魚島と加藤の守るゴールをこじあけれていない……どうする、どうする?)


 ぐるぐると回る思考の迷路に俊也を現実に戻したのは兄の声であった。


「俊也! 焦るな! 相手に合わせてても勝てんぞ! お前たちの良さを出せ!」


 視線を後ろに向けるとそこにいたのは尊敬し、目標にしている2歳上の兄、琢也の姿であった。

 赤城家は両親と四人兄弟の六人家族。両親と長男次男は柔道をやっており、そんな柔道一家でサッカーに興味を示したのが三男琢也。四男である俊也は琢也のマネという形でサッカーを始めた。

 柔道一家の中でのサッカーのパイオニアであり、選手としても目標にしている兄の顔を見て、落ち着きを取り戻す俊也。


「俺のマネばかりしなくてもいいんだぞ! お前のプレイでチームを引っ張れ!」


 琢也の声が響き渡る。自分と一番時間を共にした練習相手のアドバイスが俊也の心の琴線に触れる。


(前半は魚島との空中戦ばかり。そうか、空中戦ではまだまだ魚島には勝てないか……)


 思い出すのは2年前の試合。自分と兄の居場所は逆であった。

 ピッチの外から応援した兄のプレイ。それまでひたすらに前線に張っていた兄が高さを生かして中継点となり、チームのチャンスを何度も演出した。

 ラインコントロールによって消された前線での高さを、もう一度生かすため、バイタルエリア手前にポジショニングを変えた兄。


 兄は後に言っていた。あの試合の経験が『個人の勝ち』にこだわるのではなく『チームの勝ち』にこだわり、『勝てる土俵で戦う』意識がついたと。

 一皮むけた兄は中学に入って更に成長をし続けている。憧れであり、追いつきたい背中。


(この試合が正念場……俺も俺らしいプレイで、今度こそチームを勝たせてみせるよ、兄貴)


 その目には2年前の兄を彷彿とさせる強い意思が乗っていた。





 後半に入って美野島の俊也の使い方が変わる。『博多の摩天楼』と呼ばれた兄のような空中戦ではなく、大きな身体、長い手足に兄より高水準の足元の技術を生かしたキープ力でチームに貢献。

 それまでなかなか脅かすことのできなかった鷹取ゴールに迫り始めた。


 しかし、ここで立ちはだかったのはやはり純と秀吉。『ぬりかべ』純が恵まれた身体を俊也にぶつけ、『狂犬』秀吉はその広範な守備エリアと類まれなる反射神経で美野島に立ちはだかり続ける。


 そして、やはりここぞというところで現れるのが竜司。


 ゴールへの動きを控え、匂いを消し、ここぞというタイミングで仕掛けた矢先、死角から足元に飛び込み、ボールをかっさらっていったのは鷹取の『天才』であった。


「やはりお前は出し抜けないか!」

「わりぃな! お前の兄ちゃんにもおんなじようなことやられてるもんでね!」


 すぐさまカウンターにつなげるべく縦パスを通す竜司の言葉に俊也は悔しさと歓びを感じていた。


(兄貴との闘いがこいつの糧にもなってるのか)


 そして数分後に鳴り響く試合終了の笛の音。


 全力で走りきり、ピッチに座り込んだ俊也を引き起こしたのは竜司だった。


「俺はお前の敵に値したか?」

「もちろん。お前の兄ちゃんよりもやりづらかったかもしれねえよ。これからも戦おうぜ!」

「無論!」


 そう言って握手を交わす二人。


(勝ちたかった。が、悔いはない。こいつらと切磋琢磨してまだまだ伸びてみせる!)

(そしていつか俺も一緒に……)


 俊也が共にプレイすることを望む選手は兄かライバルか……


 その答えは俊也自身にも分からなかった。

カクヨム様で『サッカークラブをつくろう~SC鹿児島物語~』という小説を投稿しております。

ヒデやゾノに憧れた方はぜひ一度お読みいただけますと幸いです。

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