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川上修人

 鷹取キッカーズが福岡支部予選で優勝した翌日、川上修人は正式に入団した。


 自分はこの日から変わった、そう修人は思っている。


 それまでの自分は自信がなく、常に周りを気にして生きていた。足は速かったものの、後ろ向きな性格が災いし、クラスの中での序列は明らかに最下層。

 自分を変えたいと思いながらも、その方法もきっかけも掴めない日々が続き、4年生になってからはクラスでも孤立し始めていた。


 そんな自分に声をかけてくれたのが竜司だった。


 竜司は学年の有名人。サッカーが上手いことで有名で、成績も顔もそれなりによい。学年の女子の一番人気。そんな有名人が自分に声をかけ、自分の足を『才能』と呼んでくれた。


 細身の自分でもサッカーができることを証明するために、二回りも大きな相手選手に立ち向かう姿を見せてくれた竜司。


 竜司に憧れ、始めたサッカーを通して修人は変わっていった。





 もちろん最初から上手くいったわけではない。


 4年生ながらも主力で活躍する竜司や先輩たちを応援した1年目。県大会準優勝という結果を残した彼らとの距離は、ピッチと観客席以上の距離があった。


 それでも竜司に相談し、教えてもらった通り毎日ボールを蹴り続けた。竜司の早朝練習にも毎朝参加した。

 竜司に誘われ、持久力やサッカーで鍛えづらい筋肉を鍛えるために水泳も始めた。努力は少しずつ己の肉体に反映し、自分が変わっていくことを実感した修人は、一層の努力に励んだ。

 その結果、入団して半年が経った頃には、快足を評価されてSBで試合に出れるようになった。


 5年生になると、SBからFWにポジションを移した。身体は屈強とは言えない。けれど、自分にはスピードという武器がある。

 以前の自分であれば、自分の強みを信じてプレイすることなどできなかっただろう。


 チームは県大会で優勝し、初の全国大会出場を決める。残念ながらこの年の優勝チームと初戦で当たるという不運もあり、初戦敗退という結果であったが、修人は確かな自信と頼りになる仲間を得ることができた。


 もっとも成長したからこそ感じる感情もあった。それは『悔しさ』。


 仲間ができ、努力して初めて感じることのできた感情。それは修人にとって新鮮で、けれどもう味わいたくないと思う苦いものであった。


 大会後、修人の部屋に集まった仲間たち。代表に呼ばれた竜司を除いた同学年で集まった彼らは口々に悔しさをこぼした。


「優勝チームと僕たち。竜司くんは負けてなかった」

「ああ。うちのエースは負けてない。負けたのは総合力の差……」

「つまり、俺らが力不足だったってことだ」

「僕たちがレベルアップすれば全国制覇だって夢じゃないってことだね」

「やれるか?」

「もちろん」

「やるしかないよね」


 修人は仲間たちと誓った。それぞれが竜司に大なり小なりの恩があったから。竜司を全国で輝かせてみせると。それが竜司の代の総意であり、目標であった。


 誓いを胸に、日々の練習に明け暮れ、気づけば春も間近となった三月末の日曜日。竜司の代の初陣となる練習試合が迫っていた。


「明日は僕らの代になって初めての練習試合。みんなとの約束、竜司くんからの宿題もある……やるぞ!」


 気合いを入れ、早々に寝床に入る修人。積み重ねてきた努力と、その努力を認め、切磋琢磨する仲間たちが修人を変えた。


 そこには弱気で自信のない少年の面影はなかった。





 鷹取キッカーズの6年生最初の練習試合の相手は西陣少年団。


 同じ区内にあることからライバルとして鎬を削ってきた両チームであるが、ここ数年鷹取の躍進が著しく、その力関係は大きく動いていた。


 鷹取のフォーメーションは4-3-3。福岡県内トップクラスの選手が複数おり、その実力はこの年代では飛び抜けていた。


 ピッチの端から端までキックと声を届かせ、驚異的な反射神経でゴールを守る『狂犬』佐藤秀吉。ゴール前にそびえ立つ長身CB『ぬりかべ』魚島純。


 豊富な運動量で1ボランチを務める中盤の潰し屋『委員長』北野誠一。2センターハーフを組むのは、女子にも関わらず女子からの人気NO.1『王子』川島伊織とナショナルトレセンにも選ばれている『天才』安西竜司。


 そして、左ウイングを務めるのが『スピードスター』川上修人。スピードに乗ったドリブルや裏への飛び出しが武器の鷹取のゴールゲッター。


 それぞれが竜司に影響を受け、集まった一癖も二癖もある仲間たちだった。憧れや感謝、妬みに嫉妬といった相反した感情を抱えながら、チームは一つにまとまっていた。





 試合展開は一方的なものとなった。5-0の快勝であり、修人はハットトリックを決めたものの、その表情は浮かないものであった。


「今日は60点ってところか?」

「辛口だね、竜司くん……けど分かってる。今日は竜司くんと伊織ちゃんに決めさせてもらっただけだ」

「まぁ1対1で突破したのは修人自身の力だけどな。けど……」

「うん。僕が竜司くんのパスを引き出す動きはまだまだだ。僕が竜司くんのパスに合わせるんじゃなくて」

「俺が修人に合わせる、合わせざるをえない動き……期待してるぜ、修人」

「任せて、とは言い切れないけど頑張るよ」


 強気とは言えない言葉と裏腹に、その目には強い光が灯っていた。


 桜の花が散り、葉の色が濃くなれば全日本少年サッカー大会の予選が始まる。鷹取キッカーズは全国出場ではなく、全国制覇を目指し、闘いに挑む。

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