表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/15

ケヤキの木を越えると、急に森の中に開けた泉のある空間が広がった。

泉の周りだけ、うっそうとした林の群れが無く、空の光が緑を掻き消している。

その光は、まっすぐ泉に注ぎ込まれていた。


「きれい…」


水面に波紋はなく、鏡のようになっている。

近づくにつれて、その泉の美しさに胸が躍った。


「これから式を執り行う。

嬢ちゃんが正式に雲使いとなるための第一歩ってぇわけだ」


歩きながら、赤い髪のエンは言う。

口調は面倒そうなのに、振り向いたエンはなんだか誇らしげに方頬だけで笑った。


「ここは最初の式を行う、聖なる泉だ。

オレはここまでしか近づけねー。

後は青の仕事だ」


泉から背を向けるエン。

最初の式とか言われても、泉には誰もいない。


「え、エン。

あおって……誰?」


「オレたち《風待ち》の中で唯一守竜と瞳を合わせることを許されている特別な奴……。

一番最初に偉そうに話す奴がいたろ?」


そいつさ、と軽く笑う。

付き合いの長い友達のことを話すように、エンは軽い調子で続けた。


「まず泉で体を洗え。誰も見てねーから。

そしたら……時がくりゃ分かる」


じゃな、とケヤキの木を越えて、さくさくと歩いていってしまう。


「洗えったって……」


そういえばシェルシェが『湯浴み』とか言ってたかもしれない。このことかな。

仕方なく、服を脱ぐ。

気温は少し暑いくらい。

泉の水温は冷たいかな、と緊張して足先を浸していく。

が、意外と冷たくなかった。


というより、水という感覚がしない。


肩まで水に浸る。やっぱり感覚が無かった。

もう一つの空間みたい。

不思議だな、と水を手に取ると、

また、景色が変わっていた。


「―――風音、こっちだ」


声に顔を上げると、あの怖い瞳の男の人…青が立っていた。

ここは白い光に包まれた、何処かの王宮みたい。

光の廊下で青の黒いローブだけが目印のように目立っている。

王宮の中なのに、どこからか…水の音がする。

ふと、我にかえる。


「……っ、やだ、あたし裸!!」


「問題ない。

儀式には湯浴みの後、攻撃心がないことを示すために全裸での謁見が許されている。

……こっちだ」


青は全裸のあたしを気にした風もなく、当然のように手を取って光の王宮を歩いていく。

まぁでも歴代の雲使いが行う儀式だものな。

見慣れてて当然か。


「…あんまり説明してくれないのね」


「説明したところで、歴代の雲使いたちは未だ成長途中。

自然の歴史や神の摂理を理解するには、経験と知識が足らない。

故に、説明を必要最低限に留めている。

それにここは…言葉より感覚が総ての世界でもあるからな」


聞いても理解できない、というところね。

ま、いいか。じいちゃんやみんなの村を守るための雲使いだから。

まずは雲使いになる儀式とやらを済まそう。


心は決まっていた。

王宮の光が強くなり、目をつぶってしまう。

かたく閉じた瞼を開けると、二つの椅子が見えた。


片方は見知った顔―――金の瞳が開かれる。

……ガルダだ。

が、全然こちらに目を向けてくれない。

あさっての方向を見ながら、不機嫌そうに座っている。

……なによ、感じ悪いなぁ。


もう一つの椅子には…


「雲操る乙女よ、余はこの谷を任されている守竜じゃ」


「も…りりゅう……様?」


つい口籠もってしまう。

その椅子に座っていたのは、ものすごい美人の女の人だった。

たおやかな黒髪。

ガルダと同じ金の瞳。

柔らかな眼差し。

息を呑んでしまう、迫力。

この女性が…守竜?


「余の息子が気をもませてしまったようじゃな。

乙女よ、余に免じて許してたもれ」


「あ、いえそんな………………………………………………………………って息子、さん?!」


ガルダを見る。

青は頷いて、私に言う。


「新しい雲使いは、新しい守竜と印を結び、雲を操る術を学ぶ。

新しい守竜…それを風御子と我々は呼んでいる」


ずっと黙って座っていたガルダが立ち上がり、あたしに近寄ってくる。

青に代わり、守竜様が続けた。


「これより雲使い乙女の、最初の儀式を始める。

…風御子と心を通わせ、谷に雨を降らせなさい」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ