八
また泉に戻された。
隣に青が控えるように立っていたので、これからのことを聞くと、『とりあえず風御子様の準備が整い次第待機』とのこと。
それならまず服を着たい、というあたしの要求に、青は頷いた。
あまり話を聞いてくれないかも、という怖そうな印象だったけれど、意外と優しい…のかな。
「雲使いは伝統的に、古き守竜の髪で作られた服を着ることになっている。
だが風音は女子。
用意がないので、今回は特別に守竜様直々にご準備いただいた。
……大切にしろ」
ぶっきらぼうな言い方だなぁ。
青はあたしをそのまま泉に置いていき、しばらくして籠を持ってきた。
「きらきらしてる…草原色だわ」
籠から見える布を広げると、綺麗な色をしたワンピースだった。
すぐさま袖を通す。
「不思議。
…軽くって風みたい」
「雲使いの服はそんなものじゃよ」
青の後ろに老人が立っていた。
うちのじいちゃんより、年をとっているみたい。
元気そうに歩いているけど。
「ではウォゼフ、後を頼む」
青はまた泉に入り、風に消えた。
さっきの光の王宮に行ったのかもしれない。
さて、と声を上げてウォゼフは手を叩く。
急に風がそよそよと足元を舞いはじめる。
「次は風の基本的な使い方と雲読みの勉強じゃな。
シェルシェとわしで、まずは基礎を身につけてもらおうかの。
……できるまでご飯抜きじゃ」
ぱん、ともう一度手を叩くと、体が浮き、風に捕われた。
すごい、これが風を操る雲使いなんだろうか。
風に流されるままに、上空へとあがっていく。
今までいた地上よりも、はるかに標高の高い山の頂上に下ろされる。空気が薄い気がする。
頂上には小さな小屋があり、一面は緑の静寂だった。
「さて着いたからには練習してみようかの。
まず雲使い、その一歩は風を操ることじゃ」
ぱん、とまた手を叩くと、ウォゼフに呼応するように風が頬をかすめる。
「雲より先に、まず風を操ってもらわぬとの。
これができなくば、御子と力を合わせても、雲を操れぬのじゃ。谷の子らはたいていできる。
……さ、やってみよ」
ウォゼフはスパルタだった。
やれるわけないというあたしの言葉を、子供の駄々のようににこやかにいなし、強制練習。
一番怖い。
にこやかで柔らかな物腰だけに、心が読みづらい。
「わぁあ、すごいねー風音!
もう風を使うことができるんだぁ」
シェルシェがいつの間にか風に乗って、頂上にやって来ていた。
ここは太陽がずっと沈まないため、時間の経過が分からないが、きっと長い間手を叩いてきたんだろう、赤く晴れていた。
そのおかげで風が少し思った通りに吹くようになったけど。
「やっぱりウォゼフは厳しいよなぁー!
こんなん青が見たら怒られちゃうよぉ」
「そうかの。
どうせ出来る事なら、早いに越したことはなかろ」
にこり。
こ、この老人の笑顔には騙されないぞ…。
あたしはひそりと胸の内で誓った。
「風が使えるなら、雲を使うのも早そうだね!
正直これまでの雲使いより、勘もいいみたいだしねぇー」
ウォゼフの特訓のおかげかもだけどねぇ、とシェルシェはこそりと呟く。
老人は聞こえなかったのか、とぼけた顔で、そういえばと続ける。
「シェルシェ、おぬしは何しにここへ?
青殿にでも呼ばれたのかの?」
「ううん、青はまだ守竜様のとこだと思うけど」
シェルシェはあたしの顔を見て、可愛らしくウインクをする。
「風御子様が準備を終えられたから、こちらにお招きしたのぉ」
シェルシェの後ろに遅れて着地する、ガルダ。
無遠慮にあたしを覗く金の瞳。
「雲使い、遅いから我がわざわざ出向いてやったぞ」
偉そうに一言。
………殴りたい。




