運だけで悪魔の町を作ったら、すべてが丸くいきました
「さあ、いよいよ最後の仕上げだよ! 悪魔の人たちが最高の笑顔になるような、快適なお家とお風呂と、美味しいご飯を用意しよう!」
ルークの号泣ものの情熱を受け、ギアロードから全財産をはたいて譲り受けた20体の建築用機械人形たちが、いよいよフル稼働を開始した。
◇
まず取り掛かったのは、疲れた体を芯から癒やす日本の至宝——**【大浴場(お風呂)】**の建設である。
機械人形たちは、地底の滝から綺麗で清らかな水を引き込むための頑丈な水路を、寸分の狂いもなく短時間で造り上げた。
地底湖のすぐ近くに建てられた立派な建物。その扉を開けると、そこには悪魔が数十人は一度に入れるほどの広々とした巨大な浴槽が鎮座していた。
『ザザーッ……!』と滝から清らかな水が注がれる中、ルークは【火の宝珠】を取り出し、浴槽の底の台座へと静かに収めた。
シュゥゥゥゥ……ッ!
すると、宝珠から放たれた温かな熱気が水全体へと行き渡り、一瞬にして冷たかった水が、ほのぼのと湯気を立てる極上のお風呂へと大変貌を遂げたのである!
「うわぁ……! すごい、本当にあったかいお風呂になったよ!」
「まあ……! 常に滝からきれいな水が注がれ、余分なお湯は流れていく仕組みになっておりますので、いつでも清潔で温かいお湯が堪能できますわね!」
アイリスが目を輝かせて感嘆の声をあげる。これで、過酷な地底で泥と汗にまみれて生活していた悪魔たちが、いつでもサッパリと体を洗える極上温泉が完成したのだ。
◇
続いて着手したのは、ふかふかの【寝具(ベッドと布団)】の製作である。
ルークは機械人形の数体に向かって指をさし、指示を出した。
「みんな、家畜小屋にいるモンスターたちの毛を、優しく刈り取ってあげて!」
『リョウカイ・イタシマシタ』
機械人形たちが手際よくハサミを動かすと、家畜小屋の羊型モンスターたちから、まるで雪のように真っ白でフワフワな毛が山のように刈り取られていった。毛を刈ってもらったモンスターたちも、涼しくなったのか嬉しそうに鳴いている。
ルークたちは、道具屋で購入しておいた大量の頑丈な布地を袋状に縫い合わせると、その中に刈り取った綿毛を隙間なくたっぷりと詰め込んでいった。
ポン、ポン! と手で叩くと、思わず顔をうずめたくなるような、極上の「フカフカ布団」の完成である!
機械人形たちが森の木々を削り出して作った頑丈な木製ベッドの上に、そのフカフカの布団と枕を敷き詰めていく。
「ふふっ、これで固い岩の上で寝なくて済むね!」
「ええ! これほど暖かく心地よい寝床でしたら、どんな悪魔の方々も一瞬で夢心地になってしまうはずですわ!」
◇
そして、最後にして最大のメインイベント——【食生活の革命】である。
ルークは20体の機械人形たちに役割分担を命じた。
「君たち数体は畑の野菜の収穫と、地底湖での魚釣りを担当してね! こっちの数体はモンスターのミルク搾りと、お肉の準備! そして残りのみんなは、キッチンで料理を作ってもらうよ!」
見事なオートメーション(自動化)システムが完成した。
収穫された瑞々しいトマトやカボチャ、湖から揚げられた活きのいい魚、新鮮なミルクが、続々と巨大な大食堂のキッチンへと運ばれていく。
そこで待っていたのはアイリスである!
「機械人形の皆さん、よくお聞きくださいね。お料理で最も大切なのは『愛情』と『適切な火加減』です! まずは、魚の香草焼きと、野菜たっぷりの地熱スープの作り方をお教えいたしますわ!」
アイリスが先生となり、機械人形たちへ自慢の家庭料理レシピをひとつひとつ丁寧に叩き込んでいく。精密な記憶回路を持つ機械人形たちは、調味料の分量から煮込み時間、盛り付けの美しさに至るまで、アイリスの教えを100%完璧に吸収していった!
香ばしいソテーの匂いと、濃厚なスープの湯気が大食堂全体に満ちていく。
「よし……! 太陽、森、畑、家畜、湖、温泉、ベッド、そして美味しいご飯……! 僕の思いつく『地上と同じくらい快適な場所』が、全部揃ったよ!」
ルークは完成した広大な地下街を見渡し、満足そうに胸を張った。
「さあ! サタンさんたちを招待しに行こう!」
◇
再び黒い溶岩城へと足を運んだルークは、玉座の間で腕を組んで待っていた魔王サタンの前へと向かった。
「サタンさん! お待たせ! 僕が作った新しい街が完成したから、見に来てよ!」
『……フン、もう諦めて謝罪しに来たかと思えば、本気で完成させたと言うのか』
サタンは信じられないといった様子で立ち上がり、重々しい足音を立てて城を出た。
『良いだろう……お前がどれほどの戯言を形にしたのか、余自らの目で確かめてやる。……もし満足いかぬクオリティであれば、約束通り地上へ侵略を開始するからな』
サタンと四天王、そして数十人の悪魔兵たちが、半信半疑のままルークの案内で地下の奥深くへと歩を進めた。
そして——暗い岩のトンネルを抜けた瞬間!
『『『『……っっ!!??』』』』
サタンをはじめ、引き連れられてきた全ての悪魔たちが、目玉が飛び出るほど仰天し、その場に棒立ちとなった!
「な……な……なんじゃこりゃあぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーっ!?!?」
四天王の一人が情けない悲鳴をあげた。
自分たちが知っていた暗く冷たく、草木一本生えない不気味な地下世界は、そこには存在しなかった。
頭上からは、ポカポカと暖かく眩い太陽の光が燦々と降り注ぎ、見渡す限りの豊かな大森林が青々と葉を茂らせ、爽やかな風が吹き抜けている。
澄み切ったエメラルドグリーンの地底湖では、元気な魚たちがピチピチと跳ね、そのほとりには瑞々しい野菜が鈴なりに実った広大な畑と、おとなしいモンスターたちが穏やかに飼育されている飼育小屋が広がっていたのである!
「う……ウソだろ……!? ここが……俺たちの住んでる地下世界だって言うのか……!?」
悪魔兵たちがガクガクと膝を震わせ、夢でも見ているかのように周囲を見回した。
「ふふん、驚くのはまだ早いよ! 中に入ってみて!」
ルークはドヤ顔でニコニコしながら、建築された街並みの中へとサタンたちを誘導した。
◇
最初に案内されたのは、滝の近くに建つ巨大な石造りの建物——**【大浴場】**である。
「はい、ここはお風呂だよ! 滝から引いたきれいなお湯が常に溜まっていて、温かいんだよ!」
サタンは恐る恐る浴槽へと近づき、大きな手を湯の中へと浸してみた。
『……む……!? あ、温かい……っ!』
「サタン様! 我らも入ってよろしいでしょうか!?」
待ちきれない悪魔兵たちが、我先にと服を脱ぎ捨てて(元から大して着ていないが)、豪快に大浴場へと飛び込んだ!
『『『『ひゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ……!! 気持ちいいぃぃぃぃぃぃぃっ……!!』』』』
過酷な環境で汗と泥にまみれ、固まった筋肉をほぐされた悪魔たちが、ウットリとした表情で湯船に浸かり、極楽の声を漏らした。
「お、おい見ろ! 体の汚れが綺麗サッパリ落ちていくぞ!」 「あたたかい……心が洗われるようだ……っ!」
サタンもたまらず巨体を湯船へと沈めると、ハァァァァ……と深々と溜め息をついた。
『……くっ……! この温度、この清潔さ……悪くない……どころか、至高ではないか……っ!』
◇
お風呂でサッパリとしたサタンたちを、ルークは次なる建物——【大食堂】へと案内した。
ズラリと並んだ長いテーブルに着席したサタンたちの前に、機械人形たちが、出来立てホヤホヤの豪華な料理を次々と運んでくる!
こんがりと香ばしく焼き上げられた魚のソテー、採れたて野菜がゴロゴロ入った濃厚な地熱スープ、そしてふんわりと焼き上げられたパンと新鮮なミルク!
『な……なんだこの美味そうな匂いは……っ!?』
悪魔兵の一人が、我慢できずに魚のソテーを口の中へ放り込んだ。
『——ッッッ!!!???』
悪魔兵の目がカッと見開かれた!
『う……美味すぎるーーーーーっ!! 臭みが一切ない! 身がプリプリで、舌の上でとろけるようだぁぁぁぁっ!!』
「なにいっ! 貸してみろ!」
サタンも巨大なスープ皿を手に取り、一口飲み干した。
『……っ! 野菜の甘みと濃厚なコクが、五臓六腑に染み渡る……! 我らが今まで食っていた生の硬い肉は、一体何だったのだ……っ!?』
悪魔たちは泣きながら、夢中で料理をむさぼり食べた。これまで生の不気味な肉しか口にしてこなかった彼らにとって、アイリス直伝の温かい料理は、まさに革命的な感動であったのだ。
◇
お腹がいっぱいになり、心も体も満たされたサタンたちを、ルークは最後に【住宅街】へと案内した。
「最後はここ! ふかふかのベッドがあるお家だよ!」
木造の温かみのある部屋に入り、サタンは半信半疑で大きなベッドの上へと腰を下ろした。
ギシッ……フワッ……!
『……ぬおっ!?』
あまりの柔らかさに、サタンの身体がポスッと沈み込んだ!
『な、なんだこのフカフカ感は……!? まるで雲の上に浮いているかのようだ……っ!』
「刈り取ったモンスターの毛をいっぱい詰めた布団なんだよ! 暖かくて気持ちいいでしょ?」
サタンはフカフカの布団を頭までかぶり、じっと目を閉じた。
冷たく硬い岩の上で寝ていた日々が走馬灯のように思い出される。
フカフカの布団。満腹の満足感。そして体に残る温泉の心地よい余韻。
『……ふぅ……』
サタンの口から、今までに一度も漏らしたことのない、心からの満足気な溜め息がこぼれた。
サタンはゆっくりと身体を起こすと、ルークを真剣な眼差しで見つめた。
『……ルークよ。余の負けだ』
サタンは誇り高く、そして清々しい笑顔で言った。
『お前の勝ちだ。……これほどの素晴らしい環境を揃えられては、文句の付けようもない。……地上へ侵略するなど、馬鹿馬鹿しくてやっていられんわ!』
サタンの言葉に、周りの悪魔たちも大歓声で同意した!
「そうだそうだ! 地上に行くより、ここ(地下)の方が100倍最高じゃねえか!」 「サタン様! 俺たち、ずっとここに住みたいです!」
サタンはルークに向かって、固い拳を突き出した。
『ルークよ。我ら悪魔族は、お前との約束を守り、二度と地上を侵略しないことを誓おう! ここで仲間たちとともに、穏やかに、快適に暮らしていく!』
「うん! 約束だよサタンさん!」
ガシッと固い握手を交わした二人。
ルークは20体の機械人形たちをサタンへ託した。
「この機械人形たちが、定期的にメンテナンスや農作業を手伝ってくれるからね! 僕もたまに遊びに来るから!」
こうして、力による破壊ではなく、【運∞】と優しさと圧倒的なクラフト技術によって、地上と地下の千年越しの確執は見事に氷解したのだった!
◇
役目を終え、大地の裂け目を通って地上へと帰還したルークたち。
地上の光を浴びたその瞬間——ルークたちの前で、聖なる光が乱反射した。
「やあ、お帰りルーク」
そこに待っていたのは、最高神と、背中に翼を生やした天使(元邪神)であった!
最高神は雲の上で腕を組み、全てを理解したように優しく微笑んだ。
「ルーク。地下の悪魔どもが改心し、豊かな都市を築いたことは、全て見させてもらった。……お主はまたしても、世界を全滅の危機から救ってくれたのじゃな。……心から感謝するぞ、勇者ルークよ」
「へへっ、どういたしまして最高神様!」
ルークが笑うと、天使も嬉しそうに頷いた。
こうして、神界、人間界、地下世界の三つの世界が互いに侵犯せず、平和に共存する『三界平和協定』が、ここに歴史上初めて結ばれたのである!
◇
王都へ戻ったルークたちは、城の玉座の間で待っていた国王様のもとへ向かった。
「——というわけで国王様、地下の悪魔の人たちと仲良くなってきたから、もう地震は起きないよ!」
「……は? あ、悪魔……? 地下世界……!?」
突飛すぎるルークの説明に、国王様と近衛騎士団長はポカンと口を開けて固まっていた。
あまりにも信じがたいスケールの大きな話であったが——つい先ほどまでグラグラと王都を揺らしていた原因不明の地震が、ピタリと、完全に収まっている事実が何よりの証拠であった。
「す……凄すぎる……! 『ついで』の依頼で、まさか地下の悪魔の侵略を未然に防ぎ、世界を救ってしまうとは……っ!!」
国王様は感涙を流して震え上がり、ジャラジャラと重たい袋を幾つも運ばせた!
「ルーク殿! 我が国を……いや、世界を救ってくれたお礼じゃ! 【金貨2,000枚】と、【王都の一等地に聳え立つ超豪華な豪邸】を褒美として授けよう!!」
「えぇぇぇぇぇっ!? 金貨2000枚に、豪華なお屋敷まで!?!?」
ギアロードで機械人形を買うために自分の全財産(口座の全額)を投げ打ち、一瞬だけ見事に「一文無し」になっていたルークだったが、【運∞】の奇跡によって、大金持ちへと一瞬で返り咲いてしまったのだった!
「ルーク殿! どうじゃ、旅を止めて、与えた豪邸で王都に定住してみぬか!?」
国王様が目を輝かせてスカウトする。
ルークは金貨の袋を抱え、苦笑いを浮かべながらポリポリと頭を掻いた。
「あはは……。今回の『ついで』の件は、さすがにちょっと疲れちゃったからねぇ。……うん、しばらくは王都の豪邸でゆっくり過ごしながら、これからどうするか考えることにするよ!」
「ふふっ、良いお休みになりそうでございますね、ルーク様!」
アイリスも嬉しそうに微笑み、ボルトも『イイ休養デス』と首を縦に振った。
不運続きだった前世から一転、圧倒的な【運∞】と持ち前の優しさで、またしても世界を救ってしまった真の勇者ルークはしばらく王都での生活をすることになった。




