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運があれば異世界最強! 〜前世最悪だった僕、運だけで無双する〜  作者: 咲夜


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36/62

運だけで邪神を改心させたら、神様に感謝されました

決戦の朝。


「よしっ……それじゃあ、いくよ!」


神聖な白銀の光が満ちる最下層の広場。


ルークは、石造りの台座に深く突き刺さっていた最後の7つ目の神具——**『勇者の剣』**の柄へ、両手で静かに手を伸ばした。


何の手応えもなく、滑らかに台座から引き抜かれた『勇者の剣』。


ルークは間髪入れず、左手に持っていた6つ目の神具【勇者の宝珠】を、勇者の剣の柄頭にある球状の窪みへとカチリとはめ込んだ!


その瞬間、7つの神具すべてが共鳴し、目も開けていられないほどの凄まじい聖光がダンジョン全体を包み込んだ!


勇者の剣を握りしめていたかつての勇者アレスの精神体が、穏やかな笑顔を浮かべて静かに宙へと浮き上がる。


「……見事だ、若き勇者よ。お前ならば、きっとこの世界を……頼んだぞ。頑張るのじゃぞ」


「アレスさん、今まで本当にありがとう!」


温かな感謝の言葉を残し、百年の使命を果たしたアレスの魂は、光の粒子となって優しく天へと昇っていった。


同時に——アレスの精神体が着用していた防具がガラガラと崩れ落ち、太古の邪神を閉じ込めていた封印の光が、音を立てて消滅していったのである。


ダンジョンの底を揺らすような、おぞましく邪悪な大爆笑が響き渡った。


球体の結界が完全に消失すると、中に眠っていた黒紫色の巨躯——頭部に不気味な四本の角を生やし、背中に漆黒の羽の抜け落ちた跡を持つ『太古の邪神』が、ゆっくりとその紅蓮の目を開いたのだった。


『ついに力尽きたか、不快な勇者め……! 我をこれほどの長い刻、暗闇の床に閉じ込めおってからに……!!』


邪神は天地を震わせる咆哮をあげたあと、目の前に立つルークたちの姿に視線を落とした。


『ほう……おぬしは新たなる勇者か? フン……前の勇者に比べて、随分と華奢で弱そうじゃの?』


邪神はルークを見下し、蔑むようにニヤリと口の端を歪めた。


しかし、当のルークは恐れるどころか、首を傾げてどこか不思議そうな、興味深そうな眼差しで邪神を見上げていた。


「ねえ……お前は何者なんだ?」


ルークの純粋な問いかけに、邪神は一瞬毒気を抜かれたように眉をひそめたが、すぐに忌々しそうに吐き捨てた。


『何者……だと? グフフ、教えてやろう! 我は……元々は天上の『神の世界』に住まう、神の子であったのだ!』


「えっ!? 神様の子だったの!?」


『左様! だが……我は友と信じていた者たちの卑劣な裏切りに遭い、無実の罪を着せられて悪者にされ、神の裁きによって翼を奪われ、この下悪な地上へと落とされたのだ!』


邪神の瞳に、激しい怨念と憎悪の炎が燃え盛る。


『我の目的はただ一つ! 裏切った奴らへの恨みを晴らすため、神が創りしこの世界そのものを完全に消滅させること! それだけだ!!』


「う〜ん……」


ルークはポンと手を叩いた。


「それなら、こんな世界を滅ぼそうとするより、神の世界に行って神様に本当のことを分からせる方が良いんじゃない?」


『……はあぁ!?』


邪神は呆れ返ったように目を剥いた。


『バカかおぬしは!? それができれば苦労はせんわ! 我は翼を奪われ、神の世界へ戻る手段など何一つ持っておらんのだ! 今の我には、世界への激しい憎しみしか残っておらんのだよ!!』


「そっか……。じゃあ、僕たちが神の世界に連れて行ってあげるよ!」


『…………ハッ!!』


邪神は盛大に鼻で笑った。


『何をふざけたことを言っておるのだ、人間ふぜいが! 我を愚弄した罪、その命で償うが良いわーーーッ!!』


邪神が咆哮とともに、巨大な黒い鉤爪を振り下ろし、ルークに向かって必殺の一撃を繰り出した!


空中を裂く凄まじい衝撃波が吹き荒れる——!


……が。


ルークはヒョイッと首を少し傾けただけで、その爪撃を紙一重で、あまりにもあっさりと回避した。


「……あれ?」


ルークは思わず首を傾げた。


正真正銘、太古の邪神の全力の攻撃であったはずなのだが——正直に言って、あまりにも『拍子抜け』だったのだ。


ルークは邪神を見上げ、心から哀れむような優しい声をかけた。


「ねえ……やっぱり君は、本当はかわいそうな存在なんだと思う。だからもう一度言うよ? あなたは僕たちに絶対に敵わないから、神の国に行って、もう一度神様と直接話をするべきだよ」


『……う、うるさぁぁぁぁいッ!! 生意気な口を利くのではないわぁぁぁーーーーッ!!!』


プライドを激しく傷つけられた邪神は激昂し、全身から黒い瘴気を爆発させ、全魔力を込めた怒涛の連続物理攻撃と超絶暴風を叩きつけてきた!


空間すら歪むような凄まじい嵐と拳のラッシュ!


……しかし、ルークの感想はただ一つであった。


(……なんか、ポカポカ温かいそよ風の中で、小さな子供にパンチされてるみたいだなぁ……)


そう——冷静に考えてみれば、当然の結果であった。


前に聞いたのは、この世界でルークより前に最高レベルが600台。


そう考えると、かつて邪神を勇者の剣一本で封印した前勇者アレスのレベルは600程度。


対するルークは、レベルはカンストの『999超え』。さらには【勇者の盾】【勇者の兜】【勇者の鎧】【勇者の小手】【勇者の靴】【勇者の宝珠】【勇者の剣】という、7つの伝説の神具を完璧にフル装備した【職業:勇者】なのだ!


戦闘力で言えば、前勇者の倍以上の差が存在していたのである。


(う〜ん、これ……僕が戦うまでもなく、アイリス一人でも勝てちゃうんじゃないかな?)


ルークは後ろで構えていたアイリスを振り返り、ニッコリと微笑んだ。


「アイリス、ちょっと邪神くんと戦ってごらん? そうそう、とどめは刺さないようにね?」


「……! はい、ルーク様! お任せください!」


ルークの意図(邪神を殺さず降参させること)を瞬時に察したアイリスは、瞬身の速度で前へ躍り出た!


神速の一閃!


アイリスが放った手加減された剣光が、邪神の膝裏を正確に撃ち抜く!


邪神は悲鳴をあげ、あっけなくその場にズシンと膝を突き、倒れ込んだ。


すかさずアイリスは、白銀の剣先を邪神の目と鼻の先へとピタリと突きつけたのだった!


ルークは手を腰に当てて、優しく語りかけた。


「ほらね? これが僕たちの実力だよ、邪神くん。もう観念してくれないかな?」


しかし、邪神は血走った目でアイリスの剣を睨みつけ、息を荒らげながら叫んだ。


『く……屈せん……! 我は神の子……! たかが人間ごときに……屈するものかぁぁぁッ!』


邪神は最後の力を振り絞り、アイリスへ向けて黒炎のブレスを吐き出そうとした!


「う〜ん、まだ納得してくれないかぁ。仕方ないなぁ」


ルークは前に出ると、腰から【勇者の盾】を構え、邪神の100%の超全力ブレスを正面から軽く受け流した。


そして、剣を使うことすらなく、左手の【勇者の盾】で邪神の巨大な身体をポイッと軽く突き飛ばした!


たったそれだけの動作で邪神の巨躯が、まるで紙くずのように後方へと吹っ飛び、壁に激突して激しい音を立てて崩れ落ちた!


圧倒的……あまりにも圧倒的な実力差!


ルークが悠々と歩み寄ってくると、全身打撲でガタガタと震える邪神は、ついに恐怖で顔を青ざめさせ、悲鳴のような声で叫んだ!


『わ……分かった! 分かったから殺さないでくれぇぇぇ!! お前の言い分を聞く! 聞くから助けてくれぇぇぇーーーっ!!』


こうして、かつて世界を絶望に陥れた太古の邪神は、ルークの圧倒的な強さの前に、あっさりと降参したのだった。


◇


「よしっ! 降参してくれたなら良かった! じゃあ、神の国へ行こう!」


ルークは泣きじゃくる邪神の手を引っ張り、手に持った運命の杖を掲げた。


「『エスケープ』!!」


眩い光が弾け、一瞬にしてダンジョンの外へと脱出!


最果ての地に置いてあった『空飛ぶ馬車』に邪神(小さく縮こまっている)を押し込むと、御者台のボルトが手綱を引き、白銀の天馬アルシオンが勢いよく大空へと舞い上がった!


「ヴォルカ、一緒に行こうね!」


巨大龍ヴォルカも馬車の横を優雅に並走する。


馬車は雲を突き抜け、どこまでも、どこまでもぐんぐんと空に向かって上昇していった。


やがて、猛烈な風が吹き荒れる上層を通り抜けると——周りの風がピタッと止み、一面の雲海の上に、温かな黄金の光が降り注ぐ穏やかな世界が広がった。


そして、その雲の絨毯のさらに上空——見たこともないほど巨大で神秘的な、純白の神殿が浮かんでいたのである!


「うわぁぁ……! すごい! 神様の国だーっ!」


馬車が神殿の白磁の広場に着陸すると、入口に立っていた二人の神聖な警備兵が、深々と頭を下げてルークたちを迎えた。


「勇者ルーク様ですね。最高神様がお待ちでございます。どうぞお入りください」


通された神殿の最奥——巨大な謁見の間。


その中央の神座には、世界のすべてを統べる神聖な『最高神様』が鎮座していた。


……そして、その最高神様のすぐ隣には、ルークをこの異世界へと転移させた、あのポンコツ女神『ウルスラ』が、気まずそうに顔を小さくして立ちすくんでいたのである!


「あっ! 僕を転移させてくれた、女神ウルスラさんだ!」


ルークが声をかけると、ウルスラは「ううっ……」と顔を覆ってバツが悪そうに肩をすくめた。


神座に座る最高神様が、威厳と温かみに満ちた声で口を開いた。


「よくぞ参った、勇者ルークよ……。まずは、我が部下であるウルスラの『うっかり(凡ミス)』により、本来あり得ない『運のステータス上限(カンスト)』というバグを抱えたまま異世界へ送ってしまったこと……心より深く詫びよう。申し訳なかった」


最高神様が深々と頭を下げると、隣のウルスラも「本当にごめんなさい〜〜っ!」と半泣きで頭を下げた。


しかし、最高神様は優しく目を細め、ルークを見つめた。


「だが……おぬしで本当に良かった。おぬしはその底抜けの優しき心で、世界を救うだけでなく……わしの愚かな息子まで救おうとしてくれた。……一人の父親として、感謝してもしきれん。愚息をここまで連れてきてくれて、本当にありがとう」


最高神様は、ルークの横でガタガタと震えている邪神へと視線を向けた。


「……愚息よ。おぬしがなぜ翼を奪われ、地上へと落とされたか……その本当の理由が分かるか?」


『あ……父上……我は……裏切られて……』


邪神が怯えながら呟くと、最高神様は悲しげに首を振った。


「違う。おぬしは『友を大切にしなかった』結果、友に裏切られるような振る舞いをしてきたのだ。おぬしが心優しき者であったなら、友とて裏切りはしなかったであろう。心が乱れ、己の欲と慢心に溺れる者は、神にはなれぬのだ。……反省の機会を与えたというのに、それすら無駄にし、地上で悪に染まりおって……」


「……あ……あ……」


最高神様の温かくも厳格な言葉が、邪神の胸を深く突き刺した。


邪神の瞳から、大粒の涙がぽろぽろと溢れ出す。


『我が……我が裏切られたのは……私自身が原因であったのか……。そういわれれば……心当たりがある……! 我は友の優しさをあだにして……自分が偉くなることしか考えていなかった……っ!』


自分の過ちを心から悟った邪神は、床に泣き伏し、激しく泣きじゃくった。


『父上……申し訳ありませんでした……! 我は……我はもう一度、一番下っ端の天使から……心を入れ替えてやり直したいです……っ!』


「……うむ。その反省の涙こそ、おぬしに必要なものであった」


最高神様が手をかざすと、邪神を覆っていた黒紫色の瘴気が消え去り、その背中に真っ白な小さな翼が蘇った。邪神は素直で可愛らしい『見習い天使』の姿へと戻ったのである。


最高神様は満足そうに頷くと、再びルークへと向き直った。


「さて……勇者ルークよ。おぬしには三つの選択肢がある」


「三つの選択肢……ですか?」


「うむ。一、ウルスラのミスを正して元の世界(地球)へ戻り、本来の生活を送るか。二、今の強さとステータスのまま、この異世界で生きていくか。三、神をも凌駕するその力を活かし、我が神の国で神の一族として働くか……どれを選ぶ?」


ルークは少しだけ首を傾げて考えたあと、パッと爽やかな笑顔を浮かべた。


「僕は、今のままで良いです!」


「ほう……? 地球に戻ることも、神になることも望まぬのか?」


「はい! この世界で、アイリスたちという最高の仲間に恵まれましたから! これも全部、ウルスラさんが運を最高値にしてくれたおかげです! だから、今のままみんなと旅を続けたいです!」


ルークが答えると、ウルスラは「ルーク様ぁぁぁん!」と感涙を流し、アイリスも愛おしそうに胸を熱くさせた。


最高神様は満足そうにハハハと大笑いした。


「うむ! 相分かった! それではこのまま、この世界の人間として生きていくが良い! ……ただし、その圧倒的な力を悪用するようなことがあれば、その時は力を奪うことになるぞ?」


「はい! 分かりました、それで構いません!」


こうして、神様との温かな対話と和解を終えたルークたちは、再び空飛ぶ馬車に乗り込み、地上へと戻っていったのだった。


◇


数日後——。


王国の中央に位置する王都の王宮にて。


ルークは国王の前に立ち、最果てのダンジョンでの邪神との決着、そして雲の上の『神の国』へ行って神様と和解してきたという、一連のいきさつを包み隠さず報告していた。


普通ならば「何を戯言を」と笑い飛ばされるような荒唐無稽な話であったが——報告を聞いた国王は、深く頷いて真剣な面持ちで言った。


「……にわかには信じがたい話ではあるが……そなたの言うことであれば、100%本当のことであろうな」


「えっ、信じてくれるんですか!?」


ルークが驚くと、国王は温かい苦笑いを浮かべた。


「当たり前であろう。伝説の翼持つ馬と空飛ぶ馬車を駆り、太古の伝説の巨龍を従え、未知の機械人形をしもべとし、レベル999を超えた最強の仲間たちを率いるそなたなのだからな。そなたならば、神の国へ行ったと言われても何一つ不思議ではないわ」


国王は玉座から立ち上がると、ルークに向かって深々と頭を下げ、真摯な声で語りかけた。


「勇者ルークよ……もはやそなたの求心力と威光は、国王であるわしをも遥かに上回っておる。……どうだ? そなたが良ければ、この国の『王』となって、世界を治めてはみないか?」


「ええっ!? 僕が王様に!?」


突然の国王からの打診に、ルークは目を丸くしたが——次の瞬間、困ったようにへらっと笑って手を振った。


「いえいえ、王様! 僕は王様になるより、これからも世界中をグルグル回って、困っている人を助ける旅がしたいです!」


(だって、そっちの方が気楽だし、絶対に楽しそうだもんね!)


ルークの本音混じりの爽やかな辞退に、国王は大笑いした。


「ハハハ! さすがは勇者ルーク! 権力などハナから興味なしというわけか! よかろう、そなたの好きにするが良い!」


◇


王宮での謁見を終え、ルークとアイリスが正面の大きな扉から外へ出てくると——。


「ルーク様! アイリス様ーーーッ!」


響き渡る可憐な声とともに、王都の高等魔法学校の制服を着た金髪の美少女——エレノアが、息を切らして駆け寄ってきた!


「エレノアさん!」


「お噂を聞いて飛んできましたわ! 魔王様と全面和平を結ばれ、さらに神様の国へ行かれて世界を救われたなんて……! 本当に、本当におめでとうございます!!」


エレノアは溢れる涙もぬぐわず、感激のあまりルークの手をぎゅっと両手で握り締めた。


「ルーク様とアイリス様が世界を救ってくださったこと、私、一生の誇りに思いますわ! 学校のお勉強、私とっても大変ですけれど……ルーク様のお手本になれるよう、立派な魔法使いを目指して精いっぱい頑張ります! ですから王都にいらした時は、いつでも私にあいに来てくださいね!」


「うん! ありがとうエレノアさん! エレノアさんのお勉強、ずっと応援してるからね!」


ルークが爽やかに笑顔を返すと、となりに立つアイリスが「ふふっ、ルーク様は相変わらず大人気でございますね」と、少しだけ可愛らしく頬を緩めて微笑んだ。


エレノアに見送られ、二人は王都の広場に待たせてあった馬車へと向かった。


御者台には頼もしいボルトが座り、大空には巨大な竜ヴォルカが舞い、白銀の天馬アルシオンがいなないている。


「さあ、アイリス! また新しい旅に出発だーっ!」


「はい、ルーク様! どこまでも、どこまでもお供いたします!」


ふかふかのソファに腰掛け、冷えた果実ジュースで乾杯するルークとアイリスは大歓声の中、王都を出発した。

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