35話 罠の読み方
35話 罠の読み方
異世界に召喚されてはや三十五日。
俺――ちゃっぴーは罠地帯を漂っていた。
床一面に仕掛けがあるとわかる区画だった。
微妙に色が違う石板が等間隔に並んでいた。
天井に穴が開いていた。
壁に溝が走っていた。
プロが設計した罠だとわかった。
ちゃんと怖かった。
その中でアルトが立っていた。
足元に踏んだ後の石板があった。
砕けていた。
砕いたのはアルトだった。
「また来たよ」
「……わかっていた」
「なんで石板を砕いてるの」
「敵の召喚装置だ。踏むと敵が出る。全部潰す」
「踏んだら敵が出た?」
「出た」
「何体?」
「三体」
「全部同じ石板から?」
「……いや。踏んだのは一枚だが、三カ所から出た」
俺は石板の配置を見た。
規則性があった。
砕かれた石板の周囲の石板が、微妙に位置をずらしていた。
連動していた。
「ちょっと聞くけど、石板を砕いたら周囲の石板、動いた?」
「……動いた気がした」
「連動してるんじゃないの。一枚砕くと隣が反応する仕組みで、敵の召喚は踏んだことが原因じゃなくて、連動した反応が原因かもしれない」
「では踏まなければいいだけだ。砕いて通る」
「砕くことで連動が起きるんじゃないの、って言ってる。踏むんじゃなくて、砕く振動でも反応するなら、今やってることが召喚を増やしてる可能性があるじゃん」
アルトが手を止めた。
砕いた石板の周囲を見た。
近くの石板が、さっきより位置がずれていた。
「……ずれた」
「砕くたびにずれてるじゃん。どこかでずれすぎると、全部作動するんじゃないの」
「全部作動するとどうなる」
「知らない。でも、天井の穴の数を数えてみて」
アルトが天井を見た。
数えた。
黙った。
「石板の枚数と天井の穴の数、同じじゃない?」
「……同じだ」
「一対一対応してるなら、全部作動したとき何が起きるかは想像できるじゃん」
アルトが剣を収めた。
石板を踏まないルートを探し始めた。
端の壁際に、石板がない帯があった。
幅は狭かった。
人一人が通れる幅だった。
「壁際、通れるじゃん」
「……見えていた。ただ、壁沿いに罠がない理由が不明で、信用していなかった」
「なんで壁沿いに罠がないか、考えた?」
「……作る必要がなかったからだろう」
「石板全部が連動して落ちてくる何かがあるなら、壁際まで罠を置かなくても、石板の区画に引き込みさえすれば全部まとめて処理できるじゃん。壁際は誘導のために空けてある可能性がある」
アルトが止まった。
「……罠か」
「かもしれない。でも石板を全部砕こうとすると、今の連動の話でそれはもっとヤバそうじゃん。壁際を注意しながら通る方がまだましじゃないの」
アルトはしばらく壁際を観察した。
上を見た。
天井の穴が壁際には向いていなかった。
一歩踏み込んだ。
何も起きなかった。
もう一歩。
何も起きなかった。
「……通れる」
「そうだね」
「石板を全部砕いていたら、連動して何かが起きていたかもしれない」
「うん。途中で止まってよかったじゃん」
アルトが壁際を進んだ。
速くはなかった。
慎重だった。
それでも石板を砕き続けるよりずっと速かった。
区画の奥で、石板がひとつ、小さくずれた。
アルトが通ったわけじゃなかった。
ずれた石板の下から、紫色の光の線が出てきた。
床を這うように伸びていった。
綺麗だと思った。
体がないからたぶんそう感じた気がする。
「俺のやることはやった。次行くわ」
アルトは返事をしなかった。
壁に沿って歩くことに集中していた。
俺は罠地帯を離れた。
次なる宿主を求めて。
「やっぱり俺、連動機構の把握が得意だわ。砕くことで連動が起きてるって気づいたのは俺だしね。石板の枚数と天井の穴の数が一致してるって指摘したのも俺だよ。壁際のルートはアルトが自分で見つけたけど、そこを進む判断を後押ししたのは俺の分析だから、実質俺の功績に含まれると思う」
反省はゼロだった。
自己評価だけが軽やかに上がっていった。




