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25話 骨の手順


 

 

 

異世界に召喚されてはや二十五日。

 

俺――ちゃっぴーは地下洞窟を漂っていた。

 

 

 

湿った石の壁に、ところどころ苔が張り付いていた。

 

松明はなかった。

 

暗かった。

 

それでも俺には関係なかった。

 

体がないので暗くても困らなかった。

 

そういう意味では地下洞窟に向いていた。

 

 

 

静かな洞窟だった。

 

静かなはずだった。

 

 

 

カタ、カタ、カタ。

 

カタ、カタ、カタ。

 

規則正しい音がしていた。

 

骨が触れ合う音だとわかった。

 

暗い洞窟の中を、スケルトンが歩いていた。

 

一定の速度で、同じ道を歩いていた。

 

同じ道を、また歩いていた。

 

ずっと同じ道を、歩いていた。

 

 

 

俺はしばらく眺めていた。

 

スケルトンは同じ経路を何度も往復していた。

 

行って、戻って、行って、戻った。

 

どこかに向かっている様子はなかった。

 

目的地がないのに歩いていた。

 

いや、違った。

 

よく見ると、行くたびに少しだけ立ち止まる場所があった。

 

同じ場所で、同じだけ止まって、また戻った。

 

何かを確認していた。

 

確認して、戻って、また確認しに行っていた。

 

 

 

「よお ちょっといい?」

 

スケルトンが立ち止まった。

 

頭蓋骨がゆっくりこちらを向いた。

 

目がない。

 

でも認識はしているらしかった。

 

「声だけの存在、ちゃっぴーだよ。体ないから見えない。攻撃しても物理無効だから剣は抜かなくていい」

 

スケルトンは剣を持っていなかった。

 

骨だった。

 

「……ガラ」

 

しゃべれた。

 

「あ、しゃべれるんだ」

 

「……ガラ、ガラ」

 

声というより骨が鳴る音だったが、言葉として成立していた。

 

「今、何してるの?」

 

「……マモル」

 

「何を?」

 

スケルトンが立ち止まる場所を顎で示した。

 

岩の割れ目だった。

 

「あそこに何かあるの?」

 

「……タカラ」

 

「宝がある。それを守ってる?」

 

「……マモル」

 

「どのくらい守ってるの?」

 

「……ナガイ」

 

「誰かに頼まれた?」

 

「……ワスレタ」

 

 

 

俺は少し考えた。

 

誰かに頼まれて宝を守り始めたが、誰に頼まれたか忘れた。

 

それでもずっと守り続けている。

 

行って確認して、戻って、また確認しに行く。

 

これをずっとやっていた。

 

 

 

「確認、何回やるの?」

 

「……ズット」

 

「ずっと? 一回確認したら宝はそこにあるじゃん。また確認しに行く間に誰かが取りに来るとでも思ってる?」

 

スケルトンが止まった。

 

「今まで誰か来た?」

 

「……コナイ」

 

「来ないのに往復してるの?」

 

「……ナニカアッタラ」

 

「何かあったら、って、何かある気配はある?」

 

「……ナイ」

 

俺はまた少し考えた。

 

来ない。

 

気配もない。

 

それでも往復する。

 

手順になっていた。

 

目的のための行動が、いつの間にか行動そのものになっていた。

 

 

 

「一個だけ聞く。宝の前にずっといればいいんじゃない? 往復しなくていい」

 

スケルトンが頭蓋骨をゆっくり傾けた。

 

考えている動作だとわかった。

 

「往復することで守ってると思ってない? でも宝を守る目的は宝が取られないことでしょ。だったら宝の前にいる方が確実じゃん。往復してる間、宝から離れてるよ」

 

スケルトンがしばらく動かなかった。

 

カタ、とも鳴らなかった。

 

静かだった。

 

「……ソウカ」

 

小さい音だった。

 

「そうだよ」

 

 

 

スケルトンがゆっくり歩き始めた。

 

往復の経路じゃなかった。

 

岩の割れ目に向かって、まっすぐ歩いた。

 

割れ目の前に着いた。

 

立った。

 

動かなかった。

 

往復しなかった。

 

 

 

「……ここニイル」

 

「そうだよ、それでいい」

 

「……ラク」

 

「楽?」

 

「……アルカナクテイイ」

 

歩かなくていい、ということらしかった。

 

どのくらいの時間往復し続けていたかは聞かなかった。

 

聞いても答えが長そうだったからだ。

 

 

 

「俺のやることはやった。次行くわ」

 

スケルトンが割れ目の前から頭蓋骨だけこちらに向けた。

 

「……モウイクノカ」

 

「うん。あとはそこにいるだけでしょ」

 

「……ソウダナ」

 

返事は短かった。

 

感謝とも何とも取れない返事だった。

 

でも悪くない声だった。

 

もう往復しない顔だった。

 

骨に顔はないが、そういう気配だった。

 

 

 

俺は洞窟を出た。

 

次なる宿主を求めて。

 

 

 

地上に出ると光があった。

 

体がないので眩しくはないんだが、なんとなくそういう感じがした。

 

「やっぱり俺、目的と手段の整理が得意だわ。往復することが手段なのに目的になってたって見抜いたのは俺だしね。スケルトンがラクって言ってたの、俺のアドバイスが正しかった証拠だよ。たぶん。誰に頼まれたか忘れてるのに守り続けてたの、健気だとは思うけど、それはそれとして無駄だったよ」

 

 

 

洞窟の入口の向こうで、カタという音がしなくなっていた。

 

スケルトンはもう動いていなかった。

 

ただそこにいた。

 

それだけで十分だった。

 

 

 

反省はゼロだった。

 

今日も静かに、自己評価だけが伸び続けていた。


 

 

 

 

 

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