61 いざとなったら勇気がでない(ジル視点)
「これから3年間、聖女として精一杯お役目を果たさせて頂きますね」
ロティーナから、思わず抱き締めたくなるようなはにかんだ可愛らしい笑顔で「3年経ったら実家に帰ります」となんとも残酷な宣言をされたその夜。
「なんだ、まだ聖女様に告白してなかったのか?このヘタレめ」
幼なじみで親友で、最も信頼出来る部下となったターイズに呆れらたような顔で毒を吐かれた。ちょっと酷くないか?
「それはみんなが邪魔したんじゃないか……」
「そんなものお前のタイミングが悪かったからだろう。それにしても未だに契約に拘られておられるとは……聖女様は律儀な方だな。
まったく、さっさともう契約など関係なく側に居て欲しいと伝えればいいだけだろうに」
「……少しは伝わっていると思っていたんだが、まったく伝わってなかったみたいなんだ」
大の男がふたり並んで深いため息をつく。もちろんターイズはオレに対してだが。
「ジル、まさかとは思うがお前……」
ジットリとした半目のターイズが自身の顎に手を添えて意味深な顔でこちらを見てきた。なんだろう。オレは今度は一体なにを責められているんだろうか……。
「聖女様が初恋とか言うなよ?」
「……ちくしょう、そうだよ!初恋だよ!悪かったな?!」
半ば自棄になって暴露してしまったが、真実にそうなのだから仕方がない。これまで母上以外の女性なんてまともに対話したことなかったし、女の子にこんな感情を持ったことなど無かったのだ。
「……なんかもう、どうしたらいいのかわからなくなってきたんだ……」
たぶん今のオレの顔は真っ赤になっている気がする。こんな顔なんてロティーナには絶対に見せられないな。
「まさか、ジルから恋愛相談をされる日がくるとは……長生きはするものだ」
感慨深く頷くターイズだが、お前、オレと同い年だろうが。
「そうだな……自分が思うに、聖女様も少なからずジルに好意は抱いていると思うぞ。
だが、真面目な聖女様からしたら自身の存在意義は契約によるものでしかないとお考えなのではないか?もしくはこれからこの国の王となるジルの負担になりたくないとか……確かご出身は伯爵家だったろう?身分が不釣り合いだとかなんとか悩んでおられるのではないだろうか?」
的確なターイズの指摘に思わず頷きたくなった。
「確かに、ロティーナならあり得るかもしれない……!そうだよな、好意は持たれてる?よな……」
たぶん嫌われてはいないと思うが、よく考えればロティーナ自身は婚約破棄したばかりだ。元婚約者はとんでもないクズだったし、オレも最初は彼女からしたら胡散臭い不審者だった。アールスト国の王子やアヴァロンといい最低な男たちばかり見てるわけで……ロティーナが男に良い印象を持っていないのは明らかだろう。特に王子とか婚約とか結婚とか……悪いイメージしかないのでは?!
オレが頭を抱えているとターイズが再びため息をつき……バチン!と背中を叩いてきた。
「いてっ!」
「情けない顔をするな、ジル!男ならば玉砕覚悟で想いを打ち明けろ!
……想いを告げられる相手が存在するというのは、とても幸せな事なのだぞ。自分は、もうその相手がいないからな」
「……?」
一瞬、ターイズが悲しげに瞳を震わせた気がしたがそれを確かめる前にすぐにいつもの幼なじみの顔に戻っていた。
「ターイズ、それはどういう……」
「男に産んでもらったことをルーナ様に感謝しろよということだ!」
そう言って、バンバン!とまた背中を叩いてきたかと思うと「聖女様はモテるだろうなぁ。お役目期間が終わったらそれはもう引く手数多だろうし、伯爵令嬢に戻ったら領地の為だとかなんとか理由付けて権力的に逆らえない相手から無理矢理あれやこれやと……」と遠くを見るようにニヤニヤとしだしたのだ。
「なっ!それはダメだ!」
思わず想像してしまい声をあげてしまった。引く手数多なのはそうだろうが、権力とか無理矢理とか……そんなのは絶対にダメだ!!
「……ならば、やることはひとつだけだろう?あんまりガッカリさせるなよ」
「……わかってるさ」
悩んでいても仕方がないのなら、行動あるのみだ。これから先の未来にロティーナがいないなんて絶対に嫌だと思ったから。
そう、行動を……。行動する勇気を出さねば……!
ロティーナに告白する勇気!……でも、もし断られたらその時は、ど、どうすれば?
普段の悪巧みなどならいとも簡単に行動出来るのに、まさかこんなことで悩む日がくるだなんて考えもしなかったオレは頭を抱えた。
「世界征服でも企むほうがよっぽど楽だな……」
思わずそう呟いたオレにターイズが「物騒なこと言ってないで早く告白してこい、このヘタレ」と珍しくツッコミを入れていた。




