56 最後の言葉を(ジル視点)
“「最初で最後の兄としての言葉だ」”
オレのその言葉に、3人の王女たちは青ざめながら口を開いた。
「……な、なによ、なんでそんな……」
「わたくしたちは、お前なんかを兄だなんて……」
「し、死にたくない……!」
思えばこの王女たちも憐れな存在だと思う。だからといって今までの事を全部許せるかと言われたら根が深すぎるが……。
それでも、最後にひとつだけ兄らしいことをしてやりたい。いや、それすらもオレのエゴか。オレの自己満足を満たすための生贄になれと言った方がしっくりくるのかもしれないと思った。
「……占星術師の言葉は聞いたはずだ。《《王女》》に不幸が訪れるのだから、王女でなくなればいい。今、城は混乱している。オレがお前たちの遺品だと証拠を持っていけば誰も追及はしないだろう。この国から逃げて平民として生きろ。……それを拒むならこの場で首を切り落とすまでだ」
そう言って腰の剣を抜いて見せれば、黙ったままオレを睨みつけながらその場から走っていった。
これまでがどんなに不遇だと嘆いていたとしても、王女としての生活に慣れきったこの3人に隠れながら生きていくのは死ぬよりも辛いことかもしれない。それでも、死にたくないのならば生きていくしかないのだから。
「我らが新王は、なんとも甘いな」
「……ターイズか」
横目に親友の姿を確認しながら妹たちから奪った装飾品を床に投げ、自分の手のひらをナイフの切先で切る。溢れる血をその装飾品に振りかければそれらしい証拠品に見えた。この装飾品はあの3人がいつも身に付けていた物だから、これだけ血塗れにすれば誰も疑わないだろう。
「甘くなんかないさ。次にオレの前に姿を現せば容赦なく切り捨てる。そこまで馬鹿じゃないと思いたいがな」
「一応、森の方へ逃げたのは確認したぞ」
「……そうか。手間をかけさせたな」
手のひらの傷に乱暴に布を巻き付けて止血しているとそれを見たターイズがやれやれと肩を竦めた。
「どうせならもっと目立たない場所を切れよ。聖女様が知ったらまた心配されるぞ?」
そこまで言われてハッとする。……しまった。つい手っ取り早いからと切ってしまったが、確かにロティーナならめちゃくちゃ心配しそうだ。
「……ロティーナには言うなよ」
「おおっと、我らが新王は聖女様に嘘をつけと?「うるさい」はいはい、わかってるよ。……なぁ、ジル」
するとターイズは片膝を付き、心臓の上に手を当てオレに跪いてみせた。
「ターイズ?」
「ジル……。いや、ジーンルディ殿下。自分はあなたと聖女様に永遠の忠誠を誓う。この命をかけてあなたたちを守ると決めた。……もちろん聖女様の方が順位は上だがな」
最後にニヤリと笑う親友の姿に思わず笑みがこぼれた。
「上等だ。お前が優先してロティーナを守ってくれるならオレはなによりも安心だよ」
「言っておくが、もし聖女様を残して死んだりしたら許さないからな。自分が認めた唯一の王が簡単に死んだら後世までの恥だ」
「わかってるさ」
ふたりで拳をつき合わせる。もちろん死ぬつもりなど毛頭もない。オレが死んだら、ロティーナが怒りそうだからな。
「では、国王を討ちにいこう。今までの政権に不満を抱いていた者たちもたくさんいるんだ。ジルの味方は多いぞ 」
「“呪われた王子”なのに?」
「ジルの存在は不安であり、希望なのさ。なによりも今は王太子のせいで国民が動き出している。絶好の機会だろう」
再びニヤリと笑うターイズ。やけに饒舌だと思ったら、どうやら仕込み上々らしい。
「それなら、後は期待に応えるまでだな」
「そういうことだ」
頼りになる親友がオレの肩を力強く叩いたのだった。
さぁ、今度こそ最後の決戦だ。




