55 妬ましい相手 (異国の王女たち視点)
アヴァロン王太子が磔の刑にされた翌朝、そのアヴァロンは無惨な姿となって発見された。磔にされ口には石を詰め込まれたまま放置されていたはずだったのだが、誰にやられたのか無数の刃物で切り刻まれていたのだ。
深く浅く抉るような数えきれない程の切り傷。指は半分ほど千切れかけ片方の目玉には小型のナイフが突き刺さっていたが、誰もその犯人を探そうとはしなかった。
そんな憐れな死に方をした元王太子の姿に、妹であるはずの王女たちはちゃんと死んでいた事に安堵していたのだが……。
突如目の前に姿を現したもうひとりの兄である“呪われた王子”の姿に震え上がることになる。
***
「……ここにいたのか」
やっと解放されたと思ったのに、まだこいつがいたのだ。その存在感を思い出し、あの灰色の瞳が自分たちを見ていると思うとゾッとした。
「な……なんで、この出来損ないが今さらここに……!逃げたんじゃなかったの?!」
「聖女は、聖女はまだ見つからないの……?!早くこいつを殺してもらわなきゃ……!」
「せっかくお兄様を殺したのに、まだわたくしたちを不幸にするつもりなの……?!」
わたくしたちはわたくしたちが幸せになるためにこんなに頑張ったのに、まだわたくしたちを不幸にしようとする存在に恐怖と嫌悪、そして怒りを感じていた。
わたくしたちは兄でもある“呪われた王子”がずっと憎かったのだ。
側室の子であるわたくしたちは王女とは言えその立場はあまりに弱い。王太子であったアヴァロンに取り入って馬鹿で扱いやすい妹たちと認識させて命を守るのに必死だった。
あのアヴァロンは残酷で自分の思い通りにいかない人間を簡単に見捨てる男だ。だからこそ、馬鹿で可愛い妹でいなければいけない。多少ワガママでも決して逆らわず何も考えない飾り物の王女たち。そんな傀儡だったからこそ今まで殺されずにいたのだと思っている。
全てはわたくしたちが男に産まれなかったからだ。
女というだけで男である兄に見下された。母たちに悲しまれた。父である国王には政略の道具にしかならないとため息をつかれた。
そんな父王は今や愛妾であるルーナから離れないし、王妃はアヴァロンが父王の手によって処刑を言い渡されたことで発狂している。母でもある側妃たちに到っては全てわたくしたちが誰一人として男に産まれず王太子の代わりになれない役立たずなせいだと嘆いてばかりだ。
だから例え呪われた灰眼だろうと愛妾の子供だろうと、男に産まれたジーンルディが疎ましかったのだ。
男にさえ産まれていれば、なにかが違ったかもしれないとずっと思っていたから。
その妬ましい男が目の前にいて、こちらを見ている。そしてこう言ったのだ。
「オレはこの国の王になる。殺されたくなければ今すぐこの国から逃げろ……これは最初で最後の兄としての言葉だ」と。
だからわたくしたちは逃げた。こんな男を兄だなんて認めたくはないが、でも兄だったからこそ逃がしてくれたんだと思いながら……。




