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52 決意するしかない(ジル視点)

「あなた、ラスドレード国を乗っ取る気はありまして?」


今代の占星術師のその言葉に、背中にぞくりと雷が走った気がした。



……オレがこの国を乗っ取る?そう考えるとそれは不思議な感覚だった。 だって、 そんなこと考えたこともなかったからだ。



「……それは名案だ!いいじゃないか!ジルがラスドレード国の王になるのならば、自分は大賛成だぞ!占星術師様がおっしゃるなら尚更だ!」


ターイズが珍しく興奮した様子で両手を上げる。いつもあまり感情を見せない親友であり幼馴染みの男が心底嬉しそうな顔をしたことに驚いた。


「わたくしは先代からジーンルディ王子の事を託されましたわ。そして、先代の占星術師としての言葉をそのままに異国を立て直すならばこの方法しかないと思いました。

灰眼の呪われた王子がラスドレード国を滅ぼすと言うのならば……その王子が《《今の国》》を滅ぼし、新たなラスドレード国を作り上げればいいのですわ。もちろんその為には聖女の力添えもなくてはいけません。聖女は“呪われた王子”を滅して“呪いから”解放し……《《新たな王》》にする存在なのです。


────ロティーナ様。わたくしがあなたを聖女に選んだのもきっと神からの天啓です。あなたこそ、ジーンルディ王子を……いえ、ラスドレード国を救う存在なのですわ。わたくしは、あなたになら出来るとその時に思ったのですもの」


レベッカ嬢にそう言われ手を握られたロティーナは目を見開いたまま黙ってレベッカ嬢を見つめ返していた。


動揺しているのだろうか……。と、少しだけ複雑な気持ちになるが、それはそうだろうと納得もする。ロティーナはここ数日で嵐のような事柄に巻き込まれているのだし、動揺しても仕方ないじゃないか。


いきなり聖女なんてものに担げあげられた上に都合よくオレに利用され、さらにはそんなオレを殺せと言われたり助けろと言われたり……混乱しない方がおかしいのかもしれない。


オレがラスドレード国の王になる。夢物語のようだが、実現すればオレは死ななくてもいいし母上も助けられるかもしれない。母上を生かす為の薬を独占してるあの国王を倒す事が出来れば……母上を自由に出来る可能性があるのだ。


だが、それを成すには聖女の存在が……ロティーナが必要となれば彼女の負担は計り知れない。






────ロティーナに、そんな事をさせていいのか?


彼女は普通の女の子だったんだ。いくら占星術師の言葉があったとは言え、オレはオレの都合のために身勝手に彼女を利用した。その真実と罪悪感は消えることはない。


 今だってロティーナを助けるためといいながら母上の安否が気になってわざわざ連れて行ったがために、ロティーナは占星術師と出会ってしまった。たまたまロティーナの知り合いだったから運命的な雰囲気になっているだけであって、ロティーナからしたら突然に流れ者たちの歴史とラスドレード国の未来を背負わされた事になるのだ。


 確かに母上はロティーナの味方になってくれた。だがオレは、心の何処かでもしかしたら母上が権力を使ってロティーナだけでも逃がしてくれるのではないかと期待していたのだ。父親である国王をこんなに憎んでいるのに、そんな国王の愛妾の権力をも使おうとした。……オレはなんて情けない男なんだろうと実感する。


「レベッカ嬢……いや、占星術師様。オレは────」


「私、頑張ります!!」


迷いだらけの言葉を口にしようとしたオレの言葉を遮ってロティーナが叫んだ。


その瞳は輝き、頬は紅潮している。その姿はとても可愛らしく……輝いていた。


とても嬉しそうな笑顔で……オレの聖女が言ったのだ。


「……ジルさんを殺すなんて嫌ですもの!私はジルさんが生きてる未来を望みます!」


その為ならなんでもします。と、ロティーナはそう言ったのだ。そして隣でその様子を黙って見守っていた自身の侍女に「反対なんかしないわよね?アニー」と目を細める。その決意した眼差しに彼女の侍女は力強く頷いた。


「もちろんです!それでこそお嬢様ですよ!アニーはどこまでもお嬢様についていきますからね!」


 ロティーナが「頼もしいわ」と笑った。






 君が、オレの生きる未来を望んでくれている。それならオレだってなんだってするさ。ロティーナが側にいてくれるなら……。



「ジルさん。まさか、嫌だなんていいませんよね?」


 ロティーナの瞳にオレの姿がうつった。もちろん、オレの返事は決まっていた。



「……オレが、新たな王になる」と。











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