30 その勝利は確定する(アミィ視点)
「よし、これで大丈夫だ。後はオレに任せておいて。今夜迎えに来るから、またここで落ち合おう」
ジルはにっこりと笑みを浮かべながらあたしがなんとか書き終えた書類を懐にしまった。それにしても貴族の書類ってなんでこう小難しいのかしら?養女になる時の書類も実は何が書いてあるかわからなかったのよね。まぁ、ゲームのストーリー通りあたしが幸せになるってわかってたからチャチャッとサインしたんだけど。それと同じで今回の書類も小難しい羅列が並んでるようにしか見えなかった。ジルが説明してくれたから特に読もうとも思わなかったけどね。いつものことだけどこの世界の文字って読み方書きしにくいんだもの。どうせなら日本語を共通語にしてくれたらいいのに、気の利かない乙女ゲームよね!
あたしは勢い良くジルに抱き付き、さり気なく胸を押し付けた。
「ちゃんとその女を始末した証拠を持ってきてよね?でなきゃ、ジルの《《お願い》》聞いてあげないんだからっ」
そうして、そのまま上目遣いで首を傾げてみせた。こうしてみせれば大概の男は大喜びするのだ。ほら、ジルだってこんなに笑顔だもの。
「わかってるよ。今から始末してくるから待ってて」
ジルは優しい手つきであたしの頬を撫でてきた。大丈夫、この男はあたしに夢中だわ。これなら絶対に裏切らない。他の男たちとは違う……この男だけがあたしを愛してくれるんだわ。
これであたしは聖女になれるんだと思ったらニヤニヤが止まらない。だって聖女になれば今度こそ全てが思いのままにできるんだもの。
まず、聖女だから王族より強い権力を持つ事ができるわ。ジルのおかげで後から公爵家があたしに金をせびりにこないように完全に縁も切れた。そもそも公爵家のジジイとババアのことは大嫌いなのだ。だってあたしは元公爵令嬢が虐めた可哀想な令嬢で、それを償いたいって言うから公爵令嬢に《《なってやった》》のよ?それなのにあたしに平伏もせずなんだか卑屈な目で見てくるし、あたしが養女になった途端に体調を崩したなんて当てつけのように寝込むし、そんなのまさに嫌がらせでしょ?鬱陶しいったらありゃしないわ。散々あたしに嫌がらせしといて、あたしが聖女として活躍した後に「あの時、養女にしてやったんだから」なんて言いがかりつけられたら嫌だもの。
「名残惜しいけど、また後でね」
そっとあたしの体を離すと、いまだに意識を失ったまま倒れている桃毛女をジルが乱雑に抱き上げる。ふん、優しくされて勘違いしたんだろうけどあたしに勝とうなんて身の程知らずなのよ。
「うふふ、いい気味だわ。底辺の女のくせに、あたしに聖女だってことを見せびらかしたりするからこんな目に合うのよ」
憂さ晴らししてやろうと、みっともない桃毛をひと房掴んで引っ張ってやったがピクリとも動かない。この薬ってめちゃくちゃ効果あるみたいね。どうせなら泣きわめいて絶望する顔が見たかったが、まぁいいか。
「それじゃぁ、いってくるよ」
不吉な灰眼であることを除けばジルはいい男だと思う。せっかくだし念押しも込めて首に腕を巻き付け軽快なリップ音と共に頬に口付けしてやれば嬉しそうに微笑んできた。
「ええ、待ってるわ」
とにかくこの男を捕まえておけばあたしの幸せは確定される。他の男が急に冷たい態度になったのはジルと結ばれるためなのかもしれないと思った。きっとそうゆう仕様のストーリーなのだろう。隣国の王子との婚約をどうするかは聖女になって地位と権力を手に入れてからゆっくり考えればいいわ。
なんといっても“異国の聖女”だもの。隣国だって今まで以上の宝石を持って「どうか女王になってください」と頭を下げてくるかもしれない。
ゾクゾクとした快感が体中に走る。やったわ!あたし、最強ね……!
ジルが名残惜しそうに目を細めて屋敷を出た後、あたしは打ち合わせ通りこっそりと公爵家に戻ると、置き手紙を残して身を隠した。
『あたしは聖女様と出会い心を入れ換えました。
これまでの自分の所業を省みて決めた事です。公爵家と完全に縁を切ってこの国から消えます。どうか探さないで下さい』
うん、こんなものね。ジルに言われた通りに書いたけど本当に大丈夫かしら?だいたいあたしの所業ってなにかしたっけ?とも思うけど、あの賢い男がこう書けば大丈夫だと言うのだから信じよう。彼は絶対にあたしを裏切らないだろうから。
それにしても『探さないで下さい』なんて書いても、みんな血眼になってあたしを探そうとするでしょうけどね。公爵家も男たちもあたしがいなくなってから後悔しても遅いのよ!
「くすくすくす……」
さぁ、あたしの新たな人生の始まりよ。きっとその先はウルトラハッピーエンドで決まりなんだから!




