執行官、観光をする3
「さて、次はモールだったか……」
ルフェさんの言葉に、内心首を傾げる。
……モールとは何だろう、と。
けれども、どうせ聞いても「行けば分かる」と返されるのがオチだろうし、諦めて私は黙って付いて行った。
そうして辿り着いた場所は、横に広い建物だった。
「ここがモール。見れば分かると思うが、幾つもの商店が入った建物を、モールって呼んでいる。そっちの建物が生鮮食材とか食材関連の商店が入っていて、こっちが服とか雑貨を扱う商店が入ってる」
中に入れば、多くの人で賑わっている。
「何で、建物の中に商店を集めたんですか?」
「確か……元は市場だったんだよ、この辺り。けど、市場だと雨の日とか大変だろ? それで、建物の中に集めた方が良いって話になったのが始まりだと」
「へえ……」
折角なので、入口近くの店に入ってみる。
その店は、洋服を扱うところだった。
「いらっしゃいませ」
適当に見て回る。
ふと、その中で一着気になって手に取った。
綺麗な藍色のワンピース。
グラデーションになっていて、上は白に近い藍色で裾に近づけば近づく程、濃い藍色に染まっている。
「そちらは、新作です。薄くて柔らかいですが、ホワイトスパイダーの糸を使用しているので丈夫なんですよ。染めたのは新しい技術で……」
「……え、ホワイトスパイダーですか?」
ホワイトスパイダーは、魔物の中でも危険な存在だ。
何せその危険度は、Bランク。
国軍の一部隊で、やっと討伐できるレベルだ。
当然、それだけの強さを誇るホワイトスパイダーの部位や糸は入手が困難。
貴族に人気ということもあり、それらを使った品は非常に高い。
「ええ、そうですよ」
それが何か、と言わんばかりに店員さんは首を傾げていた。
……ああ、なるほど。この店は、高級品を取り扱う店なのかと思って値札を見たところ……別の意味で驚いた。
「え……この値段」
安い。……安過ぎる。
私でも、手が届くぐらいだ。
王都でコレが売られていたら、少なくとも桁が三つは違うだろうに。
「これ、本当にホワイトスパイダーの糸を使っているんですか?」
「え、ええ。勿論。少々価格が高めなのは、最新鋭の染色技術を使用しているからですが……その分、美しいグラデーションとなっています」
高い? いや、逆だろう。
どうして、ホワイトスパイダーを使っているのにこの値段に抑えることができるのだろうか。
そんな疑問を抱えつつ、私は店を離れた。
「……あの、ルフェさん」
店の前で待っていたルフェさんに、声をかける。
彼は面倒くさそうに、顔を上げた。
「この領地では、ホワイトスパイダーがよく出没するのですか?」
「ホワイトスパイダー? ああ、あれ。そうだな。森とエンダークの境あたりによくいるな」
「……ホワイトスパイダーの糸でできた服が置いてあったので、気になったんです」
「ふーん。王都では、珍しいのか?」
「え、ええ。……あの、ちなみに……ホワイトスパイダーは誰が討伐されているのですか?」
「外隊の仕事だ」
「外隊?」
「ウチの領地は、防衛の下に外隊と内隊がある。外隊は、外敵……ようは魔物だな。そいつらと戦う部隊。そんで内隊は領地の治安を取り締まる部隊。大体、六対四ぐらいの人員構成だったっけか。まあ、詳しくはミフネアに聞け」
「え、ええ。……ありがとうございます」
それから私は店を見て回ったけれども、一店目の衝撃が覚め止まず、どんなものを見たのか結局あまり覚えていなかった。




