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暁に立つ吸血姫  作者: 澪亜
第一章 過去編
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吸血鬼は、取引をする

目が覚めると、知らない天井が映る。

横を見れば、アウローラが眠っていた。


「ノックス、起きたのか……具合はどうだ?」


カミルが心配気に問いかける。


「大丈夫だ。……ずっと付いてくれていたのか?」


「エルマと交代してたから、ずっとって訳じゃない。街の英雄様たちだ……皆、様子を気にしてる。けど、流石に全員で押しかけたら邪魔だろ? だから、俺とエルマが代表者ってことで」


「そうか……」


「お前たちが連れてきた人たちは、俺の家で休んで貰ってる。狭くて申し訳ないが」


「否、助かる。突然、済まない」


「いやいや、お前が俺たちの街を救ってくれたことに比べれば、何でもないだろう」


ノックスは苦笑を浮かべつつ、起き上がった。


「……込み入った話かもしれないが、あの人たちってお前の同郷か?」


「ああ、そうだよ。……俺たちの故郷は、今回の件で壊滅。生き残ったのは、彼らだけだった」


「それは……悪い。言いづらいことを聞いた」


「気にするな。どうせこれから、この街の人たちに話す必要がある」


「……どういうことだ?」


「できれば、俺たちをこの街に住まわせて貰いたい。正直、故郷は壊滅状態だ……期間限定でも、この街に住まわせて貰えた方が、まだ安全なんだ」


「そっか……そうなると街役場なんだろうけど、今機能してないからなー」


「あんな事件の後だ、それもそうだろうな」


「いや、多分ノックスが思ってるのと、ちょっと違うぞ。一番の原因は、街役場の上層部とか富裕層が、こぞって事件が起こってすぐに逃げたんだ」


ノックスは一瞬、驚いたように目を見開いていた。


「……そうか。それは……残念だな」


そして、絞り出すように呟く。


「全くだ。戦えとは言えないが、まさか見捨てるとはなあ。残念、としか言いようがない。……それはさておき、そんな訳で街は混乱している。とは言え、すぐに解消されるとも思えない。だから、俺のところで何人か知り合いに当たってみるけど、あまり期待はしないでくれ」


「ありがとう。……だとすると、そうだな。この事件の犯人の情報も話したい」


「そりゃまた、随分と大きな話だな。……分かった、少し待っててくれ」


ニコリと笑って請け負うと、カミルは部屋から出て行った。

ノックスはその背を見送ると、アウローラに視線を向ける。


幸いにも、傷はない。表情も、穏やかだ。

ホッと、彼は安堵の息を吐いた。


……吸血鬼ならば、あの程度の傷は完治する。

頭ではそう分かっていても、感情は別だ。

彼女が怪我をした時、血の気がひいた。

同時に、ヴラドへの怒りで目の前が真っ赤になった。

そしてあの時の怒りは、今なお胸の内で燻っている。


怒りを抑えるように、彼はゆっくりと息を吐く。

そして気持ちを切り替えると、静かにアウローラの様子を見守っていた。


それから陽が沈む頃、カミルが戻って来た。

ノックスが思っていた以上に、戻りが早い。


「今すぐ会わせてくれってさ。自警団と街役場の暫定トップがそれぞれ待ってるよ」


「……それは、凄いな」


「俺がっていうより、お前だからね。街の英雄様の話だから、とりあえず聞いておいた方が良いだろうって結論」


「そうか……カミルも一緒に来るか?」


「……俺、偉い人たちと同じ部屋とか無理なんだけど」


「そうか。できれば聞いておいて欲しいが……無理強いはしない」


「ノックスがそんなこと言うなんて、珍しいな。……しゃあねえ、行ってやるよ」


「恩に着る」


「あ、ノックスがいない間の看病役としてエルマを呼んでおいた。……と、噂をすれば……」


丁度そのタイミングで、エルマが病室に現れる。


「噂って、なあに? まあ、どうせ碌でもないことでしょうけど」


エルマの言葉に、カミルとノックスは揃って苦笑した。


「いやいや、言葉の綾だって。丁度、お前が来るって話をしていただけ」


「そう? ……ノックス。アウローラは私が看ておくから、存分に話し合いをしてきなさいな」


「助かる。それじゃ、カミルは借りてくぞ」


「私のじゃないけど、どうぞご自由に」


「……俺の扱い、酷くない?」


ボヤくカミルを引っ張って、ノックスは待ち合わせの場所に向かう。

そこは、街の中で数少ない無事な建物だった。


「ノックスさん、ようこそ。お待ちしておりました」


建物に着くと、慌てたように一人の男が出迎えた。


「こちらこそ、ご多忙なところ時間を頂き感謝しています。よろしくお願いします」


「こちらこそ、よろしくお願いします」


建物の中には、多くの人がいた。

誰もが薄汚れ、それでも目を輝かせてノックスを見ている。

彼らから『英雄様だ』という小さな呟きや『ありがとうございます』という感謝の言葉が聞こえて来た。


「皆、避難して来た人たちです。元は街役場だったので、襲撃の際に避難所として解放したんです」


「そうだったんですか……」


進むたびに段々と人の往来が減っていき、やがて扉の前で足を止める。


「こちらです」


そう紹介してから、彼は扉をノックした。

すぐに「どうぞ」と言う声が聞こえて来て、彼が扉を開く。


「ノックスさん、ようこそ」


そう言ったのは、部屋の奥に座る人物だった。


「エイシャルと申します。暫定的に役場の責任者を務めさせて頂いています。横に控えるのは、同じく役場で働くヴァズとシオンです」


学者然とした姿なのだけれども、今はあちこちがよれていて、疲れているという印象が強い。


「俺は、ダンだ。自警団の団長をやらせて貰ってる。申し訳ないが、自警団からは俺だけだ」


「ご多忙なところ、お時間を頂きありがとうございます。私の名前は、ノックス。よろしくお願いします」


「ノックスの友人、カミルです」


「どうぞ、そちらにお掛け下さい」


「では、お言葉に甘えて」


「……あまり固くならないでください。カミルさんから聞いているかもしれませんが、本来の私はただの中間管理職です。街一つ任せられるような権限を持っていません……でしたが、不幸な事故が重なって、こんな偉そうな席にいる訳です」


「そうだぞ。俺も、正直混乱している」


「……警備隊も、ですか?」


「身内の恥を晒すようだが、多くは上役たちの護衛としてついて行っちまったんだよ」


ノックスの問いに、ダンは顔を顰めながら吐き捨てるように応える。


「ああ……そうだったんですか」


「それよりも、今回の件は本当にありがとうございました。貴方たちのおかげで、沢山の命が助かりました」


「その内の一人は、俺だな。危なかったところを、救われた。本当にありがとう」


エイシャルとダンが揃って頭を下げた。


「顔を上げてください。当然のことをしたまでです」


「いいえ……街の住民ではないのにも関わらず、貴方たちは命を賭して、街を守って下さいました。街を取り纏める者として、感謝をしなければなりません」


「そうだな。あの魔物たちは、いずれもここ最近、類を見ないほど強力な奴らだった。……俺らじゃ、歯が立たなかったんだ。お前みたいな腕の立つ人が助力をしてくれたこと自体、奇跡みたいなもんだ」


二人の言葉に、ノックスは静かに頭を下げた。


「……今日は更に、犯人の情報を頂けると伺っていますが……」


……少し回り道になるが、一から説明する。

そう、彼は前置きをしてから始めた。


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