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SHADOW BIRD  作者: 下野 遊々
1章.闇討ち烏は闇夜に嗤う
9/103

9羽:Answerを重ねて

 奇妙な静寂が場を支配している。


 言い切った大智の言葉を無言のまま吟味する恭介。対する大智は言い切った解放感と、答えを待つ緊張感がごちゃ混ぜとなり、複雑な顔持ちで様子を窺っている。


「……その結論に至った経緯を聞いてもいいか?」

「……は、はい!」


 返答をたっぷり焦らした恭介だが、解答だけを聞いてマルバツをつけてはくれないようだ。ただ大智とてあてずっぽで答えたわけではない。


 『対象を強化する能力』については、先に示したが、改めて説明をする。


 恭介の身のこなしや、攻撃の威力などが身体強化なしには語れないこと。また”日輪(サンリング)”を相手に欠けもせず、破壊して見せることから武器の強化も言及。総合して身体強化に留まらない、『対象を強化する能力』だと結論付けた。


「そして『存在を認識できなくさせる能力』、認識阻害とでも言いましょうか」

「ああ」

「それには自分と周りの反応が違ったことと、”日輪”の不発からたどり着きました」


 甘菜の証言なしには導き出せなかった答え。


 強化能力とは系統が違いすぎると、突っぱねたほかの候補とさほど変わらない。それでも今は確信をもってこれが恭介のもう一つの能力だと言える。


 甘菜の話によると、恭介は跳躍で”日輪”を回避したらしい。


 しかし、それは”日輪”の性質上ありえない。多少のブレなどはあるかもしれないが、対象を中心に回る”日輪”は、スピードで避けられるようなものではない。それが避けられた上に消滅した。


 そのことから、”日輪”の消滅は耐久値を上回る攻撃を受けて消えたものではなく、大智が恭介を、「対象」を認識できなくなったがゆえの効果だと推測した。


 そうすれば、大智が恭介を見失ったことも説明がつく。


 瞬間移動や透明化などでは、見失った説明はできても”日輪”が消えたことや、周りとの反応の違いに説明がつかない。



「……以上が、俺の見解です」

「……」


 大智は捲し立てるように一気に話を終え、後は恭介の返答を待つのみとなった。目を伏せ無言で腕組みをし聞いていた恭介は、顔を上げ答え合わせの解を告げた。


「大智、正解だ」

「……! ……それじゃあ……!?」

「ああ、俺が組手で使ったのは『対象強化』と『認識阻害』の技能で間違いない」


 よしっ、と体の前でガッツポーズをする大智。


 いまいち状況を呑み込めてない甘菜もおめでとーとぱちぱち祝福をする。両者とも緊張がほぐれたのか、楽な態勢に座りなおし、会話も緩やかに流れていく。


「正直『認識阻害』の能力まで当てられたのは悔しいな……」

「いや、甘菜さんの証言がなければ全然分かりませんでしたけどね」

「あれ、じゃあ私の一人勝ち!?」

「お前は何と戦っているんだ」


 僅かな時間の中で、相手の能力を推測していく。


 技術的な動きや能力の使い方以上に教えたかったことを、大智は貪欲なまでに吸収していく。相手の能力が早めに予想できるようになれば、それを軸に戦い方を組み立てることができる。


 もちろん、決めつけは厳禁だ。


 だがそうすることで、情報がない相手だったとしても格段にリスクを減らし、勝ち筋を見出すことができるようになるだろう。


「恭介さん、『認識阻害』の能力のこと、もっと教えてくださいよ」

「調子に乗るな。と言いたいところだが、今回は完全に読まれたわけだしな」


 恭介の承諾に、大智は思わずガッツポーズで返した。


「よし! ……でもなんでそんな隠すんです?」

「別にばれたら効果がなくなるってわけでもないが、自分の武器をわざわざばらすほうがおかしいだろう」

「まあ確かに」


 恭介曰く、能力を大見得切ってばらすのは、ただのばかか、自分の能力に絶対の自信がある能力強者だけらしい。


「正直能力を知ろうが、対策の立てようのない化け物がいるのも確かだが」

「恭介さんが言うと説得力が違いますね……」

「正しい情報と間違った情報を織り交ぜて、戦いを優位にするすべもあるが、慣れないうちはとにかく情報の扱いには細心の注意を払え」


 この情報社会の中で、発信したつもりはなくても、広まってしまうということはままある。ましてや、その情報が自身の生命線でもある能力情報ともなれば、その扱いには当然注意が必要だろう。


 対恭介戦においても、今回で『対象強化』と『認識阻害』の能力があることが分かった。”日輪”のタゲを簡単に外されるのであれば、”日輪”での拘束という手段はお蔵入りとなり、より守りを固めた戦術が有効となるだろう。


 あるいはそれを逆手に取り、『認識阻害』を使わざるを得ない状況を作り出し、そこから攻めるという方法もあるかもしれない。幸いにも大智の能力『紅焔(プロミネンス)』は広範囲の攻撃も可能だ。


 いずれにしろ、恭介とのタイマンはかなり分が悪い賭けとなるのは、間違いなさそうだった。


「しかし、一度は自分の中でもナシになったんですけど」

「ん?」

「恭介さんの二つの能力、系統が違いすぎるじゃないですか。それって何か秘密があるんですか?」

「あー……」


 頭を掻きどこまで話すべきか考える恭介。


 いつもの恭介であれば、あっさり突っぱねるシーンではあった。だがキラキラした目の大智と、ついでに隣で煽る甘菜のプレッシャーに負けたのか、情報を小出しながらも教えてくれた。


「まあ確かに俺の能力を推測するということ自体、いやらしい問題でもあったからな」

「……と言うと?」

「『対象強化』については、付属的な能力でな。俺の能力の本質は『認識阻害』のほうだ」

「あれだけ苦戦したのに、付属的な能力……」


 唖然とする大智に、何故か自慢げな甘菜のドヤ顔が刺さる。二人は幼馴染で付き合いが長いということもあり、能力についても一通り知ってそうだった。


「初見の能力者と対峙するとき、一言でどういう能力者と言えるか」

「はい、それを見極めるのが攻略の一手、ですよね」

「そうだな」


 間髪入れずに答える大智に、恭介は少し笑みを見せ相槌を返す。


 これは能研データベースにもあることだから言ってしまうが、と前置きする恭介。大智は食いつかんばかりの勢いをなんとか内々に止め、そっとその答えを待つ。



「能力名は『虚構支配(ハーデス)』。俺は、精神系能力者だ」

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