プロローグ 夢
はじめましての方も、いつもお読みいただいている方も、ご覧いただきありがとうございます。
主人公は、歴代最年少で『聖王大聖女』となった少女、ソフィア。
世界中から敬われる彼女ですが、その実態は――
真面目すぎて、休み方が分からない女の子。
人生初めての一週間の休暇を与えられたソフィアは、
街を歩き、
恋愛劇を観て涙し、
料理に挑戦し、
気付けば休日なのに仕事を始めてしまいます。
これは、世界最高峰の聖女が、少しだけ”普通の女の子”になる物語です。
本編や他作品を未読の方でもお楽しみいただける内容となっておりますので、どうぞお気軽にお楽しみください。
幼い頃のソフィアには、一つだけ大きな夢があった。
「わあ……!」
教会の礼拝堂。
壁いっぱいに描かれた歴代の聖者と聖女の肖像画を、幼いソフィアは目を輝かせながら見上げていた。
教会の象徴――聖者と聖女。
男性なら聖者。
女性なら聖女。
そして、その中でも特に偉大な功績を残した女性だけが、大聖女の称号を授かる。
一人は、世界へ平和をもたらした伝説の大聖女――エリアネ。
一人は、魔王の時代を終わらせた英雄――ミュゲ。
二人は今なお人々から深く敬愛され、子どもたちの憧れとして語り継がれている。
「お母さん!」
ソフィアは振り返り、満面の笑みを浮かべた。
「私、大きくなったら聖女さまになります!」
母は優しく微笑んだ。
「そう」
「どんな聖女になりたいの?」
ソフィアは迷うことなく答える。
「エリアネ様やミュゲ様みたいな大聖女になりたい!」
その瞳は、夢だけを映していた。
人を助けられる人になりたい。
困っている人を笑顔にできる人になりたい。
ただ、それだけだった。
その時だった。
ふわり、と。
ソフィアの小さな両手から、淡く優しい光が溢れ出す。
「あっ……」
礼拝堂を包む温かな光。
まるで春の日差しのような、穏やかな輝きだった。
母は目を丸くし、やがて口元へ手を当てる。
「まあ……」
父も静かに息を呑んだ。
「光魔法……」
光魔法。
火、水、風、土――四つの基本属性には属さない、極めて稀な魔法。
その発現者は歴史上でもごくわずかしか確認されておらず、多くは後に聖者や聖女として名を残してきた。
まだ幼い少女が、その希少な才能に目覚めたのである。
ソフィア本人は何が起きたのか分からず、きょとんとしている。
「お母さん?」
「光りました……」
母はしゃがみ込み、小さな娘を優しく抱きしめた。
「おめでとう、ソフィア」
「あなたの夢への第一歩ね」
「はい!」
ソフィアは嬉しそうに笑った。
夢へ近づけた。
それだけで胸がいっぱいだった。
この日から、ソフィアは毎日光魔法の勉強を始める。
人を助けられる聖女になるために。
憧れの大聖女へ、一歩でも近づくために。
しかし――。
その夢が叶った先で。
史上初の『聖王大聖女』という重すぎる称号を背負い。
毎日、自分には相応しくないと胸を痛め続けることになるとは。
この時のソフィアは、まだ知らなかった。




